2 オールド・スピタルフィールズ・マーケット
羽田空港から長い旅路を経て、ロンドン・ヒースロー空港に到着する。そこからは、最近できたエリザベス・ラインで一気にパディントン駅まで移動した。
ロンドン・ヒースロー空港からロンドン市内までは幾つかの行き方があるが、価格と時間でちょうど良いヒースロー・コネクトという電車に、いつも乗っている。これは、乗って15分でロンドン市内まで到着するヒースロー・エクスプレスよりは安いが、安いけれど一時間ほどかかってしまう地下鉄に乗るよりは早いという、適度な塩梅のものだった。
「……ん? ヒースロー・コネクトのチケットがないな?」
しかし、いざ乗り場まできてみると、チケット売り場でヒースロー・コネクトを購入する画面が出てこないではないか。
「困ったな。エリザベス・ラインとヒースロー・エクスプレスしかない」
何度確認しても、その二つしか出てこない。
「すみません」
しかたがないので、近くのスタッフに聞くことにした。
「ヒースロー・コネクトでパディントンまで行きたいんだけど」
「ああ。何で買うの?」
「クレジットカード」
「オーケー。これを選んで」
彼女が指し示してくれたのは、エリザベス・ラインだ。やはり選択肢はそれしかないのか。
とはいえ、最新の路線だしまぁ良いか、とチケットを買った。
「ん? あれ、値段がヒースロー・コネクトに近いな」
そう。私は知らなかったのだ。
エリザベス・ラインができたことで、ヒースロー・コネクトがなくなっていたということを。
結局、希望の方法に近い形で、パディントン駅に到着することができたのである。
さて、そうして乗った新しいエリザベス・ラインは、非常に快適だった。なにしろ車両が新しい。日本の電車と違って、やはり年期の入った車両は座り心地が悪かったり、通路が狭かったり、あまりキレイじゃなかったりするし、場合によっては電車に階段が付いていたりする(さすがに、ロンドン・ヒースロー空港まで行く電車に階段はないが)。以前乗った電車は、外からガッチャンとノブを回して扉を開けるものすらあった。あれは怖い。
「運転音も静かだし、なかなかいいじゃん」
このエリザベス・ライン。女王陛下の名前を冠しているだけあって、車内の椅子は紫色。車体のアクセントカラーも紫色。どうやらテーマカラーが紫らしい。ちなみに、パディントン駅のホームへの入口も紫だった。
日本では古来、紫は高貴な方の色合いだったが、実はそれはイギリスでも同じ。エリザベス一世の時代は、王室に近い人間以外が紫を纏うことを禁じていたらしい。さすが王様が一番強い時代の女王だわ。もちろん、今の時代はそんなきまりはないので、エリザベス二世の名前を冠したこの電車は、テーマカラーが紫でも罰せられることはない(そりゃそうだ)。
この電車は本来2018年に開業する予定だった。私も行く度に「開通するハズだったんだけど」という話を聞いていたのだ。それがついに、女王陛下の戴冠70周年ジュビリーの年、2022年に開業した。めでたい! エリザベス二世も、開通を見届けることができて良かったと思ったことだろう。たぶん。
そんなこんなで、約35分ほど電車に揺られ到着したのは、パディントン駅。今回のホテルはパディントン駅からも歩いて行けるので、荷物を引きずり、ホテルに向かう。チェックインは三時からだが、荷物を事前に『無料で』預かって貰えることは確認済みだ。
ちなみに、日本では宿泊先では当たり前のように無料で荷物預かりをしてくれるが、ここロンドンではきちんと確認しないと、5~10ポンドほど取られることはザラにある。それに、日本のようにあちらこちらに安価のロッカーがあるわけでもないのだ。気を付けたい。
ロンドンはとにかくホテルが高いので、できるだけ安く、けれど安すぎると安全と清潔が担保されないので、そこそこの金額──一泊が8,000円~12,000の間──の場所を予約する。それだけ払っても、部屋は狭くエレベーターがない場所も多い。今回のホテルもそれだ。与えられた部屋は4階だが、エレベーターがないため、私の重い荷物は一階の宿泊者しか入れない、けれど受付からは見える、そこそこ安全な場所に置くことになった。貴重品や、その日に使う着替えなどは、もちろん部屋に持っていくのだが。
そうして荷物を預けると、ようやくロンドンの街に飛び込むことができる。
私は再びパディントン駅に向かい、今度は地下鉄に乗り込む。
イギリスの地下鉄はチューブと呼ばれているが、この存在がもうアンティークものだ。何と言っても、世界最古の地下鉄なのだから。
開業は1863年1月。これがどのくらい昔かと言うと、アメリカではリンカーンが奴隷解放宣言を布告し、さらにはディケスバーグでかの有名な「人民の人民による人民のための政治」と演説した。日本では第14代将軍徳川家茂が上洛し、さらに新選組が結成されたり、高杉晋作が奇兵隊を編成している。イギリスと日本の関わりで言えば、薩英戦争なんてものが勃発した年でもある。
イギリスの時の国王は、ヴィクトリア女王。彼女は1837年6月からの在位なので、戴冠してから30年も経っている。そして、イギリスはこのヴィクトリア女王の時代に、経済も文化も大きく花開いた。いわゆる、大英帝国の女王である。
イギリスというのは女王の治世に大きく時代が動いているようで、有名どころとしても、エリザベス一世の治世では、小さな島国だったイングランド王国が、当時最盛を誇っていたスペインの無敵艦隊を打ち破った。彼女は英国史に燦然と輝く黄金時代を築いた女王として、名を残す。戴冠は1559年で、彼女の時代にはウィリアム・シェイクスピアも活躍している。日本はその頃戦国時代。信長、秀吉、家康の時代だ。
次にヴィクトリア女王──エリザベス一世からヴィクトリア女王の間に二名ほど女王が立ち、それぞれの時代で政治的手腕は振るっているが、ここで紹介することは割愛する──だ。
先に記載したとおり、ヴィクトリア女王の時代は産業革命が起こり、工業化が進み地下鉄などの交通網も発達する。世界各地を植民地・半植民地とし、支配する大英帝国が最盛期を迎えた。つまり、帝国主義のど真ん中を突っ走る時代の国王である。彼女の時代にはロンドン万博も開催され、その跡地を使い、今も残るロイヤル・アルバート・ホール、ヴィクトリア&アルバート博物館、ロンドン自然史博物館、サイエンス・ミュージアムなどが建設された。個人的にはヴィクトリア&アルバート博物館のカフェの内装が美しく、好きだ。アンティークなどに興味がある人は、この博物館はぜひ足を運ぶべき。見ているだけで、幸せになれること請け合いだ。
そしてついに、私たちが良く知っているエリザベス二世の登場となる。彼女の長きにわたる在位と国民への働きかけは、多くの日本人も知るところだろう。
どの女王の治世でも、大きく時代が動き、そしてイギリスが繁栄しているのだ。
さて、話は私がホテルに到着した後に戻る。
そのアンティークな地下鉄、通称チューブに乗り込み、最初に向かうのはリバプール・ストリート駅だ。ロンドン全体で見たら、東側のエリアに属する。乗るのは、ハマースミス&シティ・ラインか、サークル・ライン。このパディントン駅からリバプール・ストリート駅の間が、というよりもこの路線が、非常にトロい。他の路線に比べてスピードがでていない気がするのだが、実際のところはどうなのだろうか。
さぁ、目指すは『オールド・スピタルフィールズ・マーケット』。
このマーケットは、なんと17世紀からある。スピタルフィールズってなんぞや? と思って調べてみると、どうやらこの一帯、古くは病院を兼ねた聖メアリー修道院の庭先だったらしい。それで『ホスピタル・フィールズ』。綴りでいけば”hospital fields”。
ロンドン東側というのは下町だ。かねて東京でも東側は下町であったが、ロンドンも同じらしい。そして、このロンドンの下町言葉、いわゆるコックニー(ロンドンの労働階級で話される訛り)では『h』というのは発音しない。それで『ホスピタル・フィールズ』が『スピタル・フィールズ』となったそうだ。『オスピタル』とはならないのだなぁ、なんて、英語のできない私は思ってしまうが。
その『オールド・スピタルフィールズ・マーケット』には、リバプール・ストリート駅から、背の低い私の足でも5分程度歩けば到着する。
屋根のあるマーケットは、急な雨の多いロンドンではありがたい存在だ。マーケットの作りとしては、半分くらいは若者向けの雑貨や服飾のストール(屋台、店舗のこと。ここではオープンな区画に出店している店舗を指す)が並ぶ。もう半分は、曜日により出店の種類が変わるので注意が必要だ。アンティークが多いのは木曜と日曜。特に木曜日はアンティークがテーマの日なので、アンティーク目当ての私は、この木曜に行かねばならない。そして木曜は……今日!
アンティークが目的とは言っても、もちろんアンティーク以外もチェックする。だってせっかく来たんだもの。というわけで、まずは若者向けの雑貨や服飾品のストールを見る。自分が若者なのかと言われたら困ってしまうが、ストールというのは、年令で受け入れる者を区別しないのが良い。
閉ざされた扉がなく、鉄枠で作られた立方体の区画なので、通路を歩けば売っている商品を全て見ることができる。東南アジア辺りから仕入れた洋服じゃないかな、と思うものもあれば、格好良いレザージャケットが売っていたり、手編みのニットが売っていたり……実に様々だ。売り手は言葉巧みに、そして勢いよく売りに来るので、英語ができない私は、調子に乗って、勢いで買ってしまわないように気を付けねばならない。
そんなことを言っている間に、あぁ、ほらもう試着して気に入って買ってしまった。ネイビーのショートレザージャケットだ。
じっと見ていたら店主のおじさんが出てきて、着てみなよ、なんて言う。どうせサイズが大きくて買えないだろうと高をくくって、試着をする。
「……ぴったりじゃん」
サイズ、小さな私にぴったりなのは、むしろ販売場所を考えたら失敗ではないのだろうか。
「似合うよ。鏡はこっち」
そうして姿見のある、店舗の中に案内された。
「ほんとだ、似合ってる。かわいいジャケットじゃん」
「うん、かわいい」
英語が良くわからなくても、褒め言葉というのは伝わってくるものだ。私はご機嫌になる。いくらだろうとチェックすると、157ポンド。素材もとてもやわらかくて、着心地が良い。
「この革は何の革?」
「ラムだよ」
「ラムかぁ。私ラム革好きなんだよなぁ」
遙か昔に購入したラムナッパのロングコートは、袖がボロボロになってきた今でも愛用の品だ。今回のこれはショートレザーコート。正直、そんなに着る機会はないかも? と迷いつつも、かわいいワンピにこれをあわせたら絶対にかわいい! と思ってしまう。日本で買えば、こんなに手触りの良いレザーコートは、4万円以上はするだろう。もっとするかもしれない。そう考えると、突然お買い得な気がしてきてしまった。
「よし、買おう。買います!」
最初の買おうは日本語で。その後の買いますは英語で告げる。
「他には、買うものない? 二つ買えば安くするよ」
言われて店内をぐるりと見るが、他に私好みのものはない。それにこう言われてしまったら、一つでは値下げ交渉はできなさそうだ。少なくとも、私の語学力では。
「今日はもうこれだけで大丈夫! ありがとう!」
こうして、マーケット到着早々、買い物をしてしまった。でもまぁ、一期一会だ。良い買い物をした。この後は財布の紐をきっちりと締めなくては! 多分無理だけど。そうして買い物をしてご機嫌になりながら、いよいよアンティークのストールが多いエリアへ。
こちらのエリアは木枠で店舗が区切られている。この鉄枠と木枠の違いは何かわからないけれど、気にするところではない。
テーブルや棚に商品が所狭しと並んでいるそれぞれのストールを、ゆっくりと回る。蚤の市やフリーマーケットを想像してくれれば良いだろう。丁寧にガラスケースに飾られたお高そうなものから、籠に雑多に放り込まれているものまで、まさにピンキリだ。自分で楽しむためのアンティークなので、商品の価値は自分が欲しいと思うかどうか。ただそれだけ。
「ハロー」
なんて言いながら、店の中を見ていく。店主は黙って店番をしていることもあれば──そう言う場合は、大抵私の声かけに「ハロー」と返してくれる──隣のストールの店主や、馴染みと話し込んでちらりとこちらを見るだけのこともある。どちらにしろ、相手の反応なんて気にせずに、商品を見ていくのだ。その中で気に入ったものがあれば、金額の確認。ダメモトで値下げ交渉もアリだ。私は小心者なので、二つ買うときに「二個買うからちょっと安くならないかな」と聞いてみることがある程度。もっと英語が話せれば、英国人が好むようなウィットに富んだ会話で値下げ交渉もできるだろうけどさ……。ちなみに「アイム ゴーイング トゥ バイ ディスワン、アンドディスワン。ア~、ナウ、ディーズ○ポンド。プリーズモア……」みたいに言っている。わかっている。これが正しい英語ではないことは(倒置法)。伝われば良いのだ、伝われば! だって妙にこなれた言い回しをして、英語が話せると思われても困るでしょう。会話はキャッチボールだ。こちらの英語レベルを提示しながらも、自分の考えていることを伝えるのが大事。もちろん、スマートフォンなどの翻訳機能を使うのも良いかもしれない。けれど、私はこうしてカタコトでも自分の声で伝える方が、楽しい。そう思っている。
さて、アンティークのアクセサリーがお目当てとは言っていたが、実は今回ここで先に見つけたのはカップアンドソーサーだった。
ふらふらと歩いていたら、とても柄が好みのティーカップトリオ(ティーカップとソーサーとティープレートの三点セットのこと)と出会ってしまった。その店はシルバー類がメインらしく、他にティーカップトリオは一脚ずつ、3~4種類くらい置かれていたが、じっくり見比べても、やはり最初に気になったものが一番だ。
カップの裏を見れば『ロイヤルスタッフォード』と書かれてあり、そのあとに『ボーンチャイナ メイドインイングランド』と記載。さらにそのあとに、何やら数字のようなものが書かれているが──うん、よくわからない! ただ、この商品がとても気に入った。それだけが全てだった。
「いくら?」
「11ポンドだよ」
「キャッシュで払うから、少し安くならないかな」
「随分気に入って見てたもんね」
「そう! すごく可愛い。ソーラブリーね」
この、最後の「ね」は日本語だ。
「いいよ。10ポンドでどう?」
「ありがとう! 買います!」
正直、別に値下げして貰えなくても良かったけれど、旅先でのこうした会話が楽しい。英語なんて話せなくても、度胸さえあれば会話は楽しめるのだ。ついでに、度胸ってなにさ? という部分だけれど、簡単に言えば
「きれいな英語の文章を話すことを放棄する」
これに限る。
私は先にも書いたように、英語に関する知識が脳内にこれっぽっちもない。なので、考えても無駄だと思って、知っている単語と日本語を組み合わせながらどんどん口にしていく。日本人は、なんだかんだ言っても単語は知っている。難しい言葉は知らなかったとしても「ラブリー」「キュート」「ゲット」「サンキュー」「キャッシュ」辺りは誰もが口にすることができるだろう。ちなみに最後の「キャッシュ」だが、実は今回の旅で知った単語に「ペーパーキャッシュ」がある。イギリスはクレジットカードの利用率が高く、マーケットの屋台飲食ですらクレジットカードが使える。むしろ現金を使う人が少ないので、私が現金を出したら、レジのお姉さんがびっくりしてそう口にしていた。まぁ……、一般用語なのかはわからないけれど。
ともかく、知っている単語をつなぎ合わせ、上手く伝わらなければ手帳に絵を描いて伝えていく。値切るときなら数字を紙に書くのも良いだろう。コミュニケーションをあなたと取りたいんだ、という意志を伝えることが、一番大切になる。もしもあなたが、きちんと英語を話すほどではないけれど、学生時代はそこそこ英語ができていたという場合、まずは「きちんとした文章で会話をする」ことを捨ててみよう。コミュニケーションを取りながら、それっぽい文章で話せば、会話は盛り上がるのだ。まぁもちろん、きちんとした文章で会話ができるのが一番なんだけどね。
さて、こうして無事に一目惚れしたティーカップトリオを購入することができた。マーケットでは、というよりもイギリスでは、丁寧な梱包を期待できないので、自分でエコバッグや梱包材代わりにするプチプチ(緩衝材)やタオルなどを持ち歩くことが大切だ。今回私は陶器を買うつもりはなかったので、手持ちの手ぬぐいに包み、エコバッグではなく斜めがけしているカバンの方に入れるつもりだ。エコバッグだと、人とぶつかって割れたりしそうだな、と思ったからね。
そうだ。せっかくなのでここで、ティーカップトリオとロイヤルスタッフォードについて記載しておこう。
ティーカップトリオとは、アフタヌーン・ティーの習慣が定着した19世紀後半頃より、カップと二枚のお皿(それぞれサイズが違う)の三点セットで作られるようになった。ティーカップは、まぁ紅茶を入れるカップだと分かる。そしてもう一枚はそのティーカップの受け皿となるソーサー。では残りの一枚は、というとティープレートと呼びお茶菓子を盛り付けるためのものになる。19世紀後半頃、と言ったのは、ヴィクトリア初期である19世紀中頃までは、トリオと言えばコーヒーカップとティーカップとソーサーの三点セットのことだったからだ。そちらは『トゥルートリオ』と呼ぶ。一つのソーサーで紅茶を飲むとき、コーヒーを飲むときと使い分けるとは、合理的で非常にイギリス人らしい発想だ。
そしてロイヤルスタッフォード。1845年にイギリスの陶器の街ストーク・オン・トレントで創業した。このストーク・オン・トレントでは、他にもウェッジウッドやミントンなども生まれている。まさに陶器の街だ。場所としてはリバプールとバーミンガムの間くらいに位置している。一度は行ってみたい街だ。
店主からカップを貰う。なんと申し訳程度の緩衝材を挟んでくれていた。なんて親切な店だ。──イギリスに来ると、親切のハードルが下がって良い。
「サンキューソーマッチ」
私はそう口にし、次の店に向かった。
今度は一つ隣の通りだ。そこで見つけたのは、琥珀を扱っているストール。実は私は琥珀、英語で言うところの『アンバー』が大好きなのだ。飴色の琥珀も、白のように透明度のない琥珀も、どれも愛おしい。嬉しくなり、そのストールでじっくりと見ていると「あわせて見てね」と鏡を出してくれた。私は背が低いのもあり、最初に店主が出してくれた鏡の位置だとよく見えず、背伸びをすることに。店主と目が合い、お互い笑い合ってしまった。
「あら、良く似合っているわ」
「ありがとう。うぅん。これいくら?」
「18ポンド」
大きな楕円形のシルバーと琥珀のピアスは、なかなか好む色合いのものだった。悩んで、結局一度店舗を離れたものの、戻ってきて買うことにした。戻れば、店主は嬉しそうな顔をしてくれる。他にもいくつか提案してくれたけれど、私はやはり最初に見つけたピアスが良くて、結局それを買うことにした。これはたぶん、アンティークというほど古いものではないだろうけれど、気に入ったので、大満足だ。
レザージャケットを入れると三つも買い物をして、ほくほくしながら、端から端まで見て回る。日本のアイテムを取り入れている店があったり、古い時計を扱う店があったり、はたまたシルバー(カトラリーのことだ)を扱う店があったりと、見ていて飽きない。飽きないが、疲れはやってくる。
「よし、お腹が空いた! ご飯にしよう」
こうして、私はオールド・スピタルフィールズ・マーケットでの買い物を終えた。
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