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14 エピローグ

 今回紹介したアンティーク・マーケットの他にも、ロンドンにはたくさんのアンティーク・マーケットやショップがある。高級な場所から、そうではない場所まで様々だ。アンティーク以外でも、楽しいマーケットもたくさん。紹介しきれないのが悔しいくらいだが、それは次に譲ろうと思う。


 途中出てきたように、ロンドンから日帰りで行ける町へのショートトリップも楽しいし、バスなどで巡れる中距離トリップもお勧めだ。でも、何よりも、行く前にその町の情報を得ておくことが大切になる。その情報は、もちろん治安やショップ、マーケットなどのことも含まれるが、それ以上にその町の歴史だ。


 ヨーロッパの町は教会を中心に発展してきている。その教会の歴史や、町の歴史を知っておくだけで、旅は何倍も楽しくなる。たとえ、その場所が思ったよりもなにもなくて、つまらなかったとしても。


 ところで、調べるというともう一つ。


 イギリスには、数多くのチャリティ・ショップがある。各ショップには、それぞれのバックボーンとなる団体があり、何の目的で寄付をするかが分かるようにショップ入口に店名のように掲げられている。例えば”British Heart Foundation”はおそらくイギリスで一番よく見かける店舗で、心臓や体内臓器の研究基金を募っている。あるいは”Royal Trinity”はホスピスの終末期患者に対してケアを提供していたり、と店名をみればある程度わかるようになっているのだ。


 こうした店は、その店の地域に住む人が古い品を持っていき寄付をする。その品を販売して得た売上げを、各団体に寄付する形だ。とはいえ、緊張しなくても良い。普通のお店と何ら変わりはないのだ。イギリスはチャリティ文化が根付いていることもあるが、さらに古い物に価値を見いだす文化でもある。だからこそ、こうした店がセントラル・ロンドンという高地価の場所でまで、数多くあるのだろう。


 事前にチャリティ・ショップのそうした名称のリストを軽く見ておくと、自分が買ったそのお金が、どんな社会貢献として役立っているのかを知ることができる。これもまた、一つの旅の楽しみ方だろう。


 そんなチャリティ・ショップで、ピアスとお揃いのペンダントヘッドを購入した。シェルが貼り付けてあるそれは、なんとセットで二ポンド。迷うことなく購入してしまった。安い……。アンティークではないが、古いものだ。誰かが大切に使っていた品を、大切に受け継ぐ。アンティークやヴィンテージという名称に捕らわれず、自分の気に入った商品を手に入れられれば、それが一番幸せなのだろう。


 実は、最後に訪れたグレイズ・アンティーク・マーケットのあの店で、こんなやり取りがあった。


「ディーラーの方ですか?」


 店主がそう私に尋ねる。


「あ、いえ違うんです。ただ、テレビでアンティークのディーラーさんのことを見て」

「ああ。あの方、よくここにも来るんですよ」


 どうやら私が見ていた番組に出ていたディーラーさんのことを、知っていたのだ。別に私はそのテレビで見たディーラーさんとは知り合いでもなんでもないが、彼をきっかけに、こうしてアンティーク・マーケットを巡る旅をすることにした。

 こうやって世界は繋がっていくのだな、と思ってしまう。


 アルフィーズ・アンティーク・マーケットで出会ったあのおばあちゃまも、カムデン・パッセージ・マーケットで知り合ったあの店主も、そしてバーモンジー・アンティーク・マーケットで私の紙幣に指摘をしてくれたおじさんも。

 次に同じ場所に行ったとて、再び出会える保証など何もない。

 同じように、アンティークの品は同じ場所に再び行っても、いや、もしかしたらほんの少しその場を離れた間にも、誰かの元に旅立って行ってしまうのかもしれない。


 そんな不思議な縁が、このロンドンにはまるで網の目のように張っている。それはあたかも、世界で一番古い、アンティークなチューブの路線図のように。

 今回手に入れたアンティークの品は、安いものは10ポンドから、高いものは630ポンドまで、実に様々だ。私はプロのディーラーではない。自分のためだけに購入するこのアンティークたちの価値は、けして値段ではない。私の目に触れた瞬間、彼らはまるで話しかけるようにこちらに手を伸ばしてきたのだ。悩んで悩んでやっぱり買ってしまったものたちは、悩んだことを忘れるように、するりと私の手の中にやってきて、当たり前の顔をしている。

 そんな馬鹿なと思うかもしれない。

 けれどこれは本当のこと。

 だから、ぜひ体感して欲しい。

 ロンドンはいつでも、迎え入れてくれるのだから。


                                   了

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