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メイシティ  作者: 奇文屋
6/8

慣れてきた?

 夜、いつもの公園。

「やぁぁ!」

 いつもより気合の入った千佳の一撃。

剣戟が響く。ギリギリと音を立てるシールド。

 すっと千佳の懐に入る。だが、牽制の攻撃は避けられる。

 体勢すら崩れない。

 一瞬の間。

 千佳の体が仰け反る。直後に下からの蹴り上げ。

 顎の先に千佳の靴が掠る。

一回転する千佳。今度は千佳の間合いでの攻防。

 切っ先と千佳の体の動きを見て、先を読む。

上下左右からの斬撃、少しでも俺が後に下がれば間合いを詰める為突きを出す無駄の無い攻め。

 前にも出れず、後ろにも下がれない。

相手の隙を待つか、作るか。待つ事で失敗する事は今までの経験が物ガたっている。

 ……なら。

いつも通り鮮やかに舞う様に剣を振るう。

シールドで剣を弾く、そのままワイヤーを発射。避けながらも剣を振り出す。が、戻ってくるワイヤーを警戒している為にスピードが無い。一気に詰める。だが、戻ってくるワイヤーと俺との挟撃をしゃがんで後ろに飛んで回避される。

「ふー」

 息を整える千佳。

もう何度この状況になったのか?

 今夜の公園で繰り広げられる兄妹による実戦訓練は近所の人か通りかあった人、どちらかによる警察に通報、駆けつけた警官からの逃走。という形で幕を閉じる。


 警察に追われて家に帰る。

「ふー。疲れたぁ」

「まったく、何でこんな目に……」

 悪態を吐く妹。

「流石に振り回しているんだから」

「それ位は解るよ!」

「怒鳴るなよ。あ、そうだ」

「何? 私と話するのがそんなに嫌?」

「何で喧嘩腰何だよ。αさんに連絡しないと」

「あ、そうか」

 怒りを納める妹。

「じゃ、私は先にお風呂に入ろっと」

 さっさと自分の部屋に入っていく。

ケータイを取り出しαさんの番号を選ぶ。

「じゃ、お先―」

「うい」

 風呂に向う妹に返事しながらαさんが出るのを待つ。

「……?」

 出ない。何でだ?

電話を切る。何となくテレビを点けて、チャンネルをニュースに合わせる。

「……無いよな」

 αさんが関係していそうな事件はなかった。

と言うか、どんな事件に関係しているのか知らない。多分『死神』関係だとは思うが、それらしいのは無かった。

 チャンネルをあちこちを変えて見るが、

どのチャンネルも同じ様な汚職事件を取り上げている。

 もう一度αさんのケータイに掛けてみる。

 何度も繰り返されるコール。

数十回聞いた後で切る。

 興味の無いニュースを見ながら、頭の中はαさんの事で一杯になる。

 何故電話が繋がらない?

考えられる理由は……

 今現在何かの任務についている。

その為に出られない?

それが一番可能性が高い。

 それは何か?

 あるいは……

考えたく無い状況を思い浮かべてしまう。

そんな事は無い、と否定するが頭の中にあの男が浮かぶ。

「『死神』」

 不意に口に出る。

だとすれば『死神』は今日俺達の前に姿を現した。

 昨夜、もしくはもっと以前に両者の間で何かあったのか?

 何か、とは?

それはほぼ確実に戦闘。

 その結果『死神』が現れαさんは連絡が取れない。

「何考えてるの?」

「うわっ!」

「何よ。そのリアクションは?」

「あ、いや……急に声を掛けるからビックリしたんだよ」

「そう?」

 気付けば千佳が前に座っている。

「で、αさんは何て言ってた?」

 事情を話す。

「マジで?」

「嘘吐いてどうする」

「何かニュースとかあったかな……」

「テレビじゃそれらしいのはやってなかった」

「じゃ、新聞取ってくる」

 新聞を取ってくる千佳。リビングにそれを広げてこの十日間の事件を調べる。

「無いね」

「こっちも」

「情報規制?」

「その可能性もあるな」

「という事は……」

 考えたく無い考えが浮かぶ。

「相手はやっぱり……」

 千佳の言葉に答えない。それが肯定だ。

「……うわっ」

 テーブルに置いてあったケータイが鳴る。

その音に驚く俺達。

「誰?」

 驚いた事を隠す様に怒鳴る千佳。

 ……着信は。

「αさんだ」

 急いで出る。

「もしもし」

「よう。どうした?」

 俺達の心配を他所に呑気な声が聞こえる。

「いや……どうしたも何も……無事なんですか?」

「まぁ、何と言うか……無事と言えば無事だしそうじゃないと言えばそうだし」

 言いたい事がよく解らないが。とりあえず無事な様だ。

「で、何かあったのか?」

「はい。今日の夕方……」

 『死神』に会った事とその時の問答を報告する。

「ふーん。全てを失ったからここにいる。か……」

「そう言ってましたよ」

「で、それ以外には?」

「それだけ言って去りましたよ」

「そっか……」

 電話の向こうで考えているのが解る。

「αさんは何かあったんですか?」

「ん。俺か?」

「なかなか出ないし」

「あぁ……ちょっと監視が厳しいからな」

「……監視?」

 また物騒な言葉が出てきた。

「何したんですか?」

「何したと言うか……されたと言うか」

 αさんが答えないでいると、その後から女性らしき声が聞こえる。声の感じからして怒っているのが解る。

「あぁ……解ってるって。そんなに怒るなよ。すぐ戻る。……あぁ、あぁ。俺が悪かった」

 明らかに謝っている。

「あの」

「後で掛ける」

 そう言った直後に聞こえたのは、

「駄目です」

「あ、ちょ……」

 切れる電話。恐らく取り上げられたのであろう。

「どしたの?」

「あ、うん。」

 とりあえず千佳に報告。

「ま、最悪じゃなくて良かった」

「それはそうだけど。電話するのに人目を気にしなきゃいけない状況ってどんな時だ?」

「うーん」

 天井を睨みながら考え込む千佳。

「何か任務に失敗して監査の目に止まったとか?」

「知り合って間が無いけど、αさんはそんな失敗はしないと思う」

「というかさ、αさんの任務って何?」

 そう言われても、俺に解るわけが無い。

「さぁ?」

 と、答えるのが精一杯だ。

「何だと思う?」

 その目は好奇心に満ちている。

「うーん」

 今度は俺が天井を見上げる。

『騎士団』の任務も色々あるからなぁ。

「フリージア王国」「ディスクレート皇国」「ウィスダム聖国」「ライタウス連邦」「フィランソロフィ王国」が結んでいる五カ国同盟内の反政府行動やそれにより悪化した治安回復。五カ国同盟会議の護衛や災害救助。当然同盟国がその他の国による侵略を受けた場合の防衛。反政府組織の捜索及び壊滅、逮捕。

「何だろ? テロ関連じゃないか。やっぱ」

「そうだよね!」

「何でそんなに嬉しそうなんだ」

「これが喜ばずにいられる?『死神』逮捕に協力すれば『騎士団』に認められるかも」

 うふふ、と笑う千佳。コイツにそんな野心があったとは。

「お前、『騎士団』に入りたかったのか?」

「ううん。別に」

「じゃ、別に『騎士団』に認められなくてもいいだろ」

「馬鹿だなぁ〜、兄ぃは」

「何で?」

 完全に見下された一言に。カチン、とくる。

「だって『騎士団』だよ? 皆知ってるよ? そこに認められるんだよ?」

「だから、それが何だって聞いてるんだよ」

「就職とか進学に有利じゃん」

「…」

 俺の聞き違いか?

「バイトだって一発だよ?」

 マジで言ってるのか?コイツは?

「もう時給なんて言い値かも」

 ししし、と変な笑い声を上げる千佳。

「あ、あのな……もうちょっと。こう」

 あるだろ?他に。

「ん? 何?」

 心がどこかのバイト先でバイトしている千佳。「これいくら?」と言えば適当な値段を言いそうだ。試しに言って見よう。

「これいくら?」

「七四〇円です」

 どこでバイトしてるんだ? それに何その微妙な値段設定は?

可哀相だが千佳を現実に戻す。

 俺を見る目は屈託が無くキラキラと輝いていた。

「それが目的で模擬戦やってたの?」

「ううん。兄ぃの事が心配だって言ったじゃん」

「あ、そうだけど……」

「ま、それが前提でそうなれば良いな〜。て思っただけ」

「あ……そう」

「何? その間は」

「……風呂入ろ」

「私はもう寝るよ。お休み」

「あぁ、……お休み」

 鼻歌を歌いながら自分の部屋に戻っていく千佳。

 兄として何となく妹の将来が心配だ。


「ふー」

 電話を切る。思わず出るため息。

「何カッコつけてるんですか?」

 目の前にいる恐い顔した女が俺を睨む。

 ここは「メイシティ総合病院」のロビー。

見張りの目を盗んで詩月に連絡を取っていたら見つかってしまった。

「そんなに睨むなよ」

「睨まれる様な事をする方が悪いんです」

 俺を部屋へと追い立てる。

「解ったから」

 座っていたベンチから立ち上がり部屋へと向う。

「まったく」

「何か言いましたか?」

 何か言えば怒られる。右手を引っ張られて連れていかれる。

「ヘレン。あのさ」

 俺の腕を引っ張る女『ヘレン』に声を掛ける。

「何でしょう?」

「自分で歩けるからさ……」

「そうですか」

 聞いちゃいない。

「歩きにくいんだけど」

「そうですか」

 見ているナース達が笑っている。

「はい。着きましたよ」

 ドアを開け、ベッドへと連行される。

「まったく……もう少し自覚と言うものを持ってください」

「解ってるよ」

「いいえ。解ってません。解っているのでしたら私が見張りにつく事も無かったでしょう」

 何も言え無い。

「相手を甘く見た訳では無いでしょうが……」

「言うなよ」

 そんな事は解ってる。俺の左腕が無い事は。

「……なら、もう少し大人しくして下さい」

「善処する」

 ベッドから見上げる天井。

「ふー。まるで子供ですね」

「うるさい。子供に善処なんて言葉が言えるか?」

「屁理屈こねて……」

「俺は寝る。帰れ」

「私もそうしたいのですが、朝まで見張れ、との任務が届いたので」

「はぁ?」

 ヘレンがバッグから任務状を取り出す。

わざわざ作ったのか?暇だな『上』は。

 目の前に差し出された任務状を読む。

『騎士ヘレン・エルバはα・ハーメルを監視する事を命ずる』

 その後に続く連名と印鑑は紛れもなく本物。

「マジで?」

「不本意ながら」

 本気で嫌そうな顔をしている。

「では、私はナースにこの事を伝えて来るので」

 その続きを言わずにドアの前から俺を睨む。

「テレビ」

 愛想笑いで誤魔化しつつテレビを点ける。

「では」

 静かに部屋を出ていくヘレン。

「やれやれ」

 目をテレビではなく窓の外に向ける。

テレビの音声は聞こえずに、詩月からの電話の内容がぐるぐると頭の中を回っている。

「目的か……」

 確かに解らんな。

『騎士』や国家権力を相手にしてまでやろうとする事とは…何だ? 何がそこまで突き動かす? あの男には後ろ盾となる組織は恐らく無いだろう。それはこの間の俺達に寄る襲撃の後、あの部屋を捜索したヘレン達からの報告だ。

「ここでいいです。はい。ありがとうございました」

 声に気付いて隣を見ると、もう一つベッドがある。

「……あ、どうも」

 ヘレンとナースが運んできたのだろう。

「わざわざ……」

 持ってこなくても。

「私に何処で寝ろと?」

床。と答えたかったが、その後どうなるかは容易に考えられるので止めておく。

「じゃ、私はもう寝ますので」

 電気を消される。

「あの……」

 俺は一日中ベッドの上に居たので眠くは無い。

「おやすみなさい」

 俺の意見を聞かずにさっさと寝てしまう。

しょうがないのでテレビのボリュームを落として眺めている。

 しかし、思い描くのは片腕での闘い方。

何度も何度もシミュレートする。

相手はあの男。しかしその結果は常に俺の敗北で終わる。

 そして、朝。

 隣で寝ていた筈のヘレンの姿が無かった。


 昨日は良い夢が見られたのか、ゴキゲンな千佳とのジョギングが始まる。

 最初の頃と比べると千佳に離されない。

「結構速くなったね」

「そうだな。息もそんなに上がらなくなったし」

「もうちょっと延ばす?」

「そんな事したら時間が無くなるぞ」

「それもそうだね」

 朝の支度をし学校へ、


「よ」

 後から声を掛けて来たのは玲斗。

「おはよ……ん」

 千佳と声がハモる。

「あははは……仲良いな」

「おはよ……どうしたの?」

 睨み合う俺達を不思議そうに眺めている琉奈。

「聞いてくださいよ。琉奈さん」

「ん? 何」

「この兄ぃは人に恥掻かせて喜んでるんですよ」

「俺が悪いのか?」

「当然」

「何で?」

「私に恥を掻かせちゃった罪」

「またそれ?」

 俺に鞄を押し付ける千佳。

それに続いて押し付けていく玲斗と琉奈。

「はい。よろしく」

 パタパタと走っていく三人。

朝走ったのにまだ走るのか?

「お前等ちょっと待てって」

 追いかける俺と逃げていく三人。

朝走ったのにまた走る羽目になるとは……

三人に押し付けられた鞄と自分の鞄。四つを持って後を追いかける。


「……どう?」

 夕食も終わり、模擬戦を行うためにいつも公園の様子を影から窺う。

「駄目。警察が見張ってる」

 様子を窺っている千佳が顔を半分だけ出して公園を見ている。

「じゃ、帰るか」

「駄目」

「警察が居るんだろ?無理だろ」

 上着の裾を引張られる。

「もうちょっと様子を見よう」

 こそこそと隠れていると、

「ちょっと」

 ほら。こうなる。

「ここで何を……」

 声色は優しいが、明らかに警戒している。

当然だと言えば当然の反応だ。俺達二人、武器を持っているし、明らかに挙動不審だ。

「えっと……」

 答えに詰り千佳を見ると、いつの間にかケータイで話していた。

「うん。それで……うん、うん。ちょっと待って。何?」

 え、何してるの? コイツ?

「あ、お疲れ様です。何か?」

 電話口を押さえて警官に声を掛ける。

「この辺りに不審者が出たらしいので、その警戒に」

「あ、そうなんですか?」

 驚いて見せる千佳。それは俺達の事だと思うのだが……。

「で、ここで何を?」

「あ、ちょっと、散歩していたら電話が掛かって来たので話していたんですけど」

「あ、そうですか。じゃ、ちょっと協力して欲しいのですけど……」

「はい。出来る事なら」

「お名前と許可証の提示を」

「ちょっと待ってください。……はい」

 俺も同時に出す。受け取って確認する。

「……はい、どうも。兄妹ですか?」

「そうなんですよ」

 にこやかに応対している妹を眺める俺。

「でも、散歩するには…」

 剣を見る。

「最近は物騒なので」

 物騒を強調する。

「はぁ……」

 答えに詰る警官。

「あの、不審者ってどんな感じの人なんですか?」

「最近、そこの公園で武器を振り回しているらしいんですよ」

「へ〜。顔とかは?」

「目撃者がいなので何とも言えないですね。

じゃ、気をつけて。不審者を見かけたら警察へ。では」

 敬礼をして去って行く警官。

姿が完全に見えなくなって、

「場所変えよっか」

「何処行く?」

 パチン、とケータイをしまう。

「お前、いつの間に電話したんだ?」

「して無いよ。フリだけ」

「……」

「ん? 何」

 改めて妹の凄さ、と言うか神経の太さを思い知った。


 当ても無く、フラフラと夜の街を彷徨う。

「は〜。良い場所無いね」

「まぁ、駅前だしな」

 ちらほらと通り過ぎる人を眺めながらベンチに座っている。

「どうしようか?」

 だらしなく足を伸ばしている千佳。

「また、警官から職質受ける前に帰った方が良いんじゃない?」

「うーん。そだね」

 ベンチから立ち上がり、「う〜ん」と体を伸ばす。

「じゃ、競争!」

 走り出す千佳。それを見届けてゆっくりと歩き出す俺。

「……元気だな」

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