実感
短かった休暇も終わり、今夜も実戦訓練に励んでいる。
「ほらほら〜」
「くそ……ちょろちょろと」
ワイヤーで逃げ回る妹を追いかけつつ俺自身も千佳の行く手を塞ぐ。
俺が千佳の間合いに入った瞬間。鋭い剣戟が襲いかかる。それをシールドで防ぎ、さらに間合いを詰める。
「貰った!」
右ストレート。躊躇わず顔を狙う。
「……まだ」
シールドと剣を支点にくるっと回り、
「遅い」
俺の左頬に見事な膝蹴りが入る。
「痛たた……」
気付けばベンチの上に居た。
「最後まで油断しない。これ、鉄則」
隣で悠然と喉を潤している鬼。いや千佳。
「解ってるよ。そんな事。というかもう油断なんてして無いぞ」
「そ、ならいいけど。じゃ、次」
颯爽と立ち上がり構える。
「よし」
俺も一口、水を含んで構える。
「じゃ、行くよ」
「来い」
千佳が右に飛ぶ。そのまま俺を中心に回る。
俺はその動きをじっと捉えたまま動かない。
「やっ!」
半周したところで間合いを詰めてくる。
着地直前にギリギリ剣が届く所からの横薙ぎ。
俺は半歩下がって避ける。
が、着地と同時に千佳の体が一回転し更に剣閃が伸びる。
遠心力が乗り重い一撃がシールドを通して左腕に響く。間髪容れず俺は妹の懐に入り連打を繰り出す。右ストレートから左ローキック。
バックステップで避けられるが、まだ、俺の間合いだ。ローキックの勢いを使い、千佳の様に体を回して、左上段回し蹴り。
「その調子。兄ぃ」
それも空を切り、
「大降り禁止」
残っている右足を払われて、
「はい。おしまい」
剣を首筋に当てられる。
首筋に冷たい金属の感触。
「まぁまぁだったね」
「偉そうに……」
今出来る精一杯の抵抗。
「ふふーん。何言っても負け犬の遠吠え」
否定出来ない。それが腹立つ。
「さ。立って立って。時間がもったいない」
「言われなくても」
立ち上がり構える。
「はぁ〜。立ち上がる時にさ、不意打ち狙う気は無いの?」
「正々堂々とするのが不満なのか?」
「兄ぃ」
呆れた、と肩を竦める千佳。
「正々堂々と闘って勝てる相手?」
「いや……」
「でしょ?」
「そうだよな……」
と、納得しそうになって、
「ちょっと待て。俺は闘う気は無いぞ」
「兄ぃに無くても向こうはどうなの?」
「それは……」
「だったら、立ち上がる時には不意打ち。はい。」
「何?」
「復唱」
「はぁ! 何で?」
「覚える為でしょうーが! はい!」
「声がデカイ」
人通りが無いとはいえ誰が聞いているか解らない。指を口に当てて、声を抑える様にジェスチャーで伝える。
「はい!」
残念ながら伝わらなかった……
「起き上がる時は不意打ち!」
「…起き上がる時は不意打ち……」
「ん〜」
絶対に聞こえた筈なのだが、気に入らなかったのか、耳に手を当てて「聞こえない」とプレッシャーをかけてくる。
「起き上がる時は不意打ち」
「……」
さっきよりは声を張ったのだが、まだ気に入らない様だ。
「立ち上がる時は不意打ち!」
「よし。じゃ、続けよう」
……何か……
プライドとか自信とかが音を立てて崩れた様に思える。
構える妹。
「さぁ。構えて」
千佳の声に構える。俺が構えを取った瞬間に飛び込んで来る。
「はぁぁっ!」
振り上げた剣を振り下ろす。俺は一歩後に下がり避ける。更に踏み込んで振り下ろした剣を振り上げる。更に後へ下がる俺。
袈裟斬りから横薙ぎ。剣を返して、斜めに振り上げる。
「く…っ」
風を切る音が俺の体から数ミリ離れた所から聞こえる。紙一重で避けているのではなく、たまたまそうなっているだけ。あるいは、紙一重で避けさせられている。
「どうしたの?」
千佳の声に答える程の余裕が無い。
剣を止めるにもシールドを出せない。
今出来る事は、剣の動きに集中し体にある感覚を最大限に使って避ける事だけ。
「剣だけ見てても駄目だよ」
完全に無防備な足元を狙われる。
千佳の足払いを軽く飛んで避ける。
「先を読めよ。兄ぃ」
飛んでいる俺に妹は容赦なく突きを出す。
「今のは良かった。その反応を最初から出してれば良かったのに」
「……え」
本能で反応したらしい。着地してから千佳の声で我に返る。シールドを出した覚えは無いが、現に俺はシールドで妹の攻撃を防いでいる。
「じゃ、行くよ」
剣を引いて、
「うおっ」
シールドの横、下、上から連続して繰り出される突き。
剣が俺の体を掠める。間合いを取ろうにも妹は離れない。俺が下がれば前に詰めてくる。
「……」
次、左に来たら、さらに左に避け千佳の死角に入ろう。このままじゃいずれ追い詰められる。
……来た!
突き出された剣が引いた瞬間、左に飛び、
この至近距離。外さない。
狙いを定め発射をほぼ同時に行う。
「チッ」
悔しそうな舌打ちが聞こえる。
しゃがんで左手をワイヤーに当てて絡ませる。
しゃがんだ千佳の頭上で、妹の左手を中心に回転し、左手に絡みつくワイヤー。
無言で睨み合う。
ワイヤーに繋がれたまま無言で睨み合う。
千佳との距離は……五メートル、と言った所か。
これ以上離れる事は無いが、近づけば俺の間合いに入る前に千佳の間合いがある。それを切り抜けないと……
一応、ジャージは着ているが痛みはあるだろう。だが、それを顔に出さない妹。
ジリジリとすり足で飛び込むタイミングを狙っている。
少しづつ弛むワイヤー。
千佳が自分の間合いのギリギリ外で足を止める。
牽制のワイヤーは千佳の手に絡まっている。
俺は左手を引いて妹の体を引っ張る。僅かに体勢崩す千佳。体勢を立て直すが俺の方が早い。千佳の眼前で拳を止める。
「どう?」
勝ち誇った俺。
「良かった。シールドを巧く使ってた」
悔しいのか棒読みだ。
「うん。良かったんじゃない」
悔しそうな千佳。
「そう?」
対照的に嬉しそうな俺。
絡まったワイヤーを外して、袖を捲る。
「ん」
左手を出す。袖を捲ったそこは赤く腫れていた。
「まったく……素直に負けを認めたら我慢しなくてもいいのに」
「うるさい」
「ほら。座れ」
ベンチに座り消毒開始。
「痛っ!」
消毒の痛みに顔を歪める。
「いつももっとゆっくりしてあげてるでしょ!」
「こんなモンだって」
「違うって。私はもっと優しくしてるって」
「うるさいな。黙ってろよ」
消毒が終わり、ぴしゃっと絆創膏を貼る。
「痛っ! 叩かなくてもいいでしょ!」
「大袈裟な」
目に涙が浮かんでる。
「泣くなよ」
「くそ……無性に腹立つ」
メラメラと闘志が燃え上がる。
「今日はもう駄目だぞ。結構な時間だし」
時計を見せる。
「……この怒りは何処へやれば……」
「風呂入って忘れろ」
「う〜」
唸る千佳を他所に帰り支度を始める。
「さてと。帰るか」
救急箱やペットボトルをバッグに入れて立ち上がる。
「う〜」
俺の後で唸っている千佳。
何故か俺の心は晴れやかだ。今日は良い夢が見れそうだ。
家に帰ってテレビを見ていると、先に風呂に入った千佳の叫び声が聞こえてきた。
おそらく、というか確実に傷口に石鹸かシャンプーがかかったのだろう。そんなベタな事をする千佳。明日はお隣さんに謝りに行かないと……
「詩月、強くなって無い?」
「そうかな?」
惚けてみるが、俺もそう実感している。
今は格闘訓練の授業。クラスメイト相手に模擬戦をしている。開始から一分弱で決着が着いた。
「そうだよ。秒殺された俺が言うのも何だけど」
「もう一回やる?」
「いい。遠慮しとく。俺の自信が無くなる」
立ち上がり、他の模擬戦が終わるのを待っている。
あの訓練も無駄にはなっていなかった。
千佳に勝った時はそんなに実感がわかなかったが、今は……
「よう、もう終わったのか?」
「あぁ」
振り返ると玲斗が立っている。
「お前も?」
「あぁ。次の相手はいる?」
「いや」
「じゃ……」
構える玲斗。
俺も構える。
玲斗の武器は槍。切っ先を下に向けて、グッと腰を落としている。
その体勢のまま動かずに、俺が動くのを待っている様だ。
ジリッと半歩前へ。
俺の足が止まった瞬間に、踏み込んでくる玲斗。
玲斗の突きが繰り出される。
その早さは千佳よりも少し速い。
だが、向かい合った時のプレッシャーは千佳の方が上だ。
俺は冷静に切っ先を見据えて避けていく。
乱れる事の無い突き。上下左右。的確に狙ってくる。
シールドを構え、ワイヤーを玲斗のやや右に発射。すぐに起動を修正。
「チッ」
槍をワイヤーに向ける。
その間に俺は間合いを詰める。
槍で弾かれたワイヤーを巻き戻し、格闘に持ち込む。この距離では槍のリーチが活かせないばかりか俺の動きに対応できない。
「うわっ」
俺のパンチを避け、後ろに下がり間合いを取ろうとするが下がった距離だけ俺が詰める。
そのまま俺の攻撃に避けるだけの玲斗。
「これで終わり」
フェイントで俺は右手を振りかぶり、玲斗は槍でガードを固める。だが、俺の狙いは足を払って倒す事。
「あっ! ……最悪や」
と、倒れながら叫ぶ。
「ふぅ……」
焦る事無く闘えた。
それが何よりの進歩だろう。自分の力に自信を持つ。
「お疲れ」
壁際で休んでいると、琉奈が声を掛けて来る。
「そっちは?」
「まずまずかな」
銃関係は訓練の場所が違うから、お互い見る事は出来ない。
「玲斗に勝ったの?」
「見てたのか?」
「最後の方だけ」
「良いのか?そんな事してて」
「お使い頼まれて通りかかった時にちょっと見えただけ」
「公然のサボりじゃないか」
「違う。お使いの途中」
急いでいる様子の無い琉奈。
声を聞いて玲斗も来る。
「これで錬武優勝がまぐれじゃない事は証明出来たんだ」
「琉奈。コイツは元から強いし、明らかに前と動きが違う。多分自主的にやってるぞ」
「真面目だね〜」
「……」
笑って誤魔化すしか無い。琉奈はともかく玲斗は何か感ずいているかもしれないが黙っていた方がいいだろう。
「今なら千佳ちゃんにも勝てるんちゃう?」
「それは千佳に言うなよ」
タイムリー過ぎる。今言えば今夜が恐い。
「え?そう」
「何で笑う?」
「え。笑って無いよ」
「満面だぞ?自覚無いのか?」
「笑って無いよ。なぁ?」
「うん。玲斗が意味も無く笑う訳ないじゃん」
いつの間にか結託している二人。
「今日も千佳ちゃんと帰るの?」
「……お前に関係無いだろう」
「じゃ、俺も一緒に帰るから、待ち合わせは…いつもみたいに校門やろ?お前今日は掃除当番やから……解った待ってるわ」
「勝手に進めるな」
「お前の言いたい事は解ってる」
「何だ言って見ろ」
「千佳ちゃんと帰るのが楽しみやなー!」
槍を手に取り、稽古相手を探しに行く。
「私も校門で待ってよーと」
「おい。お前は関係無いだろう」
「あ。先生に呼ばれちゃった。じゃ」
「誰も呼んで無いだろ」
俺の声は届いた筈なのに無視される。
これもイジメに入るんだろうか?
下校時間。俺の後を歩いている一組の男女。
「帰りに何処か寄っていこうよ」
「何処行く?」
「この間のお店は?」
「何食おうかな〜」
階段を下り、出口とは違う方向へと曲がる。
「おい。沿おう字の邪魔だ。早く帰れ」
「解ってるよ。アンタが来ないと意味無いでしょ」
「何の?」
「色々な」
まだ、授業の事を言ってるのか…
「だから、それは何だと聞いているんだ」
「ま、それはゆっくりと聞こうじゃないか」
ガシッと両手を掴まれて下駄箱へと引きずられていく。
「何やって……」
琉奈と玲斗に引きずられてきた俺を見て固まる千佳。
「じゃ、千佳ちゃん帰ろうか」
俺の手を離し、千佳と並んで歩いて行く琉奈。
「あ、はい」
どこかおかしいと感じながらもついて行く千佳。
「両手に華だな」
「男が一人多いだろ」
浮かれ気分な玲斗。そして、
「知ってる?千佳ちゃん」
「何ですか?」
「詩月が強くなった事」
前置きも無く本題へ。
「へ〜。そうですか」
自分との訓練の成果が出ている事に嬉しそうだ。
「授業でも負け無しですか?」
「玲斗が軽く」
「へ〜」
振り返って俺達を見る。
「千佳ちゃん。何か知らない?」
「さぁ…」
答えられないだろう。千佳も琉奈も。
「で、今日はちょっと調子に乗っている詩月を千佳ちゃんに懲らしめてもらおうと」
「……懲らしめる?」
その言葉に反応する。昨日の事を忘れていなかった。
「そう。その為には千佳ちゃんの力が必要だ」
「解りました。お手伝いします。何からしましょうか?」
「おい。何するつもりだ」
「それは……」
恐い……恐すぎる……その口の歪みは……
「まずはお茶でも飲んで作戦考えよう」
琉奈の一言に三人が同意する。俺は反対したのだが聞いてくれない。
「当然。兄ぃの奢りで」
「え、マジで?」
「見てくださいよ。これ」
喫茶店に入ってすぐに左手の袖を捲る千佳。
「どうしたの?」
包帯が巻かれた左腕が痛々しい。原因は俺にあるのだが。
「昨日……兄ぃに……」
クスン、クスン。と嘘泣きを始める千佳。
「おい。嘘泣きは止めろ」
「お前千佳ちゃんに何したん」
横に座っている玲斗が、千佳の左腕を見ながら聞いて来る。
「何って……」
「痛がる私を無理矢理……」
三人同時に噴出す。
「ば……何言ってんの! お前!」
くすん、と指で目頭を押さえる。
「そんな奴だとは思わなかったな〜。詩月君」
千佳の冗談を解ってくれる玲斗。
「アンタ……何したの?」
カップの中の紅茶が波打っている。
「馬鹿。冗談に決まってるだろう」
「そうですよ。琉奈さん」
琉奈の隣に座っている事の張本人が、笑顔でコーヒーを飲んでいる。
「ホントに?」
まだ、冗談だと信じていない。
「ホントですよ。これは昨日兄ぃと模擬戦やった時の怪我ですよ」
昨日の事を説明する。
「マジで?」
「ホンマに?」
どれだけ疑おうと、千佳の左腕が証拠になる。
「ま、今日はボコボコにしてやりますけど」
口調は笑っているが目がマジだ。
「は〜。何でまた」
「何が?」
「実戦訓練。そんなに成績悪く無いだろ」
「う〜ん」
答えに困る。それは琉奈と千佳も同じらしい。
「ん? あれ? お前等知ってるんか?」
俺と同じリアクションの二人を見る玲斗。
「お前には関係無いよ」
「うわっ! 冷たっ! 俺に出来る事なら何でも言えって言うたやん!」
店を出てからも玲斗がしつこく聞いてくる。
「……関わるとロクな事にならないぞ」
「構わん。言うてみぃ」
どん、と胸を張る玲斗。
「いいの?」
自分の胸を叩いている。おそらく「言え」との事だろう。
「いいのか?本当に後悔しないな?」
「お前もくどいな。早よ」
「……でもな〜」
「言えや。……引っ張るな〜」
「いいの? ホントに? 後悔しない?」
「大丈夫やって! ほら、ドーンと!」
「いいじゃないですか。教えて上げれば」
この声に驚いたのは俺と琉奈。その様子を敏感に感じ取った千佳と玲斗。
「やぁ、久しぶりですね」
「……どうも」
にこやかな男が立っている。
「僕は何もしませんよ?」
「アンタが『死神』?」
千佳が口を開く。
「そうですよ。貴女は?」
「アンタがちょっかい出してる男の妹」
「詩月君の妹さんですか」
流石の千佳も緊張している。
「そちらの彼女はお見かけした事がありますね。後はそっちの彼は?」
「詩月の親友です」
「親友ですか?」
「そうですが、何か?」
くす、と笑う『死神』の態度が気に入らなかったのか、玲斗が一歩踏み出す。
「そう言えるのが羨ましいと思いまして」
「一ついいですか?」
「何ですか?詩月君」
「何が目的なんですか?」
「目的……?」
「何が目的で警察を襲っているんですか?」
「……知りたいですか?」
嬉しそうに笑う『死神』。
「知って後悔しませんか?」
俺達のやり取りを繰り返す。
「知れば何かを失うかも知れませんよ?」
「何を……」
「それは貴方の問題です。僕には解りません」
背中に汗が浮かぶ。
本能が危険を伝える。千佳も玲斗も琉奈もいつでも逃げ出せる体勢を取っている。
「そうですね……今までの平穏。自由。法の庇護。友人。その他…言い出せばキリがありません。でも、手に入る物もあります」
「……何が手に入るのかは分かりませんが、払う方が大きいと思うのですが」
「それだけの価値があると考えれば釣り合いますよ」
「そんな事……」
「人によって価値観は変わります。僕の理由はそれだけの価値があると僕は思ってますよ」
「価値観が人によって変わるなら俺の失う物の価値も貴方とは違う」
「そうですね。僕は全てを失ってしまったからここにいる。僕はもう何も無い。これから先も失う物が無い。だから、平和に暮らしている君達とは違うのかもしれない」
悲しげに遠くを見る様な目。
「ま、ここで価値観について語っている場合では無いので、ではまた」
丁寧に挨拶して去っていく『死神』
その姿が見えなくなるまで俺たちは動かなかった。
ようやく見えなくなると、
「ふー」
全員が一斉に息を吐く。
「何か、変な汗掻いた」
「私も」
千佳と琉奈が声を揃える。
「あれが……?」
「そ」
知った事で頭を抱える玲斗。
「知らなきゃ良かったろ」
「今更言われてもな〜」
力無く笑う玲斗。
「でも、俺に出来る事があるなら……」
「あると思うか?」
「無い」
きっぱりと断言。
「だろ」
「兄ぃ!」
声の感じからして嫌な予感。
「何弱気になってるの! 早く帰って模擬戦。闘るよ!」
何が妹のテンションを上げているのだろうか?玲斗でさえ気圧されるプレッシャーを受けたのに。
「ほら! 速く!」
駆け足……いや、ダッシュで帰ろうとする千佳。気付けばもうかなり進んでいる。
「……頑張れ」
力無く微笑む玲斗とガッツポーズを作る琉奈。
「……ありがとう」
玲斗と琉奈に励まされて千佳の後を追いかける。