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第6話 第2階層17号区画②

 振り返ってみりゃ、唯一の出入口を塞ぐように、豪華な鎧を着込んだ連中が立っていた。

 青い鎧を着た奴と、白い鎧を着た女、それと黒い鎧を着た男が二人。

「そのまま動くな。そして武器を置け」

 俺達を鋭く見据えながら、連中の代表らしき青い鎧を着た奴が、剣の切っ先を向けながら口を開く。

 こっちは6人、向こうは4人。数だけ見りゃ有利だが、実質戦えるのは3人だけな上に、状態だって万全じゃねぇ。もし戦闘にでもなりゃ、負け確だろう。

 俺は持っていた杖を地面に置いて、両手を挙げる。後ろから、続いて金属音が響いてきた。

 その様子を見届けて、何処からどう見ても高価(たか)そうな青い鎧を着た奴が剣を一旦収めて、一歩前に出てくる。

「フン。溝鼠ドブネズミ以下の冒険者連中か。貴様等、何の目的でこの場所に立ち入った」

 切り揃えられた短い金髪。身なりは整えられてはいるが、態度は最悪だ。

 切れ長の目の中で光る青い瞳は、明らかに俺達を見下してやがる。

 気に入らねぇ。

「……戻って来ねえ奴が居やがったから、心配で様子を見に来ただけなんだよ」

 ジュリア達は、コイツの威圧的な様子に押されてやがる。だったら俺が答えるしかねぇじゃねぇか。

 理由を正直に言ってみたが、この身なりの良い無駄に威圧的な騎士っぽい兄ちゃんは納得してないみてぇだ。

「よもや貴様等、死体を盗みに立ち入った訳ではなかろうな?」

 装備してる物だけでなく、死体自体ってのも、高い値段で取引されたりする。

 だから、死体を専門に盗む奴だっている。そういう連中は、死体専門の闇市に、盗んだモンを流してやがるんだ。

 俺の後ろに居る連中の視線が、明らかに俺に集中しているのが分かっちまう。お前ら、俺を何だと思ってるんだよ。

 神に誓うが、俺は死体を売り捌いたり、死体から金目の物を盗んだりする追い剥ぎみてぇな真似は、一度だってやってねぇからな。

「そ、そいつが」

 緊張感に耐えかねたのか、アレフがポツリと口を開きやがった。

「ここ最近、この区画での死体回収の依頼を、何度も」

 おいいいいいいいいッッッ!!

 今この場面で言うようなことじゃねぇだろそれ!

 もっと時場所場合ってモンを考えてモノを言えやこのドポンコツボンクラ野郎が!

「……ほう」

 威圧的な態度の兄ちゃんが、つかつかと俺の方に寄ってくる。

 嫌な予感しかしねぇ。

「貴様に聞くが……」

 俺の目と鼻の先に、威圧的な兄ちゃんが顔を近付けてくる。

 近くで見たから判る。

 目が血走ってやがる。おまけに、えらく殺気立ってもいる。

 こういう奴が、一番危ねぇんだ。

「この鎧に似たものを身に着けた死体を、見た覚えは無いか?」

 言われて、一瞬だけ鎧に目を遣る。

 金属製の青い全身鎧。何だかよく分からねぇ紋章が胸に描かれていて、他にも装飾やらが施されている。塗装が剥げてる所も欠けてるような所も全くねぇ。

 少なくとも、今までこんな鎧は見たこともねぇし、今までの人生では全く無縁な装備品だ。

「残念だが、見たことねぇな。この区画で俺が回収した遺体は、何も身に着けてねぇようなものばかりだったからな」

 冷や汗が背筋を垂れ落ちていくのが判る。

 こういう奴は、何が原因で癇癪を起こすか分かったモンじゃねぇ。似たようなのが、教会のお偉いさんにも居やがったしな。

「そうか」

 一言だけ吐いて、奴は不自然に笑う。

 これは、ヤバい……!

 そう思った瞬間。

「うごぉッッ!」

 腹に強烈な痛みと衝撃。後ろで小さく悲鳴が聞こえた。

 手甲(ガントレット)着けた手で腹を殴ってきやがったコイツ……。

 俺は思わずその場に両膝を突く。昼間に食った豆と肉の煮込みが胃から逆流しそうになるも、何とか口の中で押し留めて飲み込んだ。

 喉の奥が、酸っぱい臭いで一杯になる。

「嘘を吐くな。貴様等のような冒険者など、犯罪者同然のゴロツキばかりだろうが」

 涙目で俯いている俺の髪を掴むと、奴は強引に上を向かせてきやがる。

 コイツには何を言ったって通じねぇだろう。最初ハナからこっちをタチの悪ィ連中と同じ目で見てるどころか、犯人扱いしてやがるんだからな。

「もう一度、弁明の機会を与えてやる。今度は正直に言え。此処で死体回収をしていたのならば、必ず見ている筈だ」

 突き刺してくるような視線と強い口調。少なくとも、それは他人に物を尋ねるような態度じゃねぇだろ。

「だから…………ンなモン……知らねぇし、見たこともねぇよ」

 答えた瞬間、今度は左頬に拳が飛んできた。

 悲鳴を上げる隙もねぇまま、俺は勢い余って、床に横顔から着地する。

「貴様、答えろ!! 一刻も早く兄上を見付けて大司教様に蘇らせて貰わねばならんのだ私は!!」

 口の中が切れたみてぇだ。生温いもので満たされていく感覚と、血の味。

 頭がぐらぐらする中、耳に入ってきた奴の言葉。

『一刻も早く兄上を見付けて大司教様に蘇らせて貰わねばならん』

 ……ああ、そうかよ。

 あの人間として終わってる最悪ゴミカス野郎に死人を復活させて貰えると思ってるような、頭のめでてぇ奴なのかよ。

 おまけに、教会にそれなりの金を積んで融通してもらえるような貴族の出の騎士サマか。

 どおりで俺達冒険者連中を下に見てるって訳だ。

 …………気に入らねぇな、マジで。

「兄上はこの場所で姿を消した筈なのだ! 答えろ……!!」

 今度は俺の首を掴んで起き上がらせてくる。

 そっちがその気なら、こっちにも考えってモンがある。

 一刻も早く医者に診て貰わねぇといけない奴も居るってのによ。

「…………」

 ボソボソと、相手に聞き取れないような声で『唱える』。

「貴様、今、何と言った?」

 顔を近付けてくるそいつ。

「……『脱力ウィークネス』」

 相手にだけ聞こえる声で、はっきりと紡ぐ。

 『脱力』。相手から一時的に全身の力を奪って無力化する『奇蹟』。

「なっ……!?」

 奴の体がぐらりと傾いて、ふらつく。その隙を、俺は見逃す訳がなかった。

 地面に置いた杖を素早く拾うと、そいつの顎の下にくぐらせる。棒みてぇに細い杖だから、こんな時に『便利』だ。

 そして奴の背後に回ると、杖を両手で押し上げて、奴の首に食い込ませていく。

「おいテメェら、コイツがどうなっても良いのかよ!」

 わざとらしく声を張り上げて、出入口に固まってる奴の仲間らしき騎士連中に脅しをかける。

 大声を出せば、さっき殴られた左頬がジンジンと痛む。だが、今はそれどころじゃねぇ。

「武器を捨てて、そこを開けろ!」

 白い鎧を着た女は動揺して、黒い鎧を着た男二人は戸惑っている。

「早くしやがれ! コイツがどうなっても構わねぇんだなテメェら!」

 杖を持つ手に力を込めれば、奴が苦しそうに声を吐き出した。

「……この男の…………言う通りにしろ……」

 かなり強めに『脱力』を掛けたから、自分の重さでかなり首が締まっているらしい。

 コイツの苦しげな様子を見て、白い鎧を着た女は剣を床に放る。黒い鎧を着た二人も、それに続いた。

「……そのまま中に入れ。妙な真似をすりゃ、分かってんだろうな?」

 言いながら、背後に目配せする。

 ジュリアは俺の意図を汲んでくれたらしい。俺がゆっくりと体の向きを変えるのに合わせて、他の連中と示し合わせて少しずつ部屋の中を移動していく。

 3人の騎士が部屋の中に入り壁を背にした状態。そして、俺の斜め後ろには出入口。

「おいアレフにジュリア、行け」

 連中を睨み付けながら、小声で後ろに呼び掛ける。

 返事は無かったが、代わりの足音が響いた。

 重い足音。コイツは重戦士の兄ちゃんを背負ったアレフだ。

 軽い足音と、それに続く2つの足音。ジュリアのパーティだな。

 来る途中に白墨チョークで印を付けておいたから、区画を出るだけなら迷わねぇはずだ。

 ある程度まで足音が遠ざかったのを耳で確認すると、俺は杖を持つ力を緩めて、奴を解放する。

 まだ『脱力』効いてるみてぇだ。膝から崩れ落ちる、青い鎧の騎士。

 だが俺は、それを最後まで見届けることなく、すぐさまその場を逃げ出した。

「追ってくるんじゃねぇぞ!!」

 そう言い残して。

 背後で「奴らを追え」なんて声が聞こえた気がしたが、気にしてる余裕なんざある訳もなく。

 ……足止めくれぇは必要だな。

 ほんの一瞬立ち止まり、ポケットから銀貨を1枚取り出す。

 祈りの言葉を心の中で唱えた後、例の小部屋に続く道の方に、そいつを勢い良く放り投げた。

 その後は、俺はアレフやジュリア達の後に続くべく全力疾走だ。

 遥か後方で金属音が響いたと同時に、悲鳴らしきものが聞こえた気がした。

 『閃光フラッシング』。コイツを使うには、光を反射するものが必要だ。

 例えば俺が持ってる金属製の杖とか、あとは貨幣や鏡や宝石なんかの類がな。

 さて、さっさと合流して、早ぇトコあの兄ちゃんを医者に運んでやらねぇと。

 俺が『奇蹟』を使っちまった以上、ちゃんと生きててもらわねぇと困るんだよ。じゃねぇと、無駄になっちまうだろうが。


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