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1 プロローグ

「このお金は使えないよ」


 よし、このネックレスを買おう。そう決意した私に、店主は早口でそう言った。

 バーモンドジー・アンティーク・マーケットの真ん中。コロナ前の2019年には使えていたお札が、2023年には使えなくなっていた。


 ──なんてこったい。


 ロンドンの九月は、まだ晴れの日が多い。コロナが始まった2020年から三年半。久しぶりに来たロンドンは、私に優しくはなかった。


「なんで使えないの?」


 英語力なんてほとんどない私は、ホワイホワイを繰り返す。店主のおじさんはぷっくりとした指で、自分の財布からお札を出して私に見せた。


「プラスチックペーパーじゃないだろ? 銀行で交換してきて」


 言われた内容に、手元の紙幣を見る。なるほど。おじさんのプラスチック製の紙幣と違い、紙でできている。紙幣の種類が変わったのか、とようやく理解し、


「オーケー。銀行に行ってくる」


そう言って、その場を立ち去ることにした。


(……ま、戻ってこないけどね)


 250ポンドのネックレスを買うか迷い、ようやく決意したのだ。その決意が折れたら、一気にどうでも良くなった。キラキラと輝いていたヴィクトリア時代のネックレスよ、さらば。


   *


 私が初めてイギリスを訪れたのは、2009年の秋。当時勤めていた会社を辞めて、さてどうするかとなったときに、この機会に行ってみようと思ったのだ。

 それ以来コロナ禍時期の数年を除いて、ほぼ毎年通うようになった。

 イギリスに行くときには、ついでにヨーロッパの他の国も回ったりするので、人に「何カ国語話せるの?」などと言われることもある。


 だが、正直に言おう。

 日本語一カ国語のみしか、話せない。

 英語すら、ままならないのだ。


 こう言うと、「そんなこと言っても、なんだかんだで、しゃべれるんでしょう?」と返される。まぁ、私も義務教育+高校までの六年間英語を学んできた。基礎的なことはでき──十段階評価の通知表での平均が六という、微妙に中の下レベルくらいしかできない。しかも残念なことに、それは現役時代で、だ。大学受験に至っては、英語の受験をしないで良い学校を選んだくらい(国語の論文だけだった)。ちなみに中高の長期休暇明けにあった、英単語百個のライティングは必ず再試験だった(確か70点が合格ラインだった。再試験を経るごとに合格点が10点上がっていく)。


 これで、私がいかに英語を話せないかが、わかっていただけたかと思う。

 何が言いたいかというと、これほど英語を話せなくても、毎年イギリスに行って楽しむことが十分にできるということ。それも、一人旅で。


 そんなこんなで、コロナ禍で自由に国を行き来できなくなった2020年から三年ほど経つと、だんだん往来もできるようになってくる。毎年イギリスに行っていた身からすると、それはもう行きたくて仕方がないモードになり、仕事をしていても「イギリスに行けないから、集中できない」などと、軽口のつもりが本気のような言葉が毎日のように出るようになる。ついにはある日、「私、イギリス行ってきます」とチケットを取り終えてから、部署の皆に告げることとなった。


 そんな、2023年の九月。

 そうして私は、久しぶりに人が戻ってきている羽田空港第三ターミナルから、ロンドン・ヒースロー空港に飛び立ったのだった。


 さて、毎回イギリスに行くときには、何かしらのテーマを決めている。今回は『アンティークのジュエリーかアクセサリーを購入する』と心に誓いながら、日程を決めていた。もともとジュエリーやアクセサリーが好きなのもあるし、アンティークなものも好き。なにより、テレビで見たアンティークジュエリーの買い付けの様子に、テンションが上がってしまったのだ。


 とは言え、私はプロの目利きでもなければ、買った商品を日本で売ろうという目的があるわけでもない。自分で使うものを、楽しく買い物する。今回はそれを満たせる旅行にしよう。もちろん、久しぶりのロンドンだ。他にも──そう、ロンドンからのショートトリップなんかも良い。そう思って、私は旅の計画を始めたのだった。


初めてエッセイを投稿します。

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