4.キャラクターに必要な設定について
ようし、本編合わせて1万文字くらい書いたぞぅ! 息抜きの時間だ―!
これは、SF小説に限った事でも無いのだが、主要なキャラクターの設定についての話だ。
皆さん頑張って、色々と性格や経歴を考えると思う。……だが、主役として物語を動かすのなら絶対に必要な物がある。
「何を失ったか、もしくは足りないのか?」である。
物語と言うのは、生き物である。本来あるべきものを失ったキャラクターと言うのは、それを求めて彷徨う。そして、取り戻したり代わりになるものを見つけた時に生き生きと輝くのだ。
その時初めて、キャラクターが持つ本来の魅力が生み出される。人間と物語に関わる、最も根源にある自然な感覚である。
作者も読者も無意識にそれを求める。失った物の大切さを語る時や、取り戻した物を思い出す時に自然とカタルシスが解放されるし、無意識にそれを望む。
だから、物語の中でキャラクターを生かしたいと考えるならば、まず最初に「持たざる者」として定義してやる必要がある。
後は、キャラクターは自然とそれを探し求めて物語が動き、最終的にそれを手に入れて喜ぶというのが基本的な物語の流れになる。
いや、そうなる様に物語を意識しなくてはいけない。……読者も気付いている。
そいつが何を求めて生きているのか。そして、何を手に入れるのかを。
……逆に物語がその通りに動かないと、読者には強いストレスが蓄積されるのだ。
元々「テンプレなろう」の中に「追放系」と呼ばれるテンプレがある。あれは本来、何か大事な物を失うという物語から始まる筈だったのだ……。
結果的に必要な部分が切り落とされて不完全にコピーしたため、キャラクターが本来持つはずだったカタルシスの開放が出来ずに不満が溜まる、と言う構図なのではないか。
要するに、量産される「追放系」の主人公は、何一つ失っていない……。いないのだが、無理に失ったように描写される。
そして、物語が進むと「無理矢理」失った何かを取り戻したかのように「勝手に」描写されるから、おかしいと無意識に感じるのではなかろうか。それでは、ただの人形と変わらないのだ。
様々なキャラクターを設定して、色々な物語で話を進めていくうちに、どういう訳だかそう言うキャラが突然輝きだす。試行錯誤の結果、そんな事が起こったのだ。
ここで本編のキャラクターの経緯と結果を説明しておこう。
ジェームス:彼は「何かを造る事」を魔道具屋を辞めて失う事になった。元々は、ただの留守番役である。主人公に付き合って「物を作る楽しさだけは捨てられなかった」と独白した事で、主人公の相棒役になった。
主人公 :異世界転移によって「本来いるべき居場所」を失った。代わりとなる自分の居場所を探し求めて、あちこちで人助けを繰り返す。ロンドンでの披露宴でジェームスに居場所を貰う事で、わだかまりが解けた。
遊牧民の族長:彼は「かつての先祖の誇りと戦う理由」を失っていた。主人公の説得と行動でそれを取り戻し、主人公の理解者として戦友として物語の主軸となった。
来島千鶴 :本来「海賊」として海に生きて船に乗る筈だった。主人公に拾われて、インド洋や大西洋を横断し、自らの生き方を取り戻す。オスマン帝国では海軍を立て直した。
マードック:ワット博士の助手として発明家としては日の目を見る事が出来なかった。主人公の元で働くうちに、「何かを発明して広める事」が生きがいとなった。
ムラト5世:皇帝陛下として国を治める事と自らの生き方を失っていた。皇帝として即位し、様々な世界で経験を積む事でそれらを取り戻した。
ホルス :魔導師として十分な魔力が無かった。克服するべく魔法を覚える事が人生の目標となった。主人公に導かれて、苦手な魔力制御を自分のものにする。
アルファ :そもそも生まれる原因さえ失っている。自らを生み出すために、主人公達に力を与え異世界へと送り出して、世界を繰り返させた。
リズさん達:そもそも人との交流が無かった。主人公と一緒に問題を解決するうちに友情が芽生えた
うん、もうこの位にしておこう。いくら書いてもキリが無い……。本当はもっといるのだが、本題から逸れてしまう。
一言キャラクターの設定と言っても、漠然としているがこうしてみると必然だったのではないだろうか。個性の異なるキャラを配置して、同じように物語を進めていても勝手に動く事があるというのは、理解して貰えないだろうか。
やはり、キャラクターが生き生きと動くのは、ストーリーの流れに合わせて魅力を引き出したからだろう。そう言うキャラは、実に良い台詞を吐くのだ。
恐らく、今の物語が終わったとしても同じように「何かを失った者がそれを探す物語」を書くだろうから、こうやって纏めてみた。
イマイチ、キャラの魅力が……などと指摘された作者の方は、この辺りに見直す点があるのではないだろうか。
今回、SF要素は少なめだったがどんな物語でも使えるキャラクターの設定を話してみた。
また、こうやってエッセイを書くのは、一つは本編の宣伝と言う一面もある。
だが、無意識に行っていたこういうテクニカルな演出を明示するというのは、こちらにとってもメリットであるのだ。
それに、自分の癖を見つける事も出来る。こうやって見直す事で足りなかった事ややるべきだった事を纏められるのは、演出力や説得力を付けるのにもってこいだ。
今後も気が付いた事があれば、エッセイとして皆さんと創作論を話し合いたいと思います。
前回の【幕間】であるが、SFを書いている作者がコメントを書き始めるので、困ってああいうお話を入れた。
どうにも開けてはいけない『パンドラの箱』を開けてしまったのでは、と後悔している。