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メイシティ  作者: 奇文屋
1/8

始まり

ここは「フリージア王国」にある地方都市「メイシティ」


鳴り響く警報。

「向こうに行ったぞ!」

叫ぶ男達の声。

いくつもの足音が近づいてくる。

それを陰に潜んで待ち受ける。

後五歩…四…三…

陰から飛び出す。

「な…」

突然現れた僕に驚く男達。

探していた筈なのに何で驚くのか?

ま、僕にはどうでもいいけど。

柄のスイッチを入れ起動。

光る刃。同時に空気の焼ける匂いが広がる。

光る刃を見て我に帰ったのか銃を構えようとするが、残念ながら僕の方が速い。

両手で柄を持って切り上げる。

この刃は飛び散る血さえも蒸発させる。

切り上げた刃。その場で刃を横薙ぎ一閃。

同時に二人が倒れる。

倒れたまま動かない男達。

「…ふぅ」

息を一つつく。何か視線を感じて上を見上げる。

監視カメラが僕を見ている。

警官達はこの光景を見ているのかな?

血を流し倒れている三人の男。その中心に立っている僕の手には僕の背より高い柄。

その先には斜め上に向いた光る刃。

その姿はまるで、

「…死神だな」

自分の様子を客観的に見るとそう見える。

まぁ、今の僕にはその名がお似合いだ。

「ん?」

慌しい足音が近づいてくる。

どうやら新しい追っ手が来た様だ。

本番に向けた練習としてはこんなトコかな。

個々の能力や装備は段違いだけど。

その時は何人が犠牲になるのかな…

そう思うと血が騒ぐ自分に驚きつつ迎え撃つ。


 高まる歓声。その中心に俺はいる。

目の前には剣を構えた男。

距離は…五メートルだ。

ジリジリと間合いを詰めてくる。

左手を相手に向けシールドの照準を合わせる。

剣を構え直し、グッと腰を落とす相手。

来る!そう直感して右手を左手に添える。

一気に地面を蹴り真っ直ぐに突進してくる。

左手のシールドを発射する。

ワイヤーに繋がれたシールドが一直線に相手に向って飛んでいく。

直線に飛ぶワイヤーを避けられる。

咄嗟に左手を右に振りワイヤーで突進を食い止めようとするが、それも男は体を沈めてそれを避ける。

左手のグリップでワイヤーを巻き戻す。

地面を蹴った反動をプラスされた男のスピード。

間に合え…!

心の中で祈る。

ギリギリで間に合ったワイヤーで剣を受ける。

ギィ…ン。と骨に響く音。上から押さえ込まれる。

このままじゃ…

負ける。

負けず嫌い。と言うわけじゃないが今は負ける訳にはいかない。

押さえつけられてついに膝をつく。

相手の目を見る。

勝利を確信している様に見える。

それを見た瞬間、

…何故かやる気が出てきた。

よし。それなら、

スッと力を抜いて剣を滑らせる。

「あ…」

意外な行動に反応が鈍い。

その隙を突いて、

「とぁ!」

相手の左足を払う。

が、相手がそれに気付いて後に飛ぶ。

俺も体勢を立て直す。

先程と同じ様に間合いを取る。

違うのは俺の構え方。

右手を前に、左手を後に。

じり…じり…と後に下がっていく。

間合いを取らないと…

「…」

微動だにせず、剣を正眼に構えて動かない。

こっちの出方を待っているのか?

それなら俺にも勝機がある。

俺のシールドでもギリギリの間合いまで離れる。

相手の構えに隙が見当たらない。

「フゥ…」

目を閉じて気持ちを抑える。

冷静に、落ち着いて、深く静かに息を吐いて相手を見る。

目にはさっき見せた勝利を確信した目じゃない。始まった時と同じ様な緊張感を持った目だ。

考えろ。相手の虚をつくには…

接近戦は圧倒的に向こうが有利。

どうにかして俺の間合いに入らないと。

 シールドの間合いは接近戦にある。それも剣の間合いの中。俺にとって十メートル近く伸びるワイヤーは牽制でしかない。一撃を避けて懐に入らなければ…

やるしかないよな。覚悟を決める。

キッと相手を睨み、突撃開始!

「はぁぁ!」

避けられれば俺の勝ち。それ以外なら…

男も向ってくる。

「やっ!」

真っ直ぐに突き出される切っ先。

同時にワイヤーを発射。

グリップを操作してワイヤーの起動修正して巻き戻しそれに左手を引いてスピードを加える。

相手の突きを右に避け右手で相手を力一杯押す。

軌道修正されたワイヤー、巻き戻されるスピードに引き寄せる腕の力を加えて男の後方から襲い掛かる。

「…え、マジ?…がっ!」

鈍い音と共に倒れる男。


「そこまで!」

と、声が掛かり、

「勝者、詩月」

一部から沸き上がる歓声。それに手を上げて答える。

「礼っ」

男と握手を交す。

「頭…大丈夫?」

後頭部を抑えている男。

すぐに気を取り戻すとは、中々タフな奴だ。

しかし、自分でやったとはいえ痛そうだ。

「大丈夫だ。でも次は俺が勝たせてもらうよ」

「その時はお手柔らかに」

「言ったろ。次は俺が勝つって」

ニヤッと笑い錬部場から下りて行く。

「詩月。早く下りて来いよ」

「ん、今行く」

クラスメイトに急かされて下りて行く。

 

「せっかくアンタが頑張ったのに優勝出来ないとはね〜」

「しょうがないだろ。皆が頑張った結果だし」

「う〜」

と、唸っているのはクラスメイトである大友瑠奈。

話しているのは、ついさっきまで行われていた「メイシティ仕官学校、体育祭」の事だ。

俺達のクラスは準優勝に終わった。

その事が気に入らないらしくさっきからこんな調子である。

「準優勝もすごい事だと思うけど…」

「甘い!まだ上があるんだから!」

気の強い琉奈らしい一言だ。

夕日に染まる商店街。琉奈の叫びが響く。

「皆見てるからさ…もうちょっと…」

声を抑えてくれると助かるのだが、長い付き合いだが今まで俺の気持ちを考えてくれた事などあっただろうか?

「何!」

「あ、いや…何でも…」

キッと目を吊り上げ睨まれる。

大人しくしていれば美人なのに…

等と言ってしまったら…

「…」

想像しただけで背筋が震える。

「…どうしたの?風邪?」

ぶるっと震えた俺を見て、今度は心配そうな目に変わった。

「何でもないよ」

「ホントに?」

「ん、大丈夫…」

ジーと顔を覗きこまれる。

「…昨夜、メイシティ郊外にある「メイシティ警察総合訓練所」で事故による火災が…」

電気店にディスプレイされている大型のテレビが映しているのは、

「これって…あそこだよね?」

「…うん…」

夜空を赤く染めている場所はここから近くの山の麓にある警察施設。

「何だろ…事故かな?」

「…多分」

まさか犯人が暴れた。何て事はないだろ。

「…警察の発表によると今回の火事の犠牲者は…」

「三十人も…」

これからも増える可能性がある。と締めくくって、次のニュースへと変わっていった。

「帰ろっか」

「…」

何故かこのニュースが頭に残った。

「どうしたの?恐い顔して」

「…ん」

「気の無い返事だね〜」

別に怒る訳でもなく、ただじっと顔を見ている。

その視線に気付いてはいたが、顔を向ける事は無かった。

「どーん!」

「うわっ!」

後から、明らかに故意にぶつかってくる、

「よっ」

妹の千佳。

「よっ」

倒れた俺を無視して仲良く挨拶をしてる。

「…大袈裟だね〜。錬武で優勝したんだからさ〜」

「…千佳…」

ゆっくりと起き上がりニコニコ笑っている千佳を睨む。

「お前…子供じゃないんだからさ」

「可愛い妹のお茶目な挨拶だからさ。気にすんなよ。なぁ、兄ぃ」

悪気がまったく感じられない。

千佳は俺の事を「にぃ」と呼ぶ。

「お兄ちゃん」が縮まってそうなったと本人が言っていた。

「千佳ちゃんも頑張ったよね〜」

「あれ位で頑張ったとは言えないですよ」

ブンブンと胸の前で手を振っている。

チラッと俺を見て、

「兄上と比べたら私なんてとても、とても…」

千佳も錬武女子の部の優勝者。

この目は俺をからかっている。

「それなら、琉奈さんも…」

「いえいえ、私なんてお二人に比べたら…」

痛む腰を抑えて、

「帰ろうよ」

商店街のど真ん中で話しこんでいるのは迷惑以外の何者でもない。

「じゃ、買い物して行くから。付き合え」

「…何買うの?」

「夕飯の材料」

言い終わる前にスーパーに向い歩いて行く千佳。

「じゃ、お呼ばれされよう」

と、琉奈も続いていく。

「お呼ばれは誘う方が言う言葉じゃないのか?」

俺の声は商店街の雑踏にかき消された。


「ごちそうさまでした」

「お粗末様!」

千佳は何故かこの言葉を言う時に妙に力が入っている。

シュタッと席を立ち、皿を一杯に抱え流しへと運ぶ。

千佳との二人暮らし。炊事洗濯は妹の担当で、

俺は掃除担当だ。

「手伝おうか?」

「いいよ。テレビでも見てなよ」

当然の様にソファに寝転がりながらテレビを見ている琉奈。

「おい。寛ぎすぎだろ」

「気にしない。気にしない」

そう言われたら何も言えない。

俺もソファに座りテレビを見る。

「今日はこればっかだね」

ニュースはさっき見た軍の施設の事を話している。

「つまんない。ネット見よ〜」

勝手知ったる他人の家。

手際よくネットを繋いで何やら検索開始している。

「何か面白い事は無いかな〜…あ」

さっそく何かを発見した。

「…ん…?」

琉奈の声に緊張している事を感じて画面を覗く。誰がアップしたのかは解らないがさっき見ていたニュースの事が映っていた。

それは監視カメラの映像。

そこに映っていたのは、俺達より少し上の年頃の男。目はこっちを見ている。その顔は微笑んでいる様にも見える。手には自分の背よりも長い物を持っている。それを振り上げ…

「…」

そこで途切れた。

「…あの後は…」

あまり想像したくは無いが…

「ニュースよりこっちの方が早く出てたね」

「そりゃ、ニュースは色々規制とが掛かってるんじゃ無いの」

「指名手配、かな」

「そりゃそうだろ」

「でも、名前も何も解らないんじゃ…」

「顔は解っているんですから」

いつも間にか来ていた千佳。

「顔だけじゃ…」

無理。とは言わないが、現実的では無いよな。

静まる我が家のリビング。

「もうすぐ軍の偉い人が来るのにこんな事件が起きたんじゃ…」

「それまでに解決するんじゃない?」

「そうだといいけど…」

「お。国家権力に懐疑的な発言だね」

「難しい言葉知ってるな」

「馬鹿にしてる?」

 目が恐いぞ。琉奈。

「…おっと、もうこんな時間か」

時計を見て文字通り飛び起きる琉奈。

「じゃ、帰るわ」

シュタッと手を上げてバッグを取り玄関へと向う。

「待て。送ってくよ」

流石にあの映像を見て、女の子一人に夜道を歩いて帰らせる訳にはいかない。

「ん、あ、…ありがと」

珍しく礼を言う琉奈。

コイツも少しは恐いと思っているのだろうか

「コレ。持ってく?」

後から千佳がシールドとバッグを持って追いかけてきた。

あの映像が頭にこびりついて離れない。それに…商店街で初めてこの事を知った時に感じた悪寒。

それを振り払う為に、

「ありがと」

受け取ったシールドをバッグにしまう。

襲われる訳は無いだろう心で思う。

と、同時に襲われないという保障が無いと予感が言う。

これを持ったからといってどうにかなる様な相手じゃない事は解っているが…

「さ、行こっか」

いつもと変わらない琉奈の声に我に返る。

「ん」

ま、近いから…大丈夫だろ…

自分にそう言い聞かせて家を出る。


…甘かったかな。

流石。と言うべきかな。もう僕を見つけた。

 さっき見つけた僕のアジト、と言うべき場所があっさりと見つかった。

窓ガラスを突き破っての襲撃。

「おっと…」

咄嗟に武器を取り、起動させて食い止める。

相手が持っているモノを見て驚く。

「へぇ、キミは生き残り?」

相手が持っているのは真っ直ぐな棒だ。

「それは槍だよね」

「…」

答えない男。ま、形を見れば誰だって解る。

「お前がやったのか?」

「質問の意味がよく解らないんだけど」

「昨夜の施設襲撃はお前がやったのかと聞いている」

「監視カメラを見たんだろ?」

「なら、お前を拘束する」

薄暗い室内に二つの光。

相手の顔は見えないが殺気に満ちた目を僕に向けている。

「これから先こんな事がずっと続くのか…。

そう思うと嫌になってくるよ」

「それは無いな。お前はここで…」

真っ直ぐに向ってくる。

「捕らえられるのだから!」

リーチは同じ位かな。だが、突きと払いでは動作が違う。当然相手に届くスピードも当然違う。

でもそれを補う技術と覚悟が僕にはある。

僕に切っ先が触れる瞬間、体を反転させて、

「でも、それが楽しみでもあるけどね!」

がら空きの背中に一撃を加える。

吹き飛ぶ男。

「ガッ…」

コンクリートの壁に叩きつけられて痛そうだ。

「どうする?まだやる」

聞くまでも無い。相手はやる気だ。

無言で立ち上がり、刃を僕に向ける。

「…」

ブ…ン。と刃が光を放つ。

「捕らえるんじゃ無かったの?」

最初からそんな気が無かったのは解っていたけど僕はおどけて両手を広げる。

「…」

無言の男。体中から殺気が漲っている様に見える。

「ふぅ…やれやれ。大人しく僕の事を見逃してくれたら」

言い終わる前に、

ダンッ!

身を沈め、地を蹴り真っ直ぐに向ってくる。

「解りやすいね」

僕もスイッチを入れ、刃に光らせる。

僕の間合いに届いた瞬間に横薙ぎ一閃。

「…甘い!」

ギリギリの所で僕の視界から消える。

「…へぇ」

思わず笑ってしまう。

左右、足元にはいない。となると…

体を弓なりに反らせた男がいた。

真っ直ぐに突き出される槍。

狙いは……左!

そう直感し、体を捻る。

刃の熱が顔の横を通っていく。

交わした瞬間、槍が横方向に襲いかかる。

ガキ…ィィン。

お互いが武器の柄を境ににらみ合う。

しかし、体格で僕の方が不利だ。

グンッと力を入れられて離される。

僕は体勢を立て直そうとするが、向こうの方が速い。

一回転されて遠心力が増した槍の一撃で壁まで飛んでいく僕。

「大人しく言う事を聞いて言たら…何だって?」

背中が痛む。よろよろ鎌の柄を支えにと立ち上がり、

「…死なずに済んだのにね」

痛いのを我慢して強がりを言ってみる。

「今、自分が置かれている状況が理解できるか?」

自分の優位だと言いたいのか嘲笑う口調。

ま、これからやり返すけどね。

武器を構えなおし、息を吐いて、

「…行くよ」

一歩で僕の間合いに入る。

「な、…」

流石、と言うべきだろう。

咄嗟に突きを出すが狙いが甘い。

軌道を見切り、鎌を振り抜く。

普通の人なら避けられずに体が二つになっている筈…

「片腕…無くなったね」

「……」

痛さのためか答えない男。

「どうしたの?さっきの余裕は?」

槍を落とし、腕を押さえているが出血は止まらない。

「どうする?まだやる?」

もう男に戦意は無いだろう。

だが目にはまだ闘うと殺気が篭っている。

じっと構えたまま男を見る。誰に頼まれたのか、とか色々と聞きたい事があるし。

「じゃ、殺さない代わりに僕の質問に答えて貰おうかな」

刃を消し男に近づく。

「そこまでだ!」

予想していなかった声に見上げると光が近づいてくる。

「わっ」

僕の本能が危険を告げる。それも最大級の警報を鳴らしている。

光は落ちてきたスピードのまま僕に向ってくる。

僕も鎌を起動させて迎え撃つ。

ガキ…ィン。

お互いのビームが中和されて光の中央にある発生装置が音を立てる。

「不意打ちと…卑怯だね」

「気にするな」

グイグイと押してくる。

じりじりと焼ける空気。

じんわりと汗が出てくる。

「っはぁぁぁ!」

「グッッ」

ドン、と押されてまた壁に激突。

「っ〜」

強かに打ちつける背中。

その衝撃で手を離しそうになる。

だが手を離すわけにはいかない。

「うわっ」

慌てて頭を下げる。

壁から離れて体勢を整えようとするが男のスピードがさせてくれない。

次々と繰り出される剣閃。

体を動かし、鎌を盾に避け続ける。

相手が疲れるのを待って逃げるのが一番だろう。この男は僕より強い。悔しいが事実だ。

なら今ここで無理に闘っても僕が死ぬだけだろう。今できる最善は逃げる事。そう判断して避け続ける。


「ハァ…ハァ…」

まったく化け物か?コイツは…

「どうした?もう逃げるのは止めか?」

休み無く剣を振っていたのに息一つ乱れてない。こうなったら…

…あれ?もう一人の男はどこに?

切り落とした腕と槍も無い。

「アイツはさっきこの場から離脱したぞ」

人質作戦が実行する前に崩壊した。

「あ、そうなの」

努めて冷静に。次の手を考えろ。

背を向ければ後から、

打ち合えば前から斬られる。

さて、どうしたものか……


「ありがとねー」

無事に琉奈を送って家時につく。

大通りに出てほっとする自分がいる。

賑わう街。ニュースを知らないのか?

それとも自分には関係ないと思っているのか?

いつもの様に明るい人達。

まるで自分だけが警戒しているかの様な気がしてくる。

だが左手のシールドを外そうとは思わない。

その時、

「チィッ!」

路地から飛び出してくる男。

手には鎌が握られている。

躊躇いなくそれを振りぬいて女の人が持っていた物を斬る。

「キャー!」

悲鳴が飛ぶ。

回りにいた人達が我先にと逃げ出す。

一人が逃げれば次々と。

一気にそれが広がりいつもの街はパニックに陥った。

「貴様ぁ!」

「しょうがないだろう?僕はここで終る訳には行かないんだから」

二人の男が言い争いながらお互いの武器を振るう。

そこが中心になって人が居なくなる。

「しつこいね〜。君は」

苛立つ男。

「なら大人しくしろ」

もっと苛立っている男。

数合打ち合う。

鎌を持った男は剣を持った男を押そうとするが離れない。

目の前で繰り広げられる戦闘。

二人の殺気が体に突き刺さる。

関わっては死ぬ。それは解りきった事なのに動けない。

「じゃ、仕方ないね」

鎌を持った男と目が合う。

「何を…」

剣をひらりと避けて俺の目の前に舞い下りる。

「人質だ」

光る刃。見ただけで自分に選択権が無い事を理解する。男の要求が受け入れられない時はこのビームが俺を…

「…」


この男が施設を襲ったのだろう。

それを捕まえる任務を請け負ったのが剣を持った男。

…冷静に考えてる場合じゃない。

違う!落ち着け!冷静に…冷静に…考えろ。

「さ、どうする?彼を見殺しにするか、僕を見逃すか」

 真剣な男の声。

どんなに鈍感な奴でも理解出来るだろう。

五十パーセントの確率でここで死ぬかも知れない事を。

「さ。どっち」

 剣を持った男は微動だにしない。

「聞かせてくれるかな。君の答えを」

「…」

 答えない。と、言う事は…

「彼を殺す。と判断しても良いのかな」

 ちょっと待て。俺の意見も聞いてくれ。

「…お前が彼の首を切り落とす前にお前の腕を切り落とせばいい」

「出来るのかな?そんな事」

 出来る訳無いだろう!そんな漫画みたいな事。

「…ふぅー」

 待て、落ち着け俺。こうなったら自分でこの状況を打開しよう。いや、しなければ死ぬ。

 とりあえず、状況は最悪だ。首から二十センチ暗い離れた所に光る刃がある。じんわりと熱を感じる。これは訓練でも遊びでもない。失敗すれば、「痛い」ではなく「死」しかない。一つじゃなくて一瞬でも間違えられない。

「ほら、彼の呼吸も死を感じて荒くなっているよ」

 気にするな。落ち着け。これは剣を持った男を挑発しているだけだ。

相手が動かない限りはコイツも動かない。

…俺の希望だが…

「…」

 考えろ。どうやってこの状況から抜け出せるかを!

「なるほど。僕の要求は受け入れられない、と」

 首に感じる熱が強くなる。何か行動を起こせ!俺!

左手をそっと、バッグに忍びこませる。

「じゃ、そう言う事で」

「俺は自分に出来る最善を尽くします」

鎌を持った男がこっちを見る。

 気付かれた!

「なるほど。じゃ、何してくれるのかな」

 …大丈夫、注意は俺より目の前の男にある。

 鎌を持った男が目線を目の前の男に向けた瞬間、バッグに忍ばせた手でシールドを操作し、真下に向ってワイヤー発射。

 バッグを突き破り、地面に直撃。

ガキィン。と鈍い音が響いて、弾く。

弾いたワイヤーが男の顎、死角から襲いかかる。

「うわっ」

 体を後に逸らして避ける。

その隙を逃さずに、鎌の刃から外れて距離を取る。

「っと…中々」

「喋ってる暇があるのか?」

剣士も間合いを詰めてくる。

「ほぅ…思ったよりいい反応じゃないか君」

「…どうも…」

「ハァァッ!」。

「やれやれ…『騎士』と闘うとはね」

リーチで勝る分スピードで劣るかと思ったがそうではなかった。剣のスピードは目にも止まらなかったが、あの長い柄を同じスピードで振り回している。

幾つもの火花が飛ぶ。

「これ以上打ち合うと壊れてしまうな」

鎌を持った男は後に引くが剣士も前に進む。

「しつこいな」

「大人しくしろ。そう言っただろ」

「そうだったね」

笑うように答え後に引いていく。

その時、騒ぎを聞きつけた警官隊が駆けつける。手には銃が握られている。

それを確認し、背を向け、

「じゃ、僕はこれで」

警官隊に突入する男。

構えられた銃口に立ち向かう男。

「伏せろッ」

剣士は俺に飛びかかってくる。

直後に銃声と悲鳴が飛び交う。

一瞬の轟音。

剣士の肩越しから見える僅かな視界。

「君を甘く見ていたな」

 血の海と硝煙の霧の中立っている男が一人。

鎌を持ち悲しげな瞳の男。

「あ、そうだ。君の名を聞いておこう」

鎌をスッと俺に向ける。

「…立花…詩月」

 しっかりと目を見て答える。

「そうか…では詩月君。また会おう」

「いたぞ!あそこだ!」

新たに現れた警官隊を反対の方向へと走っていく。


「…」

おっと…呆けている場合じゃない。

「あの…」

庇ってくれた剣士に声を掛ける。

「…無事か…」

痛みで顔を歪めているがどうやら彼も無事なようだ。

「おかげさまで」

「済まなかった。今更謝ってもしょうがないが」

「いいですよ。あの場合は…」

ああするしか無いだろう。

「私がアイツを押さえていればこんな事には…」

ゆっくりと体を起こし辺りの状況を見る。

割れたショーウィンドウ。

赤く染まった街路樹と歩道。

慌しく動く警官。

担架で運ばれていく警官達。

その内の一人が声を掛けてくる。

「大丈夫か?立てるか?」

「あぁ…はい」

立ち上がろうとするが足に力が入らない。

「あれ?」

何度も立ち上がろうとするが全く力が入らない。

「ほら、手に捕まって」

先に立ち上がっていた剣士の手に捕まるがすぐに力が抜ける。

「しばらく休んだ方が良いな」

「じゃ、事情はその時に」

何やら話しているがよく聞き取れない。

ぼんやりと二人を眺めている。

敬礼して去っていく警官。

明らかに俺に向けた敬礼じゃない。

「大丈夫か?それとこれ」

「あ。はい」

体は大丈夫だが足に力が入らない。焼け焦げたバッグ。それとシールドから伸びているワイヤー。その途中が斬られていた。何時斬られたのかさえ覚えていない。

「張り詰めた緊張が一気に解けたから安心したんだろう」

俺の横に立って手伝う素振りも無く見ている。

「いいんですか?手伝わなくて」

「ん?私はあまり関係が無いと言うか…」

所轄が違うのか?

「ま、私は警官では無いしな」

「そうなんですか?」

「あぁ」

じゃ、何者?聞こうとした時に、ケータイが鳴る。

「出ていいんですか?」

「気にする事は無いよ」

「じゃ…」

着信は…。

「はい…も」

「今何処に居るのーーーー!」

耳を劈く千佳の怒声。

「ちょっと聞いてるの?」

キィンと鳴る耳でも聞こえる声。

余程の大声で喋っているに違いない。

思わず瞑った目を開けると近くの警官達が俺を見ている。

「……」

そんな俺を見て忍び笑いをしている恩人。

まだ怒鳴っている千佳。

明日はご近所さん達に謝りに行かなければ。

千佳の怒声が収まってから事情を話す。

事情を聞いた千佳は、

「今から行く」

そう言って電話を切った。

待つ事十分。走ってきた妹の頬が上気している。

「ハァ…ハァ…」

「よぉ」

出来るだけ明るく、心配させない様に声を掛ける。

「ハァ……」

息を整えてから俺を見る、目には涙が。「余裕だね。人に心配させといて」

「千佳ちゃん!詩月は?」

「あれ?何で」

家に送った筈の琉奈が来る?

「私が呼んだ」

「あ、そう」

「大丈夫なの?怪我してない?」

体をあちこち触る。

「ん、大丈夫。この人に助けてもらった」

横にいる人を紹介しようとして、

「お名前は…」

パン、と叩かれる。

「お前、名前を聞いとけよ。すいません。礼儀知らずな兄で」

ペコペコ頭を下げる千佳。

「名前か、α=ハーメルだ」

「は?アルファ…ですか…」

聞き違いか?

「うーん…別にからかっている訳じゃ無いんだ。本名なんだ」

「そうなんですか」

「本当だぞ。ほら」

取り出して免許証。

 そこには記号で『α』と書かれていた。

「ホントだ」

「α…ですか…」

何か由来でもあるのだろうか?

面倒くさかった…という理由だろうか?

気になるが、後者だった場合リアクションに困るので考えない事にする。

「じゃ、君の連絡先を教えてもらおうかな」

「え」

何でだ?

「この馬鹿が何かとんでもない事をやらかしたのなら私も一緒に…」

酷い言われ様だ。

「そうじゃなくて…事情を聞きたいんだ」

「事情?」

「電話で言ったろ」

「あれ?そうだっけ!」

もう一度話す。それを聞いた妹は、

「私が居れば…剣取ってきます」

好戦的な千佳。

「待て」

本気で行こうとする千佳を本気で止める。

「本っ当に大丈夫?」

改めて体を心配する琉佳。

「あぁ、ヤツを相手にして無事だったのは私と彼だけだ」

「…偶然ですよ」

「そんな事は無いよ。極度の緊張状態であれだけ冷静に判断できたんだからそれは必然だと思う」

「うーん…錬武大会で優勝したのはまぐれじゃなかったのか」

「そう言えば学生だって言ってたね」

「瑠奈…こっちは同級生で・こっちが妹の千佳です」

二人が頭を下げる。

「あの…そろそろ…」

警官が声を掛けてくる。

ちなみに無関係な二人がここに居るのもαさんが口を聞いてくれたおかげだ。

「どう?大丈夫?」

「よっと」

「あれ?怪我無いんじゃ…」

「怪我は無いが…」

「言わないでいいですよ。αさん」

よろよろとした足で立ち上がる。

「大丈夫です」

「なるほど…腰抜かしたんでしょ」

「うるさい」

千佳の的確な分析。流石だ。

「じゃ、とりあえず…連絡先聞いとこうかな」

「あ、はい」

名前とケータイ番号と住所を教える。

「歩いて十分位だね」

「走れば五分いらないですよ」

「何で走っていく?」

「じゃ、私はこれで…」

「あ、琉奈さん。送って行きますよ。ほら!行くよ!」

グイッと手を引っ張られて連れて行かれる。

「じゃ、また」

「あ、はい。…痛たたたた。引っ張るな。自分で歩ける」

「ヨチヨチ歩いてたら朝になるでしょ!」

くそ…言いたい放題だ…言い返せない自分が腹立たしい。

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