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メイシティ  作者: 奇文屋
4/8

死神対騎士

 あれから一週間。特に何もなく時間が流れていった。

「じゃ、今日は休養と言う事で」

校門前でそう言われたので今日はゆっくりと羽根を伸ばそうとしていたのに、俺は今、


「何故ここにいる?」

「まだ言ってんのか?ほら、これ読めよ」

持っていた本を渡してくる玲斗。

帰りに玲斗に捕まったのが運の尽き。

いつも通り大手の古本屋で立ち読みに精を出す。

「……」

手渡された漫画を読む。

「あのさ……帰りたいんだけど」

「たまには男同士も良いモノだろう」

「ここじゃなくてもいいだろ。立ち読みも意外と疲れるし」

「……流石だな」

買うつもりなのか何冊かを脇に抱えて、本を呼んでいた目が驚きの目に変わりこっちを見る。

「何だその目は」

「詩月。流石だ。後ろの棚を見ている客と背中が触れ合うこの決して広く無い通路。

それを理解した上で座り読みに挑戦するとは」

「怒られるぞ。つーか、何で座り読みなんかするんだよ」

「お前が言ったんじゃないか。立ち読みは疲れるって」

「だからと言って座って読む訳無いだろう」

「立っているのが嫌なら座るのが普通の人の考えだろう」

「時と場所を考えるのも普通の人の考えだろう」

「お前から一般人の定義を言われるとは思わなかった」

「お前に驚かれた事が俺には心外だ」

「いやいやそんな事は無いぞ」

ざわついた店内でもその言葉ははっきりと聞こえた。

「俺はお前が思っているより常識がある」

「言ってろ」

視線を漫画に移す。

「面白いだろ?」

「まだ、読んでないから」

「これから面白くなるから」

「呼んだ事あるの?」

「あるよ。立ち読みだけど」

ふと、目を上げてこれの続きを探す。

「……全部?」

「当然だろ」

ホントに?全部で三十巻あるんですけど。

「嘘だよ。これは集めたんだ」

いや……コイツなら充分ありえる。

「ホンマに買うたんやって」

「いや……疑ってる訳じゃ無いよ」

「その目は何や。疑ってる目やぞ」

思わず目を逸らしてしまう。

「ほら! 目ぇ逸らした! やましい証拠や!」

「偶然だって」

「どんな偶然で目ぇ逸らすんや」

「だから、偶然……」

後の女の人がクスクス笑っている。

「お前がうるさいから他のお客さんの迷惑になるんやろーが」

「はいはい。俺が悪かった」

「気持ちが入って無い」

「コーヒー奢る」

「それで買収できると思うなよ」

「いらないの?」

「誰もいらん、とは言うてない」

「じゃ、いいだろ」

「……コーヒーだけ?」

「何?たかり?お前がそんな奴だとは思わなかった」

「いや……詩月君。そこまで言う事は無いと思うけどな。僕は」

「名前言うな」

「俺は別にコーヒーはそんなに飲みたく無いよ。でもな、物で人を宥めるちゅーのはどうかと……」

「じゃ、うぅっん……あーあー」

喉を調整して、

「俺が悪かった。許して欲しい」

「こっち見て言え」

「これでいいだろ」

「コーヒー忘れんなよ」

「やっぱり欲しいんじゃないか」

「コーヒーに釣られた訳って事は無いぞ。俺はお前の謝罪を受け入れた上で、お前の誠意を無駄にしないように」

「解ったから。ちょっと黙れ」

「黙れって何だよ」

「また?」

結局、コーヒーとサンドイッチを奢る事で和解が成立した。


「お。馬鹿が二人で何してるの」

 古本屋から出た直後、琉奈と会った。

最初の言葉がこれだ。

「もっと言い方ってのがあるだろう」

「しょうが無いじゃない。事実なんだから」

「しょうが無いって」

「ツッコむトコ違うぞ。玲斗」

「……立ち読み?」

古本屋の店内を覗きこんで俺達の行動を推測する。

「いや」

当たっているのに否定。

「買い物」

「何買ったの?」

買って無いのに?

「……言え無いよ……なぁ」

「何で俺に聞く」

「そりゃ……お前」

 鞄を後ろに隠して妙に恥ずかしがる玲斗。

「え……何……買ったの?アンタ達」

 玲斗の悪意のある悪戯に見事に引っかかる琉奈。

「何も買って無いよ」

「女には……見せられ無いよ」

 煽る馬鹿。いや、玲斗。

「何言ってんの?お前」

「ちょ、ちょっと鞄見せて」

玲斗の鞄を取ろうとする。

「ば、やめろ。こんなトコで」

琉奈の手から鞄を守ろうと必死だ。

大した物は入って無いのに。

「お前何言ってんの?何も買って無いだろ」

「ホントに?」

「詩月……あんなに真剣な顔で選んでたのに」

「詩月?」

「何?」

俺の問いに手を出すと言う動作で答える琉奈。

「琉奈、ここじゃ……」

琉奈をからかう事に喜びを感じている玲斗。

「解った。裏に行こう」

否応なく店の裏へと連行される。

何故そこまでこだわるのか解らない琉奈の赤い顔と、そんな琉奈の顔を嬉しそうに見ている玲斗。嬉しいのは自分の思う通りに動いてくれる琉奈のリアクションなのは間違いない。

「ここならいいでしょ。ほら」

睨んでいる琉奈。

ここまで怒るような事をした覚えは俺には無い。あるとすれば、俺の横で嬉しそうに笑っている男。

「女に見せられる訳無いだろう。なぁ」

「俺に聞くな」

「ホントに。千佳ちゃん泣くよ」

「何で千佳が出て来るんだよ」

「そうだぞ。千佳ちゃんは関係無いだろ。なぁ」

一歩も引き下がらない琉奈。玲斗がこっち見る。そんな琉奈の様子が楽しくて堪らないといった感じの玲斗の口元。

「ほら!」

だんだん声に怒りが混じる。

それすらも、楽しいと言わんばかりの隣にいる馬鹿。

「しつこいな。お前も」

まだ挑発する。声が笑ってる。

「いいから!早く!」

琉奈の目に炎が見えそうだ。

「琉奈ちゃんの可愛い顔が恐くなってるよ」

 楽しくてしょうがないんだろうなぁ…玲斗。

手を引く琉奈。

「…?」

 意外な行動だったのか、玲斗も驚いている。

「!」

泣いてる!琉奈から聞こえるすすり泣く声に慌てる俺。

「……どうすんだよ!」

小声のつもりだが、多分琉奈にも聞こえてる。

「どどど、どうするってお前…どうするよ?」

 流石に予想外の事なのか完全にパニックだ。

「……っ……っ」

 手で顔を覆って泣いている琉奈の前で慌てる男二人。

「わ、悪かったよ。琉奈」

 俺は何も悪く無いがとりあえず謝る。

「……っ……ぐすっ」

「ゴメン。琉奈」

頭を掻きながら謝る玲斗。

「……ぐす……っ」

 チラッと顔を上げて、

「鞄見せて……っ」

 顔を伏せたまま、片手だけ突き出す。

玲斗と顔を見合わせる。

「解ったよ」

 玲斗から鞄を渡す。

「…詩月も」

俺も鞄を渡す。

 受け取った瞬間、満面の笑みを浮かべる琉奈。

「じゃ、確認しまーす」

「嘘泣き?」

「え、何?」

 琉奈の嘘泣きに混乱し、事態が飲み込めない玲斗。

「へへへ。引っかかったあんた等が悪い」

 さっと鞄を開けひっくり返す。ばさばさと落ちる教科書やら筆箱やら弁当箱。

「何だ。玲斗の方は何も無いじゃん。じゃ、次」

「おいっ! もっと丁寧に扱え!」

ポイッと投げられた玲斗の鞄。俺の方も玲斗と同じ様にひっくり返される。中の物は玲斗と変わらない。

「こっちも無いじゃん」

俺の鞄も。ポイッと投げ捨てる。

「おい!」

「何? あんた等が変な事を言うから悪いんでしょ」

「何も言うて無いよ。お前が勝手に勘違いしたんやろーが」

「何か……女には見せられないとか……言え無いとか」

 言っている内に顔が赤くなっていく。

「少年漫画やぞ。見せられんやろ。フツー」

意味の解らない事を言い出す玲斗。

「え?それだけ」

「そーや」

「少年漫画位、女の子でも読むでしょーが」

もっともだ。

「お前が勝手に何か考えたんやろーが。何考えた。言え」

 お前の目的は何だ?それを言って欲しい。

「それは……」

「何や?言うてみ」

「何言わせたいんだ? お前は」

「詩月は黙ってろ。ほら、琉奈」

嘘泣きに対する仕返しなのか、引っかかったしまった自分を誤魔化すためなのかは解らないが、確かな事は一つ。

嬉しそうだ〜。玲斗。

「え……だから……それはぁ……そのぉ」

「もういいぞ。琉奈。ほら玲斗。行こう」

「もうちょっとやって。詩月」

「何がだよ。ほら。コーヒー奢るって言ったろ」

「お、そうやったな」

「じゃな、琉奈」

 玲斗の腕を引っ張って行く。

「ちょっと待て」

赤い顔のまま、

「私の分は?」

「……解ったよ」

 腕を引っ張られたまま、まだ琉奈をからかおうとする玲斗。

「来るんやったら、俺が買った本を何と間違えたか」

「詩月、鞄持って。まだ言うか? この口か? この口か!」

 俺に鞄を押し付けて、玲斗の頬を、ぎゅ〜と抓る琉奈。

「痛たたたたたっ」

「何? 聞こえ無い」

 徐々に腕を回していく。玲斗の悲鳴にこっちを見る人達。俺は何も関係ないと言いたかったが、

「詩月! 手離せ!」

 と、名前を大声で叫ばれた。


「美味かったな」

満腹になってゴキゲンの玲斗。

「詩月があんな美味しいお店知ってるのが意外」

「よく行く」

「千佳ちゃんが?」

「やんな〜」

「おい。妙な関心の仕方をするな」

「え、千佳ちゃんに聞いたんじゃ無いの」

「その言い方だと決定だな」

「そうでしょ」

「まぁ……そうだけど」

「やっぱり」

「何か悔しいのは何故だ?」

 夕暮れの帰り道。そんな事を喋りながら三人で歩いている。

「じゃ、俺はこっちに用あるから」

 交差点で玲斗が立ち止まる。

「おう」

「詩月」

先程までのおどけた様子は消えていた。

「あ、そうだ。俺に出来る事があるなら言ってくれ。いつでも力になるから」

「……ドラマとか漫画みたいな台詞だな」

「でも、本気」

「……ありがと。その時は」

「じゃな」

走っていく玲斗の足音が遠ざかる。

「……何か気付いてるのかな?」

「……」

 そういえば、玲斗はαさんの事に気付いていた。でも、今日は一度もその事に触れなかった。偶然なのか? それとも、気を使ってくれたのかは解らない。

 ドラマや漫画の世界じゃよくある台詞。実際に言われるとは思わなかった。

…思ったよりジーンと来ている。

「ん? 泣いた?」

「泣いて無いよ」

下から覗きこんでいる琉奈から顔を逸らす。

「泣いてるよー。大丈夫。誰にも言わないから」

「だから、泣いて無いって」

「いいよ。気にしなくて。思う存分泣きなさい」

「だから」

 嬉しそうに笑う琉奈。

「さぁ、私の胸で泣きなさい」

パッと腕を広げている。

「泣いて無いから。俺は」

 琉奈の横を通り抜ける。

「も〜。恥かしがり屋さん」

「お前、馬鹿にしてるだろ」

「あ、私こっち。じゃね」

 俺の家の前で琉奈と別れる。

まったく、明日覚えてろよ。明日どうやって報復するかを一晩考えよう。


 窓の外に気配を感じる。

ベッドから起き出し真っ暗な部屋の中、そっと窓を確認。

流石に姿は見せない。が、殺気が伝わってくる。見えないが居るのは確かだ。

その内の一人はあの「騎士」だろう。

「その他は……」

 あの『騎士』より弱いなら問題は無い。

「頭を叩いて……」

 その隙に逃げよう。

 立て掛けてあった鎌を手に取り、申し訳無さそうに取り付いている玄関の扉。その横に僕も気配を消して潜む。

 ……足音が聞こえる。

微妙にずれて聞こえる足音。音の数から、二人と判断。

僕が背を預けている壁に一人。扉を挟んでもう一人が突入体勢を取るのが解る。

 向こうは僕の事に気付いているのだろうか。

心が研ぎ澄まされる。相手の息使いが聞こえて来そうなほどの静寂。

……二人目が突入した直後を狙う。その後はあの『騎士』を叩いて逃げる。何度も頭の中でシュミレーションする。あらゆる状況を想定し、その全てにおいてもっとも安全な選択を選ぶ。

問題は『騎士』に勝てるか? と言う事。

この前の戦闘から判断すると、僕と同等かそれ以上の力を持っている。

彼との戦闘をシュミレーション。

……あらゆるパターンに置いて、確実に勝てる。と言う保証は無いという結論しか出てこない。

僕にはやる事があるからここで無理をする気は無いし、捕まる気も殺される気はもっと無い。

 僕のシュミレーションが終わった直後、扉が吹き飛ぶ。

 その音で思考を現実に戻す。

一人目が突入。それをやり過ごして、二人目の体が見えた直後、鎌を振り上げる。

 僕の殺気を本能的に危険を察知して止まろうとするが間に合わない。

腕が飛び蹲る男。その音を聞いて後ろを振り返る男と目が合う。

「やあ。今晩は」

 暗い室内の唯一の灯りであるビーム。その灯りが照らすのは、

「え」

 驚いたままの男に鎌を振り下ろす。

キィィン……と暗い室内に響く。

「流石、と言った所かな」

「貴様」

 思った通りあの『騎士』よりは弱い。

 となると、本命の『騎士』は何処に?

「良くやった!」

「後か!」

 睨みあっていた男を突き飛ばし、体を反転させて薙ぎ払う。

一度、金属音が響く。

「チッ」

舌打ちと共に次々と繰り出される鋭く重い剣。

後の男も体勢を立て直し、『騎士』と連携する。

「これは……」

 喋る余裕も無い。

「大人しく……」

 僕も同じ事を言いたいが、間違いなくその後の言葉が違う。僕はしてくれれば何もしないし、彼等は捕まって欲しい筈だ。

 僕の考えなど解る筈も無く剣戟が響く。

このままではこっちが先に力尽きてしまう。その前に何か反撃し無いと……

「……ちっ」

 今度は僕が舌打ちする。

攻め手が見つからない程、流れる様に剣が舞う。

 ジリジリと追い詰められて、もう後に下がれない。後から加わった男の剣が僕の鎌の動きを止める。その隙を突いて、

「これまで……」

 大きく振りかぶる『騎士』。思いっきり振り下ろされる。

「ハァ!」

 男を突き飛ばす。そのまま男に追い打ちを掛ける。

 僕のいた場所に振り降りされる剣。

 壁に真っ直ぐ大きな直線が床まで続く。

「ぐ……」

 剣が床につくのと同時に男が悲鳴を上げ倒れる。僕が突き飛ばした男は崩れた体勢のまま剣を振るい僕を牽制するが、僕はしゃがんでそれを避けて男の足を斬った。

「残るは……」

 そう思った瞬間、

 ガシャァァン。

 ガラスが弾け飛ぶ。

「くっ」

 体を屈めて窓から離れる。

「貰った!」

 壁を背にした瞬間、『騎士』が突進してくる。

 それを避け体勢を崩しながら反撃。

難なく剣で止められる。僕の動きが止まる。

 その瞬間、割れた窓から弾丸が飛び込んでくる。どこから狙っているのかは解らないが、半端じゃない腕だ。僕の足元数センチの所に着弾。『騎士』から離れて壁際に非難する。

「やれやれ」

 大袈裟にため息を吐き、

「流石は『騎士』だね」

「当然だ。これ位出来なくてどうする?」

「国を守る為に? それとも王や貴族かな?」

「両方だ。それと市民も入る」

「ふぅん」

 彼は迷う事無く答える。

「貴様の目的は何だ?」

 僕を誘うように窓際に立つ。

「僕の目的?」

「そうだ。貴様は騒ぎが目的では無いだろう」

 騒ぎなんかどうでもいい。

「それは……僕に勝つ事が出来たら教える、と言う事で」

「なら、すぐに教えて貰おう!」

 逃げ場の無い壁際。先程と同じ様に剣戟が響く。

 いや、少し違う。明らかに誘っている『騎士』の攻撃。

 つまり窓を背にする場所。

「もう、大人しくしろ」

「嫌ですよ。僕にはやらなければならない事がありますから」

「なら、力ずくでっ!」

「それも無理です」

 薙ぎ払われる剣を、ひらり、と飛んで避ける。

「な……!」

 この動きは予測していなかったのか、

『騎士』の動きが止まる。驚く『騎士』、僕は天井を蹴り、その反動で『騎士』を飛び越えて、窓際に着地し、狙撃される前に玄関付近の壁に転がっていく。僕の居る場所は狭い。ここでは振る事など不可能だ。したがって僕のとる体勢は鎌を真っ直ぐに相手に向ける事。後は隙を突いてこの部屋から脱出するしか無い。相手の先を読め。この場合彼ならどう動く?……一つの可能性が浮かぶ。その対処を考え、思いつく。ぼくの方針は決まった。ビームを切って後はチャンスを作るだけだ。

流石は『騎士』だ。驚いたのは正に一瞬。すぐに追撃してくる。真っ直ぐな攻撃。リーチではこっちが有利だ。そんな事は解っている筈なのに迷う事無く向ってくる。

「いい加減にっ!」

 大人しくすると思うのが間違いだと気付いて欲しい。

 剣で鎌を弾く、明らかに『騎士』の間合いの外。

「大人しくっ!」

 鎌を弾いた勢いのまま体を反転させ、

「捕まれぇ!」

 更に踏み込んで剣が突き出される!

それしか無い。僕の予測通りの攻撃。

 僕に向って真っ直ぐに突き出される剣。

 僕は彼の目の前でビームを起動する。

真っ暗な室内で間の前に突然の強い光。眩しいだろう。

「姑息な」

目が眩み僅かに狙いが逸れる、壁に突き刺さる剣。

「四人がかりなんだからさ。そっちは」

「ぐ……」

 まだ、光が目に残っている『騎士』

「君は危険だから」

 鎌を『騎士』の首にかけた直後、鎌に大きな衝撃が走る。

 そんなに近くは無いだろう。それなのに柄に当てるのか?

「まだ居たな」

 次々と着弾する。割れた窓からはいくつもビルが見える。この部屋は狙撃する方にとっては都合がいい程場所には困らない。

 狙撃から逃れると『騎士』がよろめきながら立ち上がる。

 改めて狙撃手の腕に驚く。僕と『騎士』の立ち位置はそれ程離れてはいない。にも関わらず僕だけを正確に狙っている。

「く……」

 狙撃手の腕に驚く前に逃げれば良かったな。

目を押さえながらも、僕の居る位置を見ている。

 彼が視力を戻す時間をこれ以上与えない。

止まらなければ正確な狙いはつけられないだろう。左右交互に着地音を立て、壁や室内の物を薙ぎ払い壊しながら『騎士』に迫る。

 空を斬る音、壊れる音、着地音。それらが彼の判断を鈍らせ、遅らせる。

 それでも剣を構え、迎撃体勢を取る。

 僕が気を付けなければならないのは『騎士』に攻撃するその時。狙撃手も『騎士』もその一瞬だけに集中しているだろう。

 僕の間合いに入る。

 『騎士』は本能でそれを感じ一歩踏み出し剣を振るう。

 僕は半歩下がりそれを避け、そのまま鎌を振り上げる。

 ごと……と何かが落ちる音。

 僕の手には確かな手ごたえ。

 その感触を確かめる間も無く反転して、遠く狙撃手の放った弾丸が着弾。

「くっ……」

 『騎士』の苦しそうな呻き声を上げる。

僕はそのまま部屋から走り去る。


「くそ……」

 左腕を押さえる。血が止まらない。

「やられたな……」

 真っ暗な室内。ようやく眩んでいた目も治り見渡す。

「無事か……お前等」

 返事は無い。が、微かに動いている。

それだけでも良かった。体を起し無線で連絡を取る。

「……じゃ、後は頼むよ」

そのまま俺の意識が途切れる。

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