終焉
あれから数時間。陽が昇り始め明るくなる空の中、私は病院へと向っている。
「……ふぅ」
もう何度ため息を吐いただろうか。
これから状況説明する事を考えると、
「……はぁ」
ため息が止まらない。
「どうやって」
私の言い分を通す?
……無理っぽいな。相手は彼だ。
何となく見上げた先にぼんやりと空を見ている男がいる。大人しくしている様だがそのままだと良いな……。
「解った。俺も行く」
やっぱり無理だった。
「何処へ?」
ベッドから降りて剣を手に取る。
とりあえず今私に出来るのは時間を稼ぐ事だけ。
病室に入る前に打っておいた対策を行うには時間が掛かる。
「早く行こう。あ、詩月達にも連絡入れないと」
「彼等は一般人ですよ」
「それで止まる様な奴に見えたか?」
「いいえ」
どちらかと言うと妹さんの方が。と言い掛ける。
「だろ? なら、早く行かないと。軍の連中と揉めてたら面倒だ」
貴方を止めるのも面倒なのだが……。
と言ってしまいたい衝動に駆られる。
それをグッと喉で止めて、私は余裕を見せてテレビを点ける。
「そんな事してる場合かよ。ほら」
「ま、そんな急がなくても」
「だから、詩月達が…」
扉をノックする音で話を止めるα。
来た! そう直感する。
「どうぞー」
私が部屋に招き入れる。
「失礼します」
入ってきたのは『ゴツイ騎士達』
「な……」
あまりに予想外だったのか固まるα。
「……」
五人の『ゴツイ騎士』達が入ってくる。
パチン、と指を鳴らして、
「じゃ、言った通りにお願いします」
「はっ」
「え、何?おい……なんだよ」
五人がαに群がり、手際よく縛っていく。
「じゃ、後は頼みます」
「はっ!」
五人が声を揃えて返事してくれる。
その内の一人が、
「これを……」
折れた剣の代わりを持って来てくれた。
これで本部へ取りに行く手間が省けた。
「ありがと」
それを受け取りホルダーにセット。
これは官給品なので頼りない気もするが、それは気にしな事にする。なにせタダだし。
「おい!ちょ……」
喚いているαを置いて部屋を出る。
トイレに入り鏡の前で目を閉じて、スーと息を吸って吐く。
目を開けて鏡の私を見る。
「大丈夫……」
久しぶりに緊張している私。
それを解すためにやっていたおまじないを久しぶりにやってみた。
我ながら情けないと言うか何と言うか……
鏡の私が微笑んでいる。
それに頷いて返してトイレから出て行く。
暗い室内。そこで陽の光を頼りに包帯を巻いている。
「こんなトコかな」
公園で受けた傷の手当を終え、一口水を飲む。
「ふー」
血は止まったが痛みはそのまま。
右腕をぐるぐると回してみる。
「……っ」
痛みはある、だが動かせない事は無い。
「あの三人以外は使わない方がいいか」
希望だが、本気でそう思う。
立ち上がり、体を伸ばす。
「ん……」
時計を確認して、
「後は、これの調整をして」
武器を手に取り、メンテナンスを始める。
「後は……」
カチッとボタンを押して、起動確認。
いつも通りに光を放っている。
最後に水を飲み干し、
「行くか」
カップをそのままに部屋から出て行く。
……帰ってこれるかな。
…らしくない、感慨にふけるなんて。
苦笑しながら雑踏に紛れて行く。
「思ったより……人いないね」
「その方が良い」
「それもそうだね」
俺達は今、『メイシティ軍演習場』前にいる。
目の前には基地内に通じているゲートがある。その前には俺達を睨む様に立っている警備兵が。その手には銃が持
たれている。
それもその筈。俺達も武器を持っている。
そんな警備兵に愛想笑いをしながら、
「時間早かったかな?」
「そうかも」
公園での一件の後、直に家に帰りそのまま仮眠。三時間後千佳に叩き起されて今に至る。
「時間ぐらい教えてくれても」
腕時計を確認しながら、ぶつくさ文句を言っている。
「すいませーん」
何を思ったのか警備兵に、
「あの、偉い人は何時来るんですか?」
「馬鹿! ……すいません。すいません」
「何謝ってるの? ……ちょっと引っ張らないでよ」
「ちょっと来い」
そのまま引っ張ってゲートの外へ、
「アホか? お前?」
「何が? 解らない事を聞いたんじゃない?」
文句ある?と挑戦的な態度。
「アホ。変に警戒されたら色々と面倒だろ」
「大丈夫だって」
その根拠は何処にあるんだ?
「君達そこから離れて」
恐い顔した警備兵から声を掛けられる。
「あ、すいません」
千佳の腕を引っ張って行く。
「ここまで離れなくても」
「おい。あれが見えないのか?」
いつの間にか集まっていた報道陣。
「おぉ。映るかな?生かな?」
髪を指で梳いて整える。
「映りたいのか?」
「……さぁ?」
ニヤッと笑う口元。
……映る気マンマンじゃないか
「さ、何時でもいいよ」
誰もお前を待って無いよ。と言いたいがこれ以上警備兵に睨まれるのは嫌なので言わない事にした。
「お、来たぞ」
その声にゲートの正面を見る。
確かに軍用車に護衛された高級車が一台来た。
「来るかな?」
「だろうな」
俺達は身構えて『死神』の襲来を待つ。
車に群がる報道陣。
ゆっくりとしたスピードで基地に向う車。
まだ、基地までは距離がある。
先頭の車が基地に入る。
続いて高級車が入ろうとした瞬間、
報道陣から悲鳴が上がる。
「行くぞ」
「了解!」
千佳と二人飛び出して行く。
「抵抗しなければ死なずに済んだのに」
警備兵を斬り、車の前に立つ。
「邪魔をしないでくれ」
報道記者達から沸きあがる悲鳴。それが僕の声を掻き消す。
次々と降りてくる兵隊達。
僕の声が聞こえ無かった様だ。銃を構える兵達に向い鎌を振るう。
血と悲鳴が飛び交う中、最後通告を行う。
「邪魔するのなら殺すよ」
それでも向ってくる。
「言ったよ。僕は」
撃つ間など与えない。
構えた瞬間に間合いを詰め、薙ぎ払う。
護衛されている車の中に目的の人物がいるのを確認。
どうやら彼等は来ていないのか?それとも間に合わなかった?
そんな事が頭を過ぎる。
どうでもいいか。僕は僕の目的を……
護衛をしていた車が邪魔で車で逃げる事は出来ない。だから、車から降りて基地内へ逃げ様としている。
その最短距離を駆け抜ける。
「終わりだ」
僕の間合いに入り、鎌を振り上げる。
パニックを起している人混みが邪魔で進めない。
「うわ! ここにも!」
一人が俺達を見て、騒ぎ出す。
その瞬間、神が与えてくれた奇跡なのか俺と『死神』との間に人がいなくなる。
大体の目測で距離はギリギリ。
照準をつけている暇は無い。
「気を逸らせれば」
ワイヤー発射。
神はもう一度俺に奇跡を与えてくれた。
「な」
「うお〜。兄ぃ。凄い!」
振り上げていた鎌にヒット。その衝撃で鎌が弾かれる。
それで『死神』が俺達に気付く。
「やはり」
「来たよ!」
一気に間合いを詰めて、剣を振るう千佳。
「君も」
「当然!」
下がっても詰める千佳。それに俺も加わる。
千佳の攻撃後の隙を俺が埋める。そしておれの隙も千佳が埋める。
その連続攻撃を凌いでいく『死神』
「く……」
苦しそうだが、目にはまだ余裕が見られる。
俺達の攻撃の後、その後から突き出される剣。
「遅れた?」
「君がいたな!」
ヘレンさんが俺達の攻撃に加わる。
三人による波状攻撃に耐え切れず、
「流石に……これは」
後に下がり、そのまま走り出す。
『死神』は基地内へと逃げ込んだ提督を追いかけて行く。
その後を俺たち三人も続く。
邪魔な警備兵を斬り倒し、基地内を進んで行く。あの怯えた顔を見た瞬間から、もう殺す事に意味は無いと感じて
いる。
だが、そうしないと僕の目的から外れる。
意味の無いジレンマを抱えてまた立ち塞がる兵を斬る。
何処に居る。早く見つけないと…。
「何処?」
「知るか! 探せ!」
手当たり次第にドアを開ける。
両側の壁に飛び散った血の後と通路には倒れている兵士。その後を追いかけているのだが
『死神』の姿は見えない。
「……まったく」
ドアの前に倒れている兵士をどけて部屋を調べる。
「いた?」
「いない。何処に?」
廊下の奥から剣戟と悲鳴が聞こえた。
「急ごう」
頷いてヘレンさんの後を追いかける。
迂闊だった。こうなる事予測していなかったな。
部厚そうな隔壁の前に立ち尽くす。
どうする?戻る?
……あの三人に鉢合わせるな。
かといって他に道は無い。
倒れている兵士に聞こうにも……返事が無い。
「しょうがない」
倒れている兵を抱き起して、
「ゴメン」
と謝る。
近づいてくる足音。タイミングを計って、
兵士を投げつける。
「うわっ!」
「あそこ!」
廊下の奥、壁の前に一人立っているのを見つける。
「……一人?」
ヘレンさんが何かに気付いた様だが足を止める事は無い。
「何か様子が……」
変だ、と思った瞬間、倒れこんできた兵士。
「うわっ!」
飛び退くヘレンさん。
その背後から、光る刃が襲い掛かる。
「ち」
倒れてきた兵士を避けた為に反応が遅れる。
「ヘレンさん!」
俺は一歩進んでシールドを展開。
左手で受け、ビームを中和。そのまま体を回転させて、右裏拳を放つ。
「が……っ」
手応えアリ。追い打ちを掛ける。
壁に飛ばされた『死神』を追いかけて、左上段蹴り、
「く……」
体勢を崩しながらも避ける。
空を切る蹴り。今度は俺の体勢が崩れる。
鎌を振りかぶっている『死神』に向って行く千佳。
速い剣を鎌で受け流し、そんまま俺達の来た方向へと走り出す。
「ちっ」
ヘレンさんが悔しそうに舌打ちし、俺たちもその後を再び追いかける。
「……この状況は」
何と言うか……。
「武装解除、してもらおうか」
基地の中庭、という所に出た俺達を待っていたのは……
銃を構えた『軍の兵士』達。
俺達は今すっかり取り囲まれている。
「えっと……」
どうするよ?兄ぃ。と目で訴えかけてくる千佳。
……俺も困ってんだよ。と目で返事。
ふ〜。と息を吐いて、目を兵士に向ける。
良かった。どうやら通じたようだ。
「私は『騎士団』所属で……」
ヘレンさんが説得に当たるが、
「それなら何故事前に襲撃の事を知らせなかった?」
「それは……」
言った所で何の対処も講じなかっただろ。と言いたいのを堪える。
「今日知ったので、通報する間が……」
申し訳無さそうに言うヘレンさん。
大きな範囲での間違いは無い。
確かに知ったのは今日だ。もう十時間以上前の事だけど。
「それで君達はどういう経緯でこの事を知ったんだ?」
「あの男が最近、ここの警察施設を襲った犯人で私達はその犯人を追いかけて来た。それで今日になって追い詰めた
のですが後一歩の所で逃げられてしまって……その時に」
表情は申し訳ない。だが、目は違ってた。
「こうしてる間にも……」
兵達の意識を『死神』に向けようとする。
「それは解ってる。その前に君達の身分照会が先だ」
ヤバ……そんな事されたら余計に面倒になる。『死神』を追いかける事が出来なくなる。
「うわーっ!」
上から落ちてくる声に思わず身を屈める。
運良く木の枝がクッションなり、命に関わる様な事は無さそうだ。
「どうした?」
駆けよる兵士。
「う、上に……」
目が恐怖で震えている。
落ちてきた兵の震える指の先には、
「アイツ……!」
口を歪め微笑んでいる『死神』が。
「退いてください!」
俺は叫びながら兵隊達の囲いを突破する。
「おい、まだ……」
「話は後で聞くわ」
「じゃ、お先でーす」
また建物内に戻り、上を目指す。
「ふー」
この階の警備兵はあらかた……。
と、思った矢先に、
「おっと」
向ってくる剣を避ける。
「不意打ちとはまた……君達には正々堂々と言う言葉が無いのかな?」
手を広げ、余裕を見せる。
「お前!」
振りかぶり向ってくるが、大振り。
難なく避けられる。
これじゃ、彼女たちの方が優秀だ。
「もっと鍛えたら?」
喚きながら剣を振る。
「でも、もう無理かな」
起動し、振り切った後の無防備な腕を斬り払う。
腕を斬られた痛みとショックで気を失い、そのまま倒れる。
残念だけどここには彼を介抱する者はもういない。
階段を駆けあがり『死神』がいた階に到着。
「ハァ……ハァ……」
膝に手をついて息を整える。
「ハァ……」
通路の先にいる。見えないがそう確信する。
整いつつある呼吸がプレッシャーで乱れる。
「……ふー」
深く息を吐いて呼吸と精神を落ち着ける。
「よし」
まだ来ていない二人。足音からもうそこまで来ていると思うが俺は待たずに先に進む。
「やぁ」
微かに聞こえる呻き声の中鎌を片手に立っている『死神』
「……これも貴方の目的の為ですか?」
「提督が逃げなければこうはならなかった」
それはそうだろう。だが、そうでもない。
「提督が逃げなくても、彼等は提督を守る為に貴方と闘ったかもしれない」
「そうだね。それが任務だから」
足元に倒れている兵達に目を向ける。
「それなら、彼等を守る為にも提督は対策を講じるべきじゃないのか」
「それを貴方は待ちますか?」
「待たないよ。でもそうする事は出来た」
武器を構えている相手に交渉も何も無いと思うのだが。
「追いついた……!」
二人が追いついてきた。これで三対一。
構える間も無く、『死神』が間合いを詰める。
「ちっ!」
横に飛ぶ俺と後ろに飛ぶ千佳とヘレンさん。薙ぎ払われる鎌の軌道は俺達じゃなく壁に突き刺さる。
「何を……」
俺と千佳、ヘレンさんの間に防御壁が下りる。
「しまった!」
「兄ぃ!」
駆け寄ろうとするが『死神』の攻撃に足が止まり、その間に完全に防御壁が下りる。
ドンドンと叩く音と千佳の声が響く。
「く……」
迂闊だったとヘレンさんの声が聞こえる。
「これで君一人だ」
震える体を抑えて、構えをとる。
「あ、貴方の目的は?」
「もう教えてもいいかな」
一呼吸置いて、
「革命だよ」
成功を確信した冷徹な目で告げた。
……革命?それが目的なのか?
「ふふ…信じられないか?そうだろうね」
キョトンとした俺を満足そうに眺めている。
「馬鹿な……」
「やって見ないと解らないよ」
自信に満ち溢れた目。
「一人で?」
「人数が多いからと言って成功するとは限らない」
「少ないからと言って成功するとも言えないでしょう」
「それもそうだ」
ニヤニヤと笑う『死神』
「本気でそんな事を…」
「当然だろ。だからここにいる。解ったかな?僕の邪魔をするのなら……」
構える『死神』
「王にでもなるつもりですか?」
「そんな事に興味は無い」
「なら革命を起す理由は何ですか?」
「新たな時代に進む為に必要な儀式だろ」
「は」
新たな時代?
「笑うトコじゃないんだけど」
更にキョトンとした俺。
「時代に不満でもあるんですか?」
「無いよ」
「なら、革命など意味無い……」
俺が言い終わる前に、
「意味はある。世界が変わるきっかけになるかも知れない。僕が『フリージア王国軍提督』を白昼堂々と暗殺すれば
それは世界の均衡を崩す事になる。そうなると……」
「『フリージア』は他国の謀略だと言い出す」
そうなったら五カ国同盟関係にヒビが入る。
「外交でのやり取りが上手くいかない場合は…どうなるかは解るだろう?」
戦争に発展する可能性が……
「それが……」
「ま、そうならない可能性もある。その場合はどこかの偉い人が僕のターゲットになるだけだけど」
「それを喋ると言う事は」
「君とはここでお別れだ」
俺も構えた瞬間、
「じゃ、さよなら」
痛めている筈の右腕からの攻撃。
「くっ……」
速い。ギリギリでの受けが限界だ。
「流石。ここの兵達より良い反応だ」
「何を」
左手に鈍い衝撃を堪える。
怪我している筈の右腕。力はそれほど無いが、それでも遠心力を加えた一撃にギリギリと音を立てて軋むシールド
。
この間合いは俺の方が有利か……。
シールドをずらして更に詰める。
「お」
驚いているが、余裕を感じる。
正直気に入らないが、力の差を考えれば当然の反応。
右腕を曲げ、拳に左手を添えての肘打ち。
「でも、まだまだ」
体を捻って避けられる。
避けられるのも予測通り。俺の正面に『死神』が立つ。
左手を伸ばし、至近距離からのワイヤー発射。
「これならっ!」
躊躇わずに撃つ。
「……!」
距離にして一メートル。
直撃だと思った瞬間、『死神』の姿が消え、ワイヤーが壁に当たる。
……マジ?
「今のは…ヤバかったかな?」
避けられた?この距離を?
「そんなに驚く様な事でも無いよ。ソレは直線にしか飛ばないから読みやすい」
だとしても……いくら直線に飛んで行くとしても射出スピードは? それなりに速いんだけど?
得意そうに微笑みながら、
「指先の動きに注意すればどうって事は無いよ」
何て集中力……俺との力の差を改めて実感した。
しかし、今ここにいるのは俺一人。誰にも頼れない。
静かに息を吐いて、精神を落ち着ける。
どうすればいいか考えろ。『死神』とまともに闘っても勝ち目は無い。
となれば、何か考えないと……。
「慌てた次の瞬間に落ち着けるとは……君の精神構造はどうなっているのかな?」
気にするな。自分のペースを貫け。
俺一人で『死神』に勝てる方法を。
……俺……一人?
違う。ここにいるのは俺と『死神』と……、
「何を思いついたのかな?」
そうだ。ここには『提督』がいる筈。
隠れて出てこない『提督』を探している途中の筈、それとも場所は解っているが何かの事情があって出てくるのを待
っているのかは解らないけど……。
俺にも僅かに勝機が出てきたかな。
『死神』が『提督』を襲う一瞬が勝負。それまでの間何としても『死神』の攻撃を凌がないと。俺にそれが出来るか
?
それなら、
先手を取る方が主導権を握れる。だが、守りを重点に置いて攻める。俺はシールドを前に間合いを詰める。
虚を突かれたのか、余裕を見せているのか
簡単に懐に入れた。
見上げる『死神』の顔は笑ってる。
後者の方か……上がったテンションが下がりかけるが、攻撃を繰り出す。
「動きが直線的過ぎる」
余計なお世話だ。上段、中段、下段。俺なりに流れる様に攻めているが、
口元を弛めながら避け続ける『死神』
……本気で腹立つ。
いや……落ち着け。この攻撃の目的は俺の攻撃パターンを『死神』に見せる事。
「このっ」
更に攻める。
「面白いね、君は。攻めながらも心は守りにある」
ばれてる。だが、
「これでっ!」
渾身の上段蹴り。
それを避けられて、
「隙が大きい」
鎌が襲い掛かる。
シールドと右手で鎌を抑える。そのまま、
「また、裏拳?」
読まれているが、構わずに左手を振り抜く。
左手の起動上には、もう『死神』がいない。
「危ない、危ない」
俺を侮ってくれる方が良いが、何か腹立つ。
息を整え体勢を立て直す。
「もういい? 今度は僕から行くよ」
何てスピードだ。
シールドを前に後ずさる。
「ほらほら」
もう起動していない鎌。バッテリーが無いのか?それもそうだろう。これだけの人を斬れば無くなる。残っている
残量は後一人分てトコだろう。
「攻めて来ないのかな」
俺の最大の反応速度では偶然にも紙一重で避けている。一瞬も気を抜けない。抜けばその瞬間に終わる。
振り下ろされる鎌の一撃にシールドが下に弾かれる。
振り降ろした鎌が、間髪容れずに、
「終わりだ」
振り上げてくる。
避けられるか? ……顎を後に逸らせれば避けられる。間に合うか?
「この」
顎先に風を感じた。避けられた?微かに見える『死神』の顔。その表情から、良し、避けた。と実感する。
後に倒れて行く体、夢中で足を振り上げる。
「な」
珍しい『死神』の驚く声。
無意識の反撃が虚を突いた。
が、それも避けられる。
「うわっ……と」
両手両足をガバッと床についての着地は無様だがこの状況ではどうでも良い事だ。直に立ち上がり体勢を整える。
『死神』は構えを取らず、ただ驚いた表情で俺を見ている。
体勢を整えていない『死神』を攻めたいが躊躇する。
戸惑っている間に体勢を整えた『死神』睨み合う。と言うか俺の方が動けない。
このプレッシャーは今まで感じた事の無い強さだ。動けばどうなるか…と考えると悪い答えしか思う浮かばない。
頭を振り、息を吐いて心を落ち着かせる。
どうするかなんて事はもう考えてあるだろ。
後はそれを完遂するだけ。落ち着いて、冷静に。
「君は本当に面白い」
「何がですか?」
「焦り追い詰められた次の瞬間には冷静に落ち着きを取り戻し状況を把握している」
そりゃ必死になるだろ。この状況じゃ。
「思わず僕の目的を忘れてしまいそうだ」
言い終わると同時に攻めてくる。
左手一本で鎌を持ち、回転して遠心力を乗せてくる。
俺もタイミングを合わせて『死神』の反対に回り、
左腕に受けた衝撃は先程の比では無い。
ガキィィィン……! と響く金属音。
「っ〜」
腕が痺れる。が、それで止まる訳にはいかない。
鎌に体を押し付けて前に出る。
鎌を振り上げればその瞬間にワイヤーを発射するし、そうしなくても左手一本の力ならどうって事は無い。
相手の武器を封じたままの攻撃。
俺も動きを制限される為に一撃必殺とはいかない。ワイヤーを使いたい衝動を抑えての牽制。
俺の考えはバレいるだろう。それでも動かないのは、俺の行動が正しい事の証明。それと勝利を確信した時にでる
油断を待っている
のは間違いない。
お互いが一瞬の致命的な油断を待ちつつの至近距離の牽制を続ける。
俺の待つ『死神』にとっての油断。それは
『提督』が出てきた時。その瞬間、注意はそっちに向けられる。チャンスを活かさないと
全てが無駄になる。
当たりはするが力が入りきらないのでダメージは少ない。
外から何か大きな音が聞こえてくる。何だ?
「上か?」
『死神』が後に下がる。
「逃がすか!」
俺も前に出る。
「しつこいな! 君も!」
鎌で牽制してくるが、構わずに行く。
廊下を駆けぬける。奥に開いたドアがある。
「見つけた」
嬉しそうに呟く声が聞こえる。
「!」
驚き振り返った『提督』
鎌を振りかざして起動し、そのまま……。
「間に合えっ!」
ワイヤーを発射する。狙うは…
「甘いな、詩月君。……これで」
躊躇い無く振りぬく『死神』
「な」
ワイヤーの軌道を修正し、壁に当て、ほぼ直角に曲げる。
「ぐっ……」
ダン、と壁に叩きつけられる『死神』
俺はそのまま『死神』に駆け寄り、鎌を遠くに蹴り飛ばす。
「ハァ……ハァ……」
息が上がる。勝ったのか? ……いや、まだ油断は。
うつ伏せに倒れたままの『死神』
撒き戻したワイヤーを向けたまま、近寄る。
不意に『ある言葉』が頭に浮かぶ。
後一歩の距離で突如起き上がり、俺の顎を狙った蹴り足。
「やっぱり!」
警戒していた俺は後の飛び退く。
「これを避けられるとは……」
千佳との模擬戦での言葉『起き上がる時は不意打ち』のおかげとは言い辛い。
「ふー、これまでかな」
両手を挙げて降参を意思表示する。
「そんなに警戒し無くても。もう本当にやらないよ」
疑っている訳じゃないのだが油断はしない。
と言うか出来ない。
「兄ぃ! ……あれ?」
千佳と、
「ん? 何だこの状況は?」
ヘレンさんが追いついて来た。
「遅かったですね。もう僕は彼に負けた後とは」
両手を挙げながら二人を挑発する『死神』
「この状況でよくそんな事が言えますね」
「ふふ……」
本気で闘う気が無いのか、大人しく手錠を掛けられる。
キッと睨みつけるヘレンさん。
「あ、そうだ。詩月君。君に聞きたい事があるんだけど」
「何ですか?」
「昨日言った事の答え」
「……」
昨日行った事……それは『俺が闘う理由』
「それは……まだ解りません」
「だろうね〜」
何が嬉しいのかは解らないが微笑んでいる。
それを怪訝そうに見ている千佳。
「ま、そんなに簡単な事じゃ無いし」
まるで俺が悩んでいるのが楽しそうに話を進める。
「でも、いつか解る時が来ると思います」
「だといいね。その事に気付かないまま終わる連中もいる。君はそうならない様に気をつけると良い」
廊下の奥から複数の足音が聞こえてきた。
「動くな!」
銃を構えた複数の兵達。
こっちの状況を理解するのに少し戸惑っている。
「君の答えを聞けないのが残念だ」
「……え」
どういう意味で言っているのか解らなかった。
「じゃ、僕はこれで」
一緒に遊んでこれから家に帰る。といった雰囲気で呟く。
気付いた時には『死神』の喉元から赤い血が流れていた。
え……何を……
思考が止まる。意識が真っ白になる。倒れる『死神』の動きがスローモーションに見える。
ドサっと倒れてもこの場にいる誰も動かなかった。
「え……何……これ?」
唖然としている千佳。
「……何って」
それ以上言葉が続かない俺。
倒れた『死神』の回りは赤く染まっていく。
ヘレンさんはじっと『死神』を見つめている。
「き、君達は……」
『提督』が声を掛けるがそれどころではない。
「私達は……」
ヘレンさんが事情を説明している間ずっと『死神』を見ている。
その顔は微笑んでいる様にも見える。
混乱している思考なのに色んな事が頭の中を駆け巡る。
『死神』が俺に残した問いの答え。
それがどんな形になるのかは解らない。
でも、それを見つける事の出来る人がいるのだろうか?
いたとしてもそれは俺とは違うだろう。
だから、俺の答えは俺自身で見つけないと。
「……大丈夫?」
千佳が心配そうに声を掛けてくる。
「あぁ」
頷いて答える。
何か聞きたそうにしているが、俺に気を使っているのか、
「そ」
短く返事して、前を見る。
「これから大変そうだね」
「人事だと良かったんだけど」
「そうもいかないよね」
「……あぁ」
『提督』や銃を構えた兵達に説明しているヘレンさんを後から見ている。
どうやら俺達の事で揉めている様だ。
「では、詳しい事は後程」
敬礼し、クルッと回れ右で回転。
「じゃ。帰ろうか」
「いいんですか?」
「いいんだ」
ヘレンさんの後について行く俺達。
「兄ぃ」
「何」
「絶対騎士になる」
「あ……そう」
何となくそう言うと思ってた。
「ま、頑張って」
「言われなくても」
その会話が聞こえていたのか、ヘレンさんが振り向いて、
「君はどうする?」
……どうしようかな。
天井を見上げて考える。
何処までも続く空。その下に並ぶ建物。
「どうした?兄ぃ?」
黙りこんだ俺を見る千佳。
「何でもないよ」
その答えで納得したのか、それ以上は聞いてこなかった。
「彼」がこの何処までも続く道の先で何を見て、何を感じ、考えたのかはもう知る事が出来ない。
…でも、一方的な力で何かが変わっても意味が無いと思う。
「…まずは卒業する事が大事かな」
今決められるのはこれだけ。
「…はぁ?」
呆れる妹と、笑うヘレンさん。
〜あとがき〜
いかがでしたでしょうか? 若干の修正を加えての掲載です。
感想待ってます。