ブラフマの心遣い
何者かの気配を感じて目を覚ました。ルーチェは飛び起き、臨戦態勢に入る。
『さすがは元暗殺者。気配に鋭いな』
低く、耳に心地いい声が脳に直接響く。声の主は、何と白猫だった。二足歩行の。後ろ足だけで立ち、器用にも前足で腕を組んでいる。
いくら見た目は可愛らしくても、まだ敵か味方かは分からない。腰を落とし、いつでも攻撃できるようにする。
何者ですか?
相変わらず「ガウガウ」しか話せないが、懸命に言葉を選ぶ。
この白猫は――強い。おそらくルーチェよりも。真の強者は一目見ただけで分かるもの。人間の姿だったら冷や汗をかいているところだ。実際、肉球が湿っている。
『そう警戒をするな。我はこの世界の創造神・ブラフマ様の使いで来ただけだ。我の名はロゴス。ブラフマ様からお前のことは聞いている。この世界の常識を教えてくるようにとのことだ。ブラフマ様に感謝しとけ』
ブラフマからの使いと聞き、ルーチェは驚く。
確かにこれから先どう行動すればいいのか分からず、困っていたところだった。ブラフマの心遣いには感謝しかない。
分かった、という意味を込めてコクコクと頷いた。
『ではまず、我が今使っている“念話”を使えるようになってもらう』
――念話。聞き覚えのない言葉だ。名前の通り、念じて話すということだろうか。
『念話とは声に出さず、相手と意思疎通ができる能力のことだ。いつまでも話せないのでは不便だろう。……まずは我に話しかけてみろ』
分かった、と一つ頷く。
一度息を吐き、目を閉じて、精神を統一する。ゆっくりと目を開けて、ロゴスに心の中で話しかけるイメージで念を送ってみる。
『…………ス…ま……ロ、ゴス……さ、ま…………ロゴス様……。聞こえますか?』
『ふむ。成功だな。よくやった。これで会話に困ることはなくなる』
『はい、ありがとうございます』
何を話しても「ガウガウ」にしかならず、ルーチェは困っていた。こんなにあっさり解決するとは思っていなかったが、世の中とはそういうもの。意外とどうにかなるものだ。
次回は3/28に投稿します。