七夕の夜
あのプレゼント事件(?)で部活内が気まずくなると思いきやごく普通の生活に見える。ただ、そう見えるだけだ。
「……なんだ、これ」
俺と麻由美が学校から帰ってきていた時だった。俺の家の前を通った時に気づいたんだが――
「そっかぁ。今日、七夕だったね」
「そういや、そうだな」
俺の家の小っさい庭に大量の笹が立っていたのだ。これはどういうこった……。
一体誰だ。毎年毎年、こういうイベントが来ても何もしてこなかった我が家の掟に逆らった奴は!!
「あっ! お兄ちゃん!」
俺と麻由美が家と向い合わせになってる時に扉が開いて中からどっかで見たような顔の女の子が出てきた。
「あ~、明梨ちゃんだ~」
「おにいちゃ―― ゲッ!!?」
そうそう、出てきた女の子の正体は明梨だった。いやー、兄として悪いんだが、明梨の顔はやっぱ覚えられん。
今日はいつものリボンをつけずにポニーテール。リボンないだけで印象が変わるのはなんでだ?
しかも、こいつ麻由美を見た瞬間「ゲッ!!?」って……そういうのはなぁ……。
「こら、明梨。麻由美は一応先輩なんだから、敬語ぐらい使え。中三なのにお前はもう……」
「一応ってひどくない!? 別に気にしてないよ。そうくん」
こいつの明梨への対応はほかの奴と関わる時よりぬるい。
「そういえば、おまえの手に持ってるのって……」
「ふっふっふぅ……。気づいてしまいましたかぁ……。じゃじゃーん! 笹でーす」
見たらわかるわ! とりあえず、犯人は恐らくこいつだな……とはわかる。
「おまえな……、我が家の掟に逆らう気か?」
「面倒くさいだけじゃん。だから、あたしが松坂家に革命を起こすの!」
「お前は頭に革命を起こしてくれ」
中三で受験だというのに、こんなにはしゃいでさ。つい先日、明梨の部屋に行った時に机に座ってシャーペンを持って指を走らせていたから「勉強してるのか? 頑張れよ」「うん、がんばる」とか言ってさ! 近くに行くと四コマ漫画書いてたしさ! しかも、何気にめちゃくちゃ絵がうまいしさ!! 兄として困っちゃうよ、もう。
「おい、そうすけ」
肩を後ろから掴まれて一瞬ビクッとした。振り返ると、状況が理解できないもんになっていた。
「「こんばんは~」」
そこには来遊部のみんながいた……。
「何しに来たんすか。だてみち先輩!!」
「今日は一年に一度のイベントが」
「それはわかりますよ! なんでここにいるかだよ!!」
「俺たちでここの道を歩いていたら、あら不思議。笹がたくさん生えた家がありました」
「いいから、てめぇら帰れー!!!!!」
なんで、こいつらが……
「はぁ……」
折りたたみ椅子に座ってため息をついた。もう夜九時になって、真っ暗な中で俺の家の庭でコンビニ弁当をだてみち先輩らはがやがや喋りながら食べている。麻由美は家で晩飯を食べてからここに来ている。
お祭り気分だった明梨は塾で今はいない。あいつ……やるだけやって行きやがって……!!
「あんたねぇ、あいつら連れてきて何する気よ」
母さんが俺の隣でだるそうな顔をしてタバコを指に挟んでヤンキー座りしている。
「俺が連れてきたんじゃないよ。てか、なんで笹があることわかったんだ……」
「あんたが連れてきてなくても、あんたのダチなんだから連れてきたも同然よ」
「どんな理屈だよ! まず聞くけどね、なんで、笹を飾ってるの?」
「明梨が小遣いで買ってきたのよ。一本でいいのに、こんな何十本も買うなんて思わなかったわ」
「明梨はやっぱバカだな。もう森みたいになってるし」
「あんたがいうことじゃないわよ」
こんな話をしていると弁当を食べ終えただいきちがこっちに来て母さんの前に立った。
「温子さん」
「どうしたの?」
母さんは家庭外では優しい母として見られるように振る舞うのだ。つうか、だいきちのやつ、なんで、母さんの名前知ってんだ。
「笹に短冊つけて宜しいでしょうか」
くだらねぇ質問してんじゃねぇ。
「あぁ、いいよ。笹にたくさんつけて構わないよ」
いつもの母さんなら「あぁ? いいよとでも言うと思ってんの? つけたらぶっ殺すわよ」と言い出す。
ほかの皆も弁当を食い終えて短冊をつけているが、同意を得に来たやつはだいきちだけだ。こいつはこういう時に礼儀正しい。
俺は暇だったし、少しずつ増えていく短冊を見に行くことにした。
うーんと、どれどれ。あっ、この緑っぽいやつ見よーっと。
アームヘルプオンラインの世界ランク4以上目指す I.O
絶対これはだいきちだな。あのゲームってAHOだったのか。CMでよく見るし、意外とあいつも時代の波に乗ってんのな。つうか、願い事じゃねぇし! 次はだなー、別の笹に変更だ。お、オレンジっぽいのにしよう。
あの人と付き合えますように
誰だー。イニシャルぐらい書けやー。でも、誰かが恋してるってのはわかるな。あの人の正体が気になるんだけど、まぁ、しゃあないな。
次はこれだ。黄色っぽいやつだ。
かっくんと一緒に――
と読み終える前に俺は後ろから思いっきりお尻を蹴飛ばされた。
「いってぇ!!」
振り返ると、美波が立っていた。
「おまえ……俺が何かしたかよ!?」
「人の短冊を見るなんてダメに決まってんじゃない! もう……見られたらどうすんのよ……」
最後のほうがよく聞こえなかったんだが。
「なんだって?」
「う……うるさい! バカ!」
俺のこの行動とこいつの言動を見るともしかしたら……。
「まさか……おまえ……変なこと書いたんじゃねぇの? でさ、どの笹に飾ったか忘れたんじゃないか?」
「くっ……!!」
おぉ、やべ。導火線に火つけちまったかな。
殺気に満ちた美波から素早く離れた。でもまぁ、あいつの言うとおりではある。人への思いも書いてる可能性あるしな。けど、一応言うとね、俺の妹の笹なんだよ?
そして、皆が帰ったあと生まれて初めての七夕で俺は願い事を短冊に書いた。
来遊部のみんながずっと元気でいられますように、と。
春休みに入ってしまいました。あぁ、中三になるのか……実感が少ししかないのが辛いです




