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メイシティ  作者: 奇文屋
3/8

兄妹

 赤く染まった街をあてもなくブラブラと歩いている。

それほど多く無い人。

ま、昨日の事が原因なのは間違いないだろう。

……その一因、というかほとんどが僕のやった事だけど。

それでも、人は恐怖を感じながらも生きている。今日、自分が巻き込まれない事を信じて。

「……ん」

少し前を見覚えのある格好の男が通る。

距離をとり観察する。

どうやら彼女と一緒らしい。

何かを話しているが、内容は解らない。

多分、昨日の事かその後の警察での事だろう。

……クス。

自分のやっているこのばかげた行為に笑ってしまう。

どうやら、僕は彼に対して興味がある様だ。

それは間違いない。じゃなければ名前を聞かなかっただろう。

彼の何処に興味があるのか?

咄嗟の判断?

追い詰められてからの冷静な眼?

一瞬の遅れが死を招くと理解しながらの行動?

考えても結論は出ない。

自分の事なのにさっぱり解らない。

さて……どうしたものか

いつまでも後をつけていてもしょうがない。

しかし、彼と彼女の話に割って入るのも躊躇う。

うーむ……

しかし、彼とは何時会えるか解らないし……

「あれ?」

ふと、辺りを見渡せば僕と彼等以外の人がいない。

このままついていけば妙な誤解を生むな……

意を決して声を掛ける。

「やぁ」

振り向いた瞬間、彼の顔に緊張が走るのが解る。

少し下がり、彼女を守る様に立つ。

「誰、なの……」

震える彼女の声。

「そちらは……始めまして。僕は…そうですね。

『死神』とでも言っておきましょうか」

僕の名前としてはこれ以上ない程ぴったりだと思う。

「……何の用ですか?」

殺気立つ彼。

まいったな……僕にはそんな気は無いんだけど。

「別に、見かけたから声を掛けただけですよ。ほら。何も持って無いでしょ」

両手をブラブラと振って闘う気が無い事をアピールする。

それでも彼の警戒は緩まない。

例え彼が向ってきても僕には敵わない事位解っているだろう。今、彼の頭の中は、どうやってこの場を切り抜けるか。あらゆるシュミレーションをしているだろう。

「ふー。そんな殺気だたれては話も出来ませんね。では。また」

それだけ言ってこの場を立ち去る。

……立ち去ってから、自分の性格が意外に悪かった事に気付いて苦笑する。

でもこれで彼も僕に興味を持つだろう。

次に会う時はどうなっているかな……


 「起きろー」

 ……

ドンドンと部屋のドアを叩かれる音で眼が覚める。

モゾモゾとベッドの中で蠢いて時計を確認する。

「……六時前じゃないか……」

いつもより一時間早い。

「おーきーろー」

ドアの外で騒いでいる妹。

「入るよー」

当たり前の様に部屋に入ってくる元気良すぎる位に元気な千佳。

「ほら、起きろ」

俺が包まっていた布団を引き剥がす。

「……」

ジト目で千佳を見るが俺の視線を気にもせず、

「さ、行くよ」

等と意味の解らない事を言っている。

「……何処へ?」

時間は午前六時前。

開いているのはコンビニ位だろう。

寝ぼけた頭でそう推理し、

「飯無いのか? だったら俺はおにぎりが……」

「何でご飯あるよ」

「……」

見下ろす千佳と半眼で見上げる俺。

じゃ、何?

「いいから。起きろ」

パァァン、と頬を叩かれて眼が覚める。

「起きた?じゃ、着替えて」

ノロノロとベッドから降りて制服を取り出す。

「ジャージ」

千佳の声に制服からジャージに持ち返る。

「……」

「……」

ジャージを持って着替えようとするが…

「何?」

千佳が部屋から出て行こうとしない。

「着替えるんだけど」

「解ってるよ。早く着替えて」

ドアの前に仁王立ちしながら出て行こうと言う気が無いらしい。

……

ま、いっか。

着替えている間も「早く」と急かす千佳。

「じゃ、行こう」

着替え終わった俺の手を引いて外へ出る。

夜明けの凛とした空気に身と気が引き締まる。

「じゃ、ランニングに行こう」

そう言って走り出す千佳。

「…何で?」

寝ぼけた目で千佳を見る俺。

「……おい!何してんの!」

ついて来ない俺に気付いて戻ってくる。

「ほら。兄ぃの為にやるんだから」

「はぁ?」

意味解らん。

この寒い中走る事が何で俺の為になるんだ?

「兄ぃは『死神』と闘うんだから。ちょっとは鍛えないと」

……

寝ぼけた思考が一気に目覚める。

「ちょっと待て。何時俺が闘う事になったんだ?」

「似た様なモンでしょ。ほら、早くしないとご飯食べる時間無くなるよ」

どれ位の距離を走るつもりなのかかなりのスピードで走っていく。

「おい、ちょっと待てって…」

ストレッチもしないまま走り出す。


「ハァ……ハァ……」

息も絶え絶えに家に辿り着く。

朝っぱらから何キロ走ったのか?

「フゥ……最初にしてはキツかった?」

「……」

沈黙はイエスと判断された。

「じゃ、明日からはもうちょっと短くする」

そうしてくれ……

「お待ちかねのご飯までに息整えておいてね」

「……」

俺とは違いもう息が整っている。

千佳の凄さを改めて思い知った。


「どうしたの……? 何か疲れて無い?」

登校中、琉奈が俺の顔を見るなりそう声を掛ける。

「朝からマラソン」

そう答えるのが俺の限界だ。

「何で?」

答えずに千佳に眼を向ける。

「千佳ちゃん?」

「兄ぃはこれから闘わなきゃいけない運命ですから。ちょっとでも鍛えないと」

両手をグッと握る、頼もしい妹。

自分が闘えないからその代りに、とか考えているのだろうか?

……有り得るのが嫌だ。

「ま、そうなった時は私も闘いますけどね」

もう、コイツには何を言っても無駄の様だ。

「……お前が怪我したら笑ってやるからな」

「そのまんま返すよ」

「ふふ……」

何が嬉しいのか笑う琉奈。

「兄ぃ、帰ってからも特訓だからね」

「マジで?俺今日はちょっと……」

「何よ。今日から始めたのにもう辞めるの」

「そうじゃなくて、帰りに店に寄ろうかと思って」

「何か買うの?」

「新しいシールドを見て行こうと思って」

「じゃ、付き合おう」

「いいよ。一人で」

ふっふーん。と妙な笑い方をする千佳。

「お金……あるの?」

「いや……見に行くだけだから」

「気に入ったのがあれば買って上げるよ」

「え、いいよ。自分で買うし」

「いいから、いいから。妹に任せなさい」

「いや……その言葉の使い方微妙に違って無いか?あ、そんな事じゃなくて」

「じゃ、校門で待つ様に」

それだけ伝えて戻っていく千佳。

取り残される俺と琉奈。

「相変わらず……マイペースと言うか……」

「そんな可愛いモンじゃないよ。アレは。強引と言ったほうがしっくりくる」

「あはは……」

人気の無い屋上に琉奈の笑いが響く。


 放課後。

校門には嬉嬉とした雰囲気が遠くからでも解る千佳が立っていた。

何がそんなに嬉しいんだ?選ぶのがそんなに楽しいのか?

俺には理解できない感情を持っている千佳に声を掛ける。

「じゃ、行こう」

「いちいち声に出すな。恥ずかしい」

近くを通る生徒が千佳の声を聞いてこっちを見る。その中には知っている顔がちらほら見えた。

「今日は千佳ちゃんと一緒か?」

「うるさいぞ」

騒ぎのある所この男あり。

当然と言うかやっぱりと言うか、玲斗がいた。

「何処行くの?」

「何処でもいいだろ」

「面白いトコなら俺も行く」

「来なくていい」

タイミング良くケータイが鳴る。

「くそ……こんな面白そうな時に一体……」

悪態を吐きながら着信を確認すると、

「……じゃ、俺はここで」

電話に出ながら俺たちとは反対方向へと歩いて行く。

一体誰かは知らないが、いつもいつもタイミング良く掛けてくれる。

ありがたい事だ

「じゃ、張り切って行こー」

中心街に向って歩き出していく。


「狭っ!」

 開口一番。千佳の叫び。

「これでも揃ってる方だぞ」

やってきた俺がよく来る大手の武器店。

剣や槍、銃等はかなりのスペースが取られているが、俺が見に来たシールドは扱いづらい為人気が無い。俺も学校でシールドを使っている奴は見た事が無い。

アレ? ……と、いう事は……

「学校でコレ使ってるの兄ぃだけじゃ無いの?」

俺と同じ事を考えていた。

「……かもしれない」

元は守る為の物を攻撃的にした物。

そんな物が扱いやすい訳が無い。

「でも、よく言うだろ「攻撃は最大の防御」って。それをコンセプトにした結果こうなったんじゃ無いの」

「う〜ん……そうかも知れないけど。だから、遠距離なのか近距離なのか。どっちを稽古すれば良いか解らないから誰もやらないんじゃ無いの?」

「……」

否定できない。

「多分「メイシティ」でコレ買うのって兄ぃだけじゃ無いの?」

「……そんな事は無い。と、思う」

「まぁ、いたとしても……三人位……かな」

「……微妙だな」

多いような、少ないような。

「利用者が少ない割りに……高い」

今度は値段にケチをつけ始める。

「こんなモンじゃないの?」

「いや〜」

数少ないシールドを手に取り比べている。

「お。コレ限定」

手に取っているのは、

「「アタッカー」か」

「これにしなよ。値段もお手頃だし」

そっちが本音だろ。

だが、資金を出して貰う以上何も言え無い。

「う〜ん……でもな……ビーム稼働時間が前のとあんまり変わらないし…」

「じゃ、駄目」

元の位置に置く。

「どれ位?今の」

「十分位」

「短っ。バッテリー弱ってるんじゃ無いの」

「そんな事無いよ。「シールド」は「ワイヤーフレーム」と「シールドフレーム」両方でビーム使うからそれ位なの」

「燃費悪っ! 何で使うの? 止めてしまえ!」

世のシールド制作者及び使用者を敵に回しかねない一言。

「じゃ……コレは? 兄ぃの字も入ってるし」

指差したのは「最大出力連続稼働時間三十分」

中々燃費がいい。

『リ・エイト社限定モデル「霽月」レプリカ』

 「霽月」も神話時代に使われたとされる武器の名前だ。

 『空を纏うもの』と呼ばれる気象を司る神様の従者『ヴィナ』の使っていた武器がこれだと言われている。

「今までの三倍だよ」

「値段も三倍だな」

「じゃ、コレは無し」

胸の前で「バツ」を作って次の品定めをしようと見た瞬間、

「以上で終わります」

「まだあるだろ」

千佳の終了宣言を認めず、千佳の後を指差す。

と言っても、二種類だけ。

「こっちからは予算の都合上……」

百パーセント申し訳ないと思っていない笑顔。

「……」

ウチの金庫番が俺の意見を無視する。

「じゃ、これからスーパーのタイムサービスが始まるので」

「まだ早いだろ」

「いやいや。移動時間を考えれば……」

「ちょっと待てって……」

「何?予算オーバーしてるから……」

胸の前でバツ印。

「俺も出すから…」

「武器にこだわりは無いって言ってたじゃん」

「こだわりを持てって言ったのはお前だろ」

「しまった……余計な事言わなきゃ良かった」

「俺も出すから」

「当然でしょ!こんな高いんだから。それと、いくつか条件付けるから」

「解った」

千佳の気が変わらないうちにお金を下ろしに行く。

まるで玩具をねだる子供の様だが気にしない。

 どうにか千佳を説き伏せて「霽月」を購入する事に。

「じゃ『携帯許可証』ありますか?」

「あ、はい」

 店員さんに言われて、財布から『武器携帯許可証』を出して店員さんに見せる。

「じゃ、確認を取りますので……」

 店のパソコンで確認を取っている。

『武器携帯許可証』とはその名の通り『武器』を『携帯』するのに必要な『許可証』の事だ。

 俺達の通う『仕官学校』では入学と同時に取る事になっている。

「確認取れましたので、お返しします。十八万八千八百円です」

 さっき下ろしてきた俺の個人的な預金から十万を出す。後は家の財政から出す事になった。

「おい。九万出せよ。後ろつかえてるだろ」

「何? その言い方? あれ〜。財布何処やったかな?」

 白々しい動きで財布を探す。

「おい。わざとらしい過ぎるぞ。早く。すいません」

 後ろで待っているお客さんに謝る。

「あれ〜。おかしいな〜」

「ゴメン。俺が悪かった。出してください」

「その態度が大事だよ。詩月君」

 ここで言い返すと同じ事の繰り返しだという事は今までの経験上よく解っている。

店員さんや他のお客さんに笑われている。

「ありがとうございましたー」

 品物を受け取り店を出る。

覚えられたな。確実に。当分ここには来づらい雰囲気が漂う事だろう。


 千佳の後を追いかけて外に出る。

来た時より少し人が増えている通りを並んで歩く。

「このまま行く?」

「一旦帰ってから」

千佳と二人、下らない話をしながら帰って行く。


 今日は無事にスーパーでの買い物が終了。

「じゃ、兄ぃはこれやって」

手渡された一枚の紙。

「マジで」

「そ、夕食をおいしく食べる為のメニュー」

何か変な言い回し。

だが、それを流して先へ進む妹。

「簡単でしょ」

「……」

何とも言え無い。

「じゃ、作ってる間にやっといて」

どうやらというか……、やはりというか……

俺に拒否権は無いらしい。そんな事はシールドを買った時に解っていた事だが……。

なにやら鼻歌を歌いながら料理を始める妹。

それを聞きながら俺は筋トレを開始。

客観的に見ると、この光景はどう見えるのだろうか……

……考えると、テンションが急降下してしまう。


「お粗末様!」

相変わらず力が入っている千佳。

「風呂……入る」

「あ、ちょっと待って」

「……何?」

まだこれ以上何かあるの?

「これから外言って模擬戦」

「模擬戦?誰と」

「……」

微笑みながら自分を指差す千佳。

「これから……?」

「イエス。だから洗い終わるまでちょっと待って」

いつの間にか千佳は『燎原ノ焔』を持ってきていた。

「……それで」

「そ。お互い慣れとかないと」

千佳は本気で『死神』闘う気でいる。

「楽しみだな〜」

何が嬉しいのか満面の笑み。

その顔から逃げ様が無い。

千佳は鼻歌を歌いながら洗い物を進めて行く。

何故こんな事になったのか……

これも『死神の呪い』の為せる事か……。


 夜、準備を整えて近くの公園へ、

「ここなら大丈夫でしょ。警察も遠いし」

「音が……」

「大丈夫だって。もし警察に通報されたらダッシュで逃げれば。さ、始めるよ」

ベンチに救急箱を置いて剣を構える。

何でこんな強気な妹になったんだ?

ちっちゃい頃は優しくお淑やかだったのに。

「何してるの?構えて」

十年位前の記憶に行っていた意識が千佳の声で現実に戻される。

左手にシールドを装着し、

「じゃ、行くよ。ビームは無しね」

『燎原ノ焔』を構え、一気に間合いを詰める。

「おい、ちょっと……」

「喋ってる暇なんて無いでしょ」

「え?」

流れる様な剣閃。それを避けて左手を構え、

キィン……左手に衝撃が走る。そのまま睨み合う。

「流石、兄ぃ」

「うるさい」

「じゃ、次行くよ」

ドン、と蹴られ後ろに飛ばされる。また、向ってくる千佳。

正面。

迎撃体勢を取る。

シールドを嵌めた左で向ってくる千佳にカウンターを狙う。

流石に顔は……マズイよな…

「何?油断してんの」

「は」

俺の左ストレートを難なく避け、

「甘いね〜」

直撃する剣。

「ぐはっ……」

その衝撃に膝をつく。

「ほら、立って」

「ちょっと……モロに……」

息が出来ない。

「油断してるからでしょ」

四つん這いになり呼吸を整える。

「錬武の優勝者が情けない事言わない。ほらほら。早く」

コイツが俺と同じ男子の部に出ていれば優勝者はコイツだっただろう。

千佳が剣を習い始めてから、何故か一度も勝って無い。

戦闘に関する全てにおいて天才。と言われている千佳。剣術部からは「全国制覇を狙える」と言われているらしい。

「お前……もうちょっと」

「手加減ならしないよ」

「何で……怪我でもしたら……」

「それじゃトレーニングになら無いでしょ」

指先をクイクイと動かしている。

「こんな事やる意味があるのか?」

少し息が整う。

「さぁ?それは兄ぃ次第じゃ無いの?」

「何だよ……それ」

「だって、兄ぃは警察でも敵わない『死神』に魅入られたんだから」

「だから……こんな事やる……」

意味無いだろう、と言いかけて、

「うーん……今、私に出来るのはこれしか無いから」

言葉を止める。

「……」

「そりゃ、私は警察より弱いかもしれないけど、兄ぃに怪我とかして欲しく無いっていう気持ちは私の方が強いよ」

「……」

「だから、ちょっとは力になりたいの」

少し震えた声でこう言われたら兄として何も言え無い。

「だから、ほら立って」

「まったく……」

深く息を吐いてゆっくりと立ち上がる。

「じゃ、これからは手加減無しで」

「当然」

千佳に解らない様に息を吐く。

「じゃ……」

「いつでも」

お互いに構えて、

「ハッ!」

今度は俺から仕掛ける。千佳は動かずに迎え撃つ。シールドで剣を押さえたまま、パンチを出すが一瞬の迷いが、

……顔に当たったら……

「何考えてんの?狙いと……腹が甘い」

避けられた瞬間に腹に衝撃が走る。

また膝をつく。

「攻撃が正直だし、稽古中に余計な事を考えない」

「……偉そうに……」

「錬武優勝者の名が泣くよ」

「そんなの意味無いだろう」

「そう?立派だと思うけど。早く立って」

「……よし」

立ち上がり距離を取る。

「どうぞ」

くそ……完全にナメられてる。

さっきのは正直すぎた。今度は…、

「行くぞ」

「言わなくていいから」

再び構える。

間合いを詰めつつワイヤーを発射。前に使っていたシールドより腕に負担が掛からないのにスピードは上がっている。

「おぉう」

剣で弾く千佳、その隙を狙い間合いに入った瞬間に右ストレート。もう、迷いは無い。

本気で当てる。

「その調子」

身を沈めて避けられる。

「お腹がら空き」

俺のがら空きの腹部を容赦なく狙う。

予測通り。ワイヤーを巻き戻すスピードも違い過ぎる。俺の予測を上回るスピード。危ないかな、と思ったがこのまま行く事にする。兄の威厳の為に。

千佳の後頭部を狙うのが本命。引っかかったと、ほくそ笑む。

「……ん?」

俺の顔を見て突きを止めて、体を反転させ、

「こっちが本命か」

バレた!

死角の左に避ける千佳。それを追いかけて、俺も左にワイヤーを振って体勢を整える時間を稼ぐ。

「お。いいね」

ステップを踏む様に追撃を避ける。ワイヤーが限界まで伸びたので自動で巻き戻る。

さっきと変わらない距離で妹が笑っている。

「今のは良かったんだけど…笑っちゃ駄目だよ」

「俺は正直なんだ」

「ポーカーフェイスの稽古ってどうやるんだろ?」

剣を持ったまま腕を組んで考える。

「……」

これは誘ってるのか……それとも……

「うーん」

どっちだ……

首を回したり、空を見上げたりしている妹。

「ま、終わってから考えよう」

千佳が構え直した瞬間、

反射的にシールドを前にする。金属音が響く。その先で、

「ほら、反応が遅い」

千佳が微笑んでいた。

「お前が……速いんだろっ」

「え〜。そんな事無いよ」

じりじりと剣に力が込められる。

流石に力で負けるわけには……

「足元注意」

声と共に妹の姿が消える。

「うわっ!」

気付いた時には遅かった。

星空をバックに俺の脚が見えた……



「兄ぃがこんなに……」

 嬉しそうな千佳の声。

「何だよ。続きを言え」

「でも、新しいシールドにちょっとは慣れた?」

「発射と巻き戻るスピードが全然違う」

頭を強かに打ったので、「これ以上は無理」と言わなくても伝わり、千佳もそれを了承。今は二人ベンチに座り休んでいる。

「明日もやる?」

「当然」

 このままでは兄の威厳が……、そんなモノ無いかも知れないが……

「じゃ、今日は帰って、明日の朝六時起床だから早く寝ろよ」

「…了解」

もう……何がどうなってこうなったのか……

誰か教えてくれ……頼む。

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