悩む心
テストの点数が上がったからといって、誰に褒められるわけでもない。自己満足で終わってしまうのがオチだ。 母さんにテストの点数について話した時がその例だ。リビングで俺がテスト明けでくつろいでいて、母さんが料理をしていた時だ。
「母さん」
「なに? そんなにあたしにどつかれたいわけ?」
「親として恥じるべき言葉だな! 違うよ、テストだよ」
「また赤点ギリギリなんでしょ。一回死んだほうがいいわよ」
キャベツを切りながらそう言った。少しはまともに話聞けや。母さんは元ヤンキーだったから、昔の名残で家では常にこんな調子。外では、「あら、奥さ~ん。おはようございます~」と汚い声を発してやがる。正直キモイ。裏声使ってんじゃねぇよって言いたいわ。
「点数が上がったんだよ」
「じゃあ、いつ死ぬのよ」
「どんだけ死にこだわるんだよ! 親としてヤバイよ、ガチで」
「はいはい。で、何点上がったのよ」
この家では高い点数を取るより、どれだけ点数が上がったかを気にする系統だ。下がったら下がったで別になんともないんだけど。
「五十点」
「処刑ね」
「えっ!? なんで……」
キャベツを切るのをやめて包丁をこちらに向けてくる。
「あんたの点数の場合、二桁じゃ無理ね。三桁目指しな」
「これでも頑張ったほうだけど? 明梨は俺よりひどいと思うんだけどな」
「明梨はもういいの。諦めたわ」
「諦めないで! 信じてあげて!」
キャベツを再び切り始めた。
「あんたやっぱ無理だわ。喋ってたらイライラすんの」
「……もういいっすわ」
とまぁ、ひどい母親なんです。俺があの人の血も流れてるって信じたくなくなるよ。
テストが終わった時には、既に夏らしくなっていた。暑い暑い。
部費と自費とかでエアコン買おうぜ? って思うんだけど。俺だけの考えではないだろう、多分。
「ちーっす」
部室に入ると、だてみち先輩だけだった。あれ……掃除し終わってきたのに誰もいないの?
「そうすけか」
妙に声が小さい。いつももう少し声が張っているのに……何かあったのだろうか。
「何かあったんすか?」
「……別に」
ついには俯き始めた。ちょっとちょっと。二人きりの状況で一人が俯くって状況はどうなのよ。俺が悪いみたいだし、気まずいんだけど。俺はとりあえず席についた。
「先輩らしくないんすよ。そういうの」
「……」
「聞いてんすか」
「……」
……チッ。苛つくぜ、ほんとに。まぁ、いいや。話題を変えようか。
「……ほかのみんなはどこですか」
「今日はオフだと伝えた」
「じゃあ、なんで先輩はここにいるんですか」
俺は自然と強い口調で話していた。
「……」
「いい加減にしてくださいよっ!! なんなんすか!? この状況といい、先輩といい。何か言いたいことあるんじゃないんですか!?」
こんな短時間で苛つく内容なんて冷静に見ればどこにもないはずだ。けど、これは去年の同じ頃にもあったことだったからだ。去年も、二人きりにさせられて落ち込んだ様子でいて……聞いてみても答えなかった。去年はそれで終わっていた。けど、二回も同じことがあれば別だ。
「答えてください!」
「…………びなんだよ」
「……えっ?」
「日曜日、未華子の誕生日なんだよ。プレゼント……あげたくてさ」
だてみち先輩と白土先輩は昔から幼馴染で古い付き合いだ。部室内では見せないし、避けているように見えるが、だてみち先輩と白土先輩は両想いなのだ。けど、お互い片思いだと思っていて、それでいてお互いに気持ちを伝えられないでいる。それは見ていて辛いし、助けたくなる。けど、先輩は人に助けてもらうことがどういうわけか嫌いである。だから、どんなにじれったくても何もできない。この内容は俺とだいきちが知っている。両想いの件についてもだ。
それなら、もうわかっている。
「手伝いますよ」
「……本当か?」
「去年はあげられなかったんでしょ? 今年はちゃんとあげましょうよ。そして、気持ちも……伝えてはどうですか」
「……そうだな。今年は……必ず……」
俺と先輩は目を向き合った。
「土曜日にプレゼント買いに行きましょうか」
「……ああ。よろしく頼むよ」
自分の心の中のじれったい気持ちを消したいだけかもしれない。それでも、俺は手伝いたいと思った。これでいいんだ。これで。
題名が思いつかなかった……てことでシンプルにつけました。
最近、前後編あるパターン続きですが、ずっと起こるわけではないと思います。




