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メイシティ  作者: 奇文屋
7/8

前夜

 夜の散歩を楽しみながら歩いている。

どこかの物陰に隠れていると思っていたのに出てこない千佳。

「ま、静かで良いな」

 見上げる夜空に光る月と星。その光が照らす街を歩く。

 ちょっと詩人を気取ってしまう。

「これも運命か」

 雰囲気の良さそうな公園が目に入る。

通らなくても良かったのだが、フラフラと吸い寄せられていく。

 人気の無い公園にぼんやりと光る外灯。

敷石が敷き詰められた歩道。その両側には名前は解らないが綺麗な花が咲いている。

「澄み渡る夜空の下では誰もが詩人になれる」

 言った自分が恥ずかしい。

「そうですね」

 ……声に出てたのか……そして、聞かれてしまった。

「恥ずかしがらなくても良いじゃないですか」

 ……無理だろ。

「詩月君がそんなに感受性が豊かだとは思いませんでした」

 ……この声は。

「今晩は」

 顔を上げた瞬間、緊張が走る。

「そんなに警戒しなくても良いじゃ無いですか」

 いつもの様ににこやかだが、いつもより冷徹に見える。

 手に握られている鎌。

「あぁ。これですか。さっきちょっと」

 言われなくても解る。騎士か警官は知らないが闘ってきたのだろう。

「で、詩月君は?」

「俺は……」

 貴方と闘うかも知れないのでちょっと訓練を……等と言える訳が無い。

 そんな事を言えば、どうなるか……

「ふむ……どうやら追いつかれた様ですね」

「え……」

「そんな物を持っている以上、君も闘う気なのでしょう?ほら、気を抜いてると」

 え?

 俺の後から殺気が迫ってくるのが解る。

「!」

 振り返ると細い剣を構えた女性が向ってくる。

「退けぇ!」

「善良なる市民に向って言う言葉では無いですね」

 軽口を叩きながらも対応する。

剣を突き出したままの勢いで突進する女性。

それを避けながらも鎌で薙ぎ払おうとする『死神』。お互いが交差し立ち位置が変わる。

 女性は『騎士団』の制服を着ている。それで女性が『騎士』だと解る。

 という事は。

「人質か?」

 冷静な女性。

「まさか」

 笑う『死神』。俺を庇う様に鎌を構えている。

「じゃ、仲間か?」

「まさか」

「そうだろうな。お前はどこかの組織に使われる様な人間じゃないな」

 じゃ、個人で動いているのか?

「目的は何だ?」

「さぁ?」

「答える気が無いのか?それとも理由が無いのか?」

「さぁ?」

「まぁいい。捕らえれば幾らでも聞けるだろう」

 切っ先をこっちに向ける女性。

「αの仇を返させて貰う」

 やはりαさんの知り合いだった。

そしてαさんの身に何かが起こり、それに『死神』が関係している事が確実となった。

「何をしたんですか?」

 震える声。最悪の事態ではないとはいえ、電話すらろくに出来ない状態なのは間違いない。

「さぁ? どうなったかのは確認していないので」

 笑いを含む声に、頭の中で何かが弾けた。

「人を傷つけて何が可笑しいっ!」

 シールドを構え、背後から飛びかかる。

「一時の感情に身を任せるのは……」

 振り返り、鎌の柄を突き出す『死神』

それを直前で右手で掴んで、体を回転させて、

「はぁ!」

 左手で裏拳。

「良い反応ですよ」

 後に下がって避ける『死神』。だが、そこからワイヤーを発射。

 至近距離からの追い打ちに、

「チッ!」

 舌打ちが聞こえた瞬間、『死神』の姿が消える。

 直感で、

「下!」

 左手を下げて、牽制。

読み通り『死神』はしゃがんで間合いを詰めようとしていた。ワイヤーの牽制で動きが鈍り、その隙に俺は後に下がり間合いを取る。

「流石……と言うべきなのでしょうか?」

 顔は笑っているが、声は冷徹だ。

「さぁ?」

 自分でも驚く程冷静だった。千佳との模擬戦が役に立ったのだろうか? 感じている殺気や緊張感はそれの比では無いが。

「二対一……と言う事で良いのかしら?」

 俺と『死神』との攻防を見守っていた女性が今度は仕掛ける。

「まだ、居たの?」

「ええ、捕らえるまでは」

 振り向き様に薙ぎ払おうとするが、女性はしゃがんでそれを避け、地を蹴りさらに間合いを詰める。

「この間合いならっ!」

 接近戦では長い柄が邪魔で対処が鈍くなる。

繰り出される突き。それを体の動きだけで避ける『死神』。タイミングを計り、鎌を女性に向け、一気に後ろに飛ぶ。

鎌の柄が牽制となり一瞬躊躇する。

「これで後からの攻撃は無くなった」

 『死神』の言う通り、俺の横には女性が居て俺達の正面に『死神』が居る。

 女性は細身の剣を構えたままだ。

「どうする?あの『騎士』の仇を討つ?」

 笑う『死神』。

 乗るな、これは挑発だ。単純な挑発に乗るな。詩月。冷静に、相手のペースに乗せられるな。

「仇を討つのは違うわ」

 俺が答える前に女性が答える。

「『騎士』である以上負傷や死を覚悟している筈。にも関わらず仇討ちを考えたり行うのは『騎士』のやる事では無い」

「では聞くが『騎士』の任務ととは何? 自分の保身しか考えていない貴族や政治家を守る事?王家の存続しか興味が無い王族?」

「かなりの偏見がありますが、概ね間違いではないわ」

 ……『死神』の言葉を肯定する。恐らくこの女性も『騎士』だと思うのだが、良いのか?

「じゃ、何?」

「他の『騎士』は知らないが私は『弱者』を守る事を優先しています」

「ほ〜。立派ですね。他の『騎士』に聞かせてあげてください」

「興味無いですね。言ったでしょ。これは私のやり方。これを強制する気は無いって」

迷い無く言い切る女性。

「では、私からの質問です。目的は何?」

「僕の?」

「他に誰がいますか?」

 惚ける『死神』に対して冷静にツッコむ女性。

 そのツッコミに戸惑いながらも答える。

「……僕の目的か……貴女の事を聞いておいて何だけど答える必要があるのかな」

「無いですね。なら、その理由を作るだけです!」

 突進する女性。

「僕の事を放っといてくれれば……」

 俺も女性を援護する為にワイヤーを発射。

「二対一と言う数的有利を使えば!」

「良い判断ですよ。詩月君」

 突きを後ろに飛んで避けるが、ワイヤーからは逃れられない。

 鎌を使っても左右どちらに避けても女性の攻撃からは逃れられない。

 『死神』が鎌でワイヤーを払う。

 その瞬間を狙い、女性が更に詰めていく。

突き出される剣を鎌の柄を使い弾いていく。

「詩月君。君は僕の『敵』になるのかな?」

 女性の突きと俺のワイヤーの同時攻撃を避けながらも、まだ余裕の問い掛け。

「解らない。でも、人を傷つけて笑ってる貴方を許せない!」

「下らない正義は身を滅ぼすよ」

「人を傷つけて笑うよりは……」

「仕官学生とは思えない台詞だね」

 女性の突きを再び弾く。

 女性が弾かれた剣を構えるより速く、『死神』の鎌が払われる。

「クッ!」

「遅い」

 鈍い音と共に弾き飛ばされる女性。

 地面に叩きつけられ、苦しそうに息を吐く。

「自分の事を考えたらどう?」

「え」

 目前に『死神』の姿。牽制のパンチを放つが避けられる。

 その直後、目の前には地面があった。

「く……っ」

 酸素を吸う度に体中が軋む様だ。呼吸がこんなに苦しいとは思わなかった。

「詩月君、君はどうして士官学校に入ったんだ?人を傷つけるのが軍人の仕事だろう」

「…」

 答え様にも声が出ない。

「なのに、君はそれを許せないと言う。その手にある物は傷つける為にあるんじゃないのか?実際に君はそれを使っただろう。傷つける為に」

「……」

 答える事が出来ない。

「……詭弁を」

 俺の変わりに立ち上がった女性が答える。

「そうかい?」

「あぁ。彼を迷わす為にそんな事を……」

「だとしたら?」

「貴方の性格は……」

 また剣を構え起動し、突進する。

「最悪だっ!」

「同じ事ばかり……」

 今度は後に下がらずに前に出る『死神』

女性が突きを出すより速く鎌を振る。

 立ち上がる事も出来ない俺、それでも出来る事を考える。シールドを構えて、照準を合わせる。狙うは、振り払われる鎌。

 女性に当たる直前に俺のワイヤーが鎌の起動を逸らす。その隙に一気に間合いを詰める。

 弾かれた鎌を戻す間も無い。

 突き出される剣。

 その瞬間、俺には『死神』が笑った様に見えた。


 静寂の公園。ポタポタと何かが垂れる音が響く。

 月明かりを浴びた二人の影。

「……油断、したかな」

 余裕のある声でそう呟く『死神』。

「そうでも無いでしょう」

 凛とした声でそう呟く女性。

「い……っ」

 少しづつ体を離していく『死神』。

そしてゆっくりと距離を取る。

「……ふぅ」

 右腕から血が流れている。

「まったく……一張羅なのに」

 傷口を押さえる事も無く、恨みがましい口調だが口元は緩んでいる。

「その手では戦闘は無理な筈。もう大人しく……」

「まだだ。僕にはやる事があるんだ。それが終わるまで僕は止まる訳にはいかない」

 左手で構える。

「それなら今度は左手を潰します」

 右手を引いて、切っ先と左手で間合いと照準を合わせる女性。

「君はどうする?」

「え……」

「闘うか退くか。二択だ」

 確かにこの状況じゃそれしかないだろう。

戦況は『死神』が右腕負傷。隣にいる女性が有利。

 ここで退いてしまえば『死神』の言葉に対する答えを放棄する事になると思う。

武器は闘う為の道具。相手を傷つけ殺す物。

そんな事は解ってる。それでも、俺はそれを避けたいと思う。自分でも矛盾している事は解っている。だから『死神』に言われた時は何も言えなかった。

 ここに居てもその答えが得られるとは思えない。しかし、居る事で何かが掴めるかも知れない。

 シールドを構えて、俺の答えを示す。

「良いのか?」

「はい。『死神』に言われた事は俺も知りたい事ですから」

「…」

 『死神』の雰囲気が変わる。

 数的に有利なのだが動けない。それほどのプレッシャーを受けている。

 来る。そう感じた瞬間、

「おーい。何処行ったー」

 この声は……千佳?

「おーい。兄ぃ……ん?」

 緩やかなカーブを描いた遊歩道に千佳の姿が見える。そして、俺達を見た瞬間掛け出す千佳。

その気配を感じ、振り返る『死神』

「く……っ」

 響く剣戟。切り上げた剣を鎌で受ける『死神』

 片手の『死神』と両手の千佳。

 ジリジリと鍔迫り合いを演じていると、

 女性が突進。

 千佳から離れて女性の横に回りこむ。

女性が千佳の前を通り抜ける。

「……しつこい」

 『死神』の一言。

「誰がっ!」

 ワイヤーを放つが鎌でそれを打ち落とされる。その間に間合いを詰めて接近戦に持ち込む。

「君達だよ!」

 柄を突き出して俺を牽制するが構わず突っ込む。

 柄を避け体を捻り伸びたワイヤーで牽制。

「クッ」

 それを避け体勢を崩す。

 女性が『死神』の首に剣を当てる。

「終わり」

 見上げる『死神』

その目にはまだ余裕がある様にも見える。

「……何が?」

 笑う様な、試す様な。そんな顔で問い掛ける。

「……」

 答えられない。『死神』の異質なプレッシャーに思考が停止している。

 それは俺だけじゃなく、女性も千佳も同じ様だ。

「ふふ」

 そんな『死神』に対し俺達は武器を構える事で対抗する。

「これ以上はお互い闘う事は出来ないと思うけど?」

 俺達の戦意が無くなった事を見抜いている。

「だからと言って見逃す事は出来ない」

「まったく……『騎士』と言うのは」

 肩を竦めて「呆れた」と表現する。

「生まれつきです。今更変わりません」

 自分の戦意を鼓舞している様にも見える。

「もし生まれ変わる事がるのならもう少し大人しくなれる様に祈ってあげるよ」

「私もそうなる様に祈る事にします」

 お互い武器を起動し構える。

張り詰めた空気。息をするのも躊躇う空間。

 更に張り詰める空気、それが一気に弾ける。

 真っ直ぐに腕を伸ばし突き出される剣。

回転し遠心力を乗せて振り払われる鎌。

光が混じり、金属音が響く。

 

 折れる剣。それを握り締めたまま立ち尽くす女性。視線の先には『死神』がいる。

「……これで」

 構えを解いて、これ以上闘う意思の無い様だ。

 女性も睨んではいるが殺気は無い。

「今夜は終わりにしよう」

 ビームを切り、微笑む『死神』

そのままどこかに行こうとするのを引き止める。

「あ、貴方の目的は一体」

 震える声で問い掛ける。

「知りたい?」

 振り返り、試す様に俺を見る。

 ……是非。と答えたかったが声が出ない。

「僕は明日、軍の演習場に行く」

「何?」

 女性が反応する。

「そこで『フリージア王国軍提督。レイス・ライアム』を殺す」

 それが決定事項だ。と言う様に自信に満ち溢れた声だった。

「じゃ、また明日」

 去って行く『死神』を追いかける事も出来ずに立ち尽くす。


「ふー」

 息を吐く女性。

「あの」

「あぁ、今更だけど、怪我は?」

「あ、はい。お蔭様で」

「それは良かった」

 心配してくれている女性の声。

「ちょっと、兄ぃ」

 グイグイと袖を引っ張られる。

「……誰?」

 本人は小声のつもりなのだろう。が。

「私は『ヘレン=エルバ』騎士団に所属している。君達は?」

「俺は『立花詩月』でこっちが……」

「『立花千佳』です」

 ペコッと頭を下げる。

「詩月君と千佳さんか。私の事はヘレンでいい。君達には色々と話があるんですけど…」

「はぁ」

 何となく予測はつく。

「まずはαとの関係から」

 街で『死神』に出会った事。

その時にαさんと知り合った事、度々『死神』と会う事。それから言わなくても良かったと思うのだが『夜の模擬戦』までを話した。

「なるほど」

 話し終わってから、しばらく考え込んでいたヘレンさんがそう呟いた。

「でも、『死神』も調子に乗りすぎですよね。強いのは認めるけど軍の施設に攻撃する事を言っちゃたんだから」

「確かに。ヤツは単独で動いている事は間違いない」

 千佳とヘレンさんが『死神』の行動について話し始める。

 いいのか? そんな事話して? 情報漏洩じゃないのか?

「軍のトップを狙う事を宣言するとは」

 何故か関心いている様に見えるのは何故だ?

「じゃ、軍に通報して警備を厚くすれば何も問題無いじゃないですか」

「それは……うーん」

 腕を組んで考え込む。

「あ、そうか。『騎士団』と『各国の軍』は縄張り争いがあるんですよね。素直に聞いてくれないですよね」

 おい……言いにくい事を笑いながら言うなよ。

千佳の後からヘレンさんに頭を下げる。

……こっちが気を使う。だから少しは考えて喋ってくれ。

「ま、確かにそれはあるけど」

 苦笑しながらも千佳の言葉を肯定する。

「だからと言って見過ごす事は出来ないでしょ」

「あ、私達も手伝いますよ」

 あっけらかんとしている千佳。

 何でそんなに楽しそうなの? お前?

「それは……」

 目が「止めてくれ」と言っているのが解る俺と解らない千佳。

「言ったじゃないですか。兄ぃが『死神』に魅入られちゃったからどうにかしないといけないって」

「それは…」

 千佳のこじつけと勢いにに戸惑っているのが解る。

 俺はヘレンさんに加勢する。

「千佳。あのな、一般人の俺達が軍の演習場に入れるわけ無いだろ? そんな事して見ろ。逮捕されるかもしれないぞ」

「大丈夫だって」

 満面の笑みで言い切る。

「その根拠は何処にあるんだよ」

「大丈夫って信じてるから。だから大丈夫だって」

「捕まるんだぞ? 学校も退学になるかも知れないんだぞ?」

「いいじゃん。それ位」

 目が本気だ。

 ヘレンさんは俺達の会話を聞いて笑うのを堪えている。

「……面白いな。君達は」

 面白いと言われるのは心外だ。

面白いのは俺じゃなく千佳の方だろう。

「面白いのは兄ぃですよ。私は近所では慎ましいと言われてるんですから」

 この場合、慎ましいじゃなくお淑やかの方が正しい、と思う。

それにお淑やかだと思っているのは本人だけでご近所さんには「元気な妹さんね」と言われている。

「ちょっと、兄ぃ。私の評判を言ってあげてよ」

「αさんはどうなんですか?」

 助けてくれた恩人を利用している様で気が引けるが話を変えよう。

「ちょちょちょちょちょ……兄ぃ。話変えないでよ」

「どうなんですか?」

「命に別状は無いよ。左腕切断しただけだ」

「……え」

 切断…?

「え、それじゃ……」

「戦闘は無理だな。まぁリハビリ次第でどうにかなるかも知れないけど」

 この女性もあっけらかんとすごい事を言う。

「死ななかっただけ大丈夫ですよ」

 何でそんなに風に言えるかな……もうちょっと考えて喋れよ。

「そうだな」

 千佳の言葉に深く頷いて同意するヘレンさん。

 この人も千佳と同類なのか?

だとしたらαさんも俺と同じ苦労をしているのかも知れない。そう考えると妙な親近感を感じる。

「ん?考え事?」

「あ、いえ」

「何? 言えない事?」

 流石は妹。鋭い一言だ。俺は、

 うん。

等と言える訳が無い。

「何故あんな事を言ったんでしょうか?」

「あんな事?」

「犯行声明……犯行予告。て言うのかな。この場合」

「どっちよ!」

「論点はそこじゃない」

 恨めしそうに睨みつける千佳。その目を虫してヘレンさんに問い掛ける。

「さぁ」

 俺達をこれ以上巻き込みたくないとしているのか、口が重い。

 これ以上関わらせたく無い。というヘレンさんの気持ちは解るが、

「千佳が言った通り『騎士団』と『各国の軍』とは縄張り争いがあるから、そこを突いての奇襲を狙っているのかも」

 試す様に見ているが、目は少しだけ驚きを含んでいる。

「おぉ〜。どうしたの? 兄ぃ」

 素直に驚いてくれる千佳。

「関わる気か?」

 頷く俺と千佳。

「お前は関係ないだろ」

「あるよ〜。毎日模擬戦やってたじゃない」

 口を尖らせて嬉しそうに喋る千佳。

「駄目」

「いいよ。私は勝手にやるから」

 もう止まらないよ。この女。

「……ふぅ。何を言っても」

 首を振って説得を諦める。

「はい!」

 元気よく頷く千佳。嬉しそうだ〜。

「ま、あの男が言った事は誰にも喋らない事。それと来るのは良いけど自分の身は自分で守る事。それだけ」

「解ってますよ」

「じゃ、私は帰ります。明日遅れない様に」

「お休みなさーい」

 帰っていくヘレンさんに大きく手を振っている千佳。

 振り返り小さく手を振ってくれるのが嬉しいのか、

「ヘレンさーん!」

「止めろ。馬鹿」

 遠めでもクスクスと笑っているのが解る。

ヘレンさんも姿が見えなくなってから、

「決めた、私『騎士団』に入る」

 腰に腕を当て深く頷く千佳。

そして進路が決定。

「ま、頑張れ。いつまでその決意が続くのか楽しみだ」

「五年後には兄ぃを顎で使ってあげるよ」

「何その微妙な年数?」

 何故かありそうだと感じてしまう。

「楽しみにしてなよ」

 ポン、と俺の肩を叩いて、

「さ、帰ろ。早く帰って寝て、朝から『演習場』に行かないと」

 もう日付は変わっている。ため息を吐いて、

「そうだな」

 千佳の後について行く。

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