異世界これくしょん ~外れスキル『鑑識眼』でコレクター活動していたら国の英雄になっていた~
自分が異世界いったらゴブリンにぶっ飛ばされる未来が見える
突然ですが、みなさん。蒐集してますか?
古着? それとも骨董品? 宝石なんかもいいですね。
かくいうオレも、もちろん蒐集してます! なんせ、世界的コレクターの息子ですから。
オレ、裕。十七歳。
学力平均以下。運動神経平均以下。他人とうまくやる方法なんて分からずに、いつしか家に閉じこもってしまったオレは、ある日親父の部屋に足を踏み入れて、そして――衝撃を受けました。
壁一面に飾ってあったのは、背中にどかどかと虎の刺繡が施されたジャンパーや、土泥の染みこんだジーパン。
見る人からしたら粗雑で清潔感のないオンボロなんだろうけれど。
それでも俺は、そのヴィンテージたちに心を打たれたんです。
それを機に親父の海外渡航についていっては現地で古着を買い付けたり、ヘンな民族のヘンなお面を持ち帰ってきては眺める暮らしを続けていました。
そんなある日。ロシアだったかな……いつも通り蒐集活動に勤しんでいたオレは、鉱石を採掘するために鉱山に踏み入って、なんか近くの活火山の火山活動に巻き込まれて、おっ死んじまいました。
はい。オレ、死にました。
と思ったのも束の間、なんかカミサマがいる不思議空間に飛ばされて、いろいろ手続きを済ましたら、転生させてくれることになりました。
なんでも転生前に『スキル』の抽選が行われるらしいんスけど。俺が引いたスキルは『鑑識眼』――剣と魔法の世界じゃあなんの役にも立たない、いわゆる外れスキルってやつだと、カミサマはばつが悪そうに言ってました。
だがしかし。オレにとってはむしろ好都合。異世界転生――つまりはファンタジー世界、前世とは比べ物にならないような神秘の宿った鉱石とか、黄金キラキラの甲冑とかを拝めるってわけだろ? 願ったり叶ったりじゃないか!
そして転生後。オレは王国の城下町で雑貨屋を営むことにしました。
冒険? しないよ? だって怖いし。元ひきこもりにバトルとかできるわけないでしょ。だから大人しく安全な街中でやりたいことをやる。それがオレのセカンドライフ。
▼
「オーイ。やっとるかい?」
「はいはい、年中無休でっせ。ま、急遽買い付けに行って店を開けることはありますけど」
本日最初のお客様がやってきた。
はじめて見る顔だ。腰に剣を携えているし、格好からして中年の冒険者さんってとこか。
こういうとき、無意識にステータスを覗き込んでしまう。『鑑識眼』のスキルは生物にも有効で、こうやって隠された数値を見ることができるのだ。
して、ステータスは……って、レベル89⁉ バケモンじゃねえか、王都直属の近衛騎士団長クラスだぞ。
こんな無精ヒゲ生やしたおっさんが……人は見かけによらないなあ。
「で、なにか御用ですか」
「ああ。ちと小遣い稼ぎにな。金になるかはわからんが」
そうぼやいておっさんはポケットをがさごそ漁りだした。
酒屋のレシートとか小銭とかが散らばる中、目当てのモノを探り当ててカウンターに置く。
黒く尖った火山岩のような見た目の小石は、なにやら脈打っているようにも見えなくない。
「これは、鉱石、ですか」
「おうよ。こないだ出向いた討伐依頼の副産物だ。ドラゴンの腸ぶち抜いてやったら、奴さん、んなモン落としやがった」
あっさりとんでもないこと言いのけやがったぞ、このおっさん。
「ギルドに持ってっても鑑定してくれなくてよ。そしたらあんちゃんの店が目に留まったワケだ」
「はあ。それはどうも。……とりあえず、鑑てみますね」
俺は鉱石にそっと手をかざし、目を閉じた。
スキル『鑑識眼』――その能力が告げる、この石ころの価値は。
「……つかぬことをお伺いしますが、コレはなんすか?」
「おん? よく分かんねえけど、鉱石じゃねえのか。つか、あんちゃん。こっちが聞きてえよ。俺ぁその石ころを鑑定しに来たんだからな」
訝しむようにおっさんが答えた。
だけど、それはこっちのセリフだっての。
「いやいや。冗談よしてくださいよ旦那。こんなんが、ただの石ころなワケないでしょ!」
オレはカウンター越しにおっさんに詰め寄った。なにが悲しくて野郎どうしの吐息が重なる距離でのツーショット見せられてんだ、なんて思うかもしれないですけど、そこはご自愛いただきたい。
オレは血走った眼で手元の物質を指差した。
「これは石じゃないですよ! 宝石でもない、〈ドラゴンの心臓〉っスよ!」
必死の形相で鑑定結果を告げた。おっさんは一瞬たじろいで、それから瞼をぱちくりさせたあと、急に破願した。
「……っぷ。だはははは‼ ナニ言ってんだオマエさん、し、心臓て! ドラゴンの心臓、ぶははっは‼」
なに腹抱えて笑ってんだこのおっさん。
や、そう言われても。オレだって書いてあることをそのまま伝えただけなんだから。
なんでもドラゴンの心臓は、その膨大なエネルギーで周囲の生命に活力を与える最上級のレアアイテムなんだとか。
「まいいや。そのジョークに騙されといてやるよ」
半ば煮え切らない様子で、おっさんは店を後にした。
その日の営業は散々でした。
はじめのアレが縁起とかそういうのを持って行っちまったんでしょう、後から来たお客さんもわけの分からない古代の土偶とかいわくつきの朽ちた剣とかを持ち込んできやがったんです。
まあ商売だし、最初のドラゴンの心臓ほどの厄ネタ品はなかったんでいちおう買い取りましたけど。
あ、朽ちた剣は売れました。というよりたまたま訪ねてきたおにーさんに押し付けました。
なんでもあの剣ははるか昔に滅びた勇者の血族に伝わってきた由緒正しい聖剣らしいんすけど、んな代物が一般人に扱えるわけがないんす。でもそのおにーさん、オレの『鑑識眼』で視てみたら、偶然その一族の遠縁らしくて。現役で冒険者やってるらしいんで役に立てばと思って預けました。
▼
――その数日後だった。
王国を、数百年に一度起こるとされている大災害が襲った。
地脈は鳴動し、空が割れ嵐が殴りつけてきた。作物は枯れ果て町は吹き飛ばされていく。
その機に乗じて魔王軍幹部がいっせいに攻め込んできた。災害の対応に追われ満身創痍の護衛軍。王国は滅びの危機へと差し迫っていた。
未曽有の大災難。窮地に立たされた王国は、しかし、奇跡とも呼べる偶然の連続によって窮地を脱した。
数多の軍勢を率いて現れた魔王軍は、突如として馳せ参じた冒険者の振るう聖剣に、なすすべなく討ち払われた。
倒壊した王都は、古代文明の神秘が宿った偶器の声を聞き届けた者の進言により目覚ましい回復を見せた。
そして荒れ果てた土地による食糧問題。なぎ倒された木から、風に剥がされた畑から、過去に類を見ない収穫量の作物が実りだした。
そこに居合わせた農家が言うには、村に滞在していた中年の冒険者の懐に光る黒い塊が、その拍動と共にあらゆる植物や果実を急成長させていったとか。
王国の危機を救った三者は、やがて英雄と称えられるようになった。
だが、誰も知らない。
三人の英雄の誕生を後押しした、城下町の小さな雑貨屋のことを。
「店員さん! これ、この網鎧どうですか! この肩周りに施されたステッチとか、全体に広がるリバースウィーブとか渋いでしょ! おそらくこれは'70年代の――」
「ああソレ、ユ〇クロで売ってるよ」
はじめまして!
別の作品を執筆中に急に思い立って書きました。
少しでも「悪くないやんけ」「及第点」「面白い!面白すぎます!」と思っていただけましたら、
↓の☆☆☆☆☆を押して評価をしていただけると泣いて喜びます!
ブックマーク、感想やレビューなどもいただけましたら幸いです!
他にも短編書いたり、青春ラブコメを連載してるんで、そちらもぜひ!
それでは、またどこかで!