表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/20

プロローグ・その3

「……転生の話、承りました」

「うむうむ。地球の神とはすでに話は付けてあるのでな。あとはお主の希望を聞くだけだ」

「希望、ですか? そんなこともできるのですか?」


 彼女は驚き、パチパチと瞬きをする。まさか希望を叶えてもらえるとは思わなかったからだ。


「できる。お主には穢れた魂の掃除を手伝ってもらったのでな。して、何かあるか?」

「そう、ですね。人間はもうこりごりなので、動物がいいです」

「ふむ、動物だな。何でもよいのか?」

「あ、いえ、そのできれば……」


 彼女には好きな動物がいた。とても部屋では飼えない、そう、“ホワイトライオン”だ。一度テレビでちらっと見ただけなのだが、その美しさと気高さに心臓を鷲摑みされた。

 もしなれるのであれば――


「ホ、ホワイトライオンがいいのですが……」

「ふむ。ホワイトライオンか。わしの世界には存在せぬな」

「そうですか……」

「しかし! わしは神! このわしにかかれば、新種を生み出すことなどどうということはない! ほれ、他にはないのか?」


 神がこう言ってくれているのだ、ここまでくれば全部言ってしまおう。


「では、ホワイトライオンに翼を付けることはできますか?」


 大空を自由に羽ばたく鳥にも憧れていた。できれば空を飛んでみたかったのだ。


「ふっ、そのくらい造作もないぞ。しかし、お主はスイーツを食べることも好きであろう? ならば人間の姿にもなれた方がよいな。では変身できるようにしておこう。よいか?」

「はい。ありがとうございます」


 そんなことまで考えていなかった。神の気遣いに感謝する。

 スイーツを食べるにはやはり、人になれた方がいいだろうと彼女も思った。


「あとは……そうだな、収納がいるな。バッグ……はホワイトライオンでは使えぬな。……うむ、よし、右手をアイテムボックスにするか。右手を翳せば物を出し入れできる」

「まぁ、そんなことができるんですね」

「……しょ、少々珍しいだろうが……な」


 神の小さな呟きは、おそらく彼女に聞こえないように言ったのだろう。しかし、バッチリ届いてしまっていた。


「珍しいのですか? でしたら、無理にお願いは致しませんが……」

「よかろう! よし! 大体は決まったな。さて、最後に――言霊使いとしての能力はどうする? わしの世界でも使えるようにすることは可能だ。その場合、魔法は使えないようにさせてもらう。世界のバランスを保つ為だ」


 若干無理に話をすり替えたような気はするが、再度どうするかを目で問われ、彼女は――


「魔法というものがどういったものなのかは分かりませんが……わたくしは言霊使いであることを選びます。この力は母の形見でもあるので」


 そっと喉に触れ、目を伏せた。

 あの日、貴重な一族が減ると男が言っていたのはこのことだ。当たりが出るまで産ませるというのは、言霊の力を持った子供が生まれるまで、ということだろう。喉を潰されていたのも言霊を使えなくする為であった。

 “言霊”――使い方次第ではどんな凶器よりも鋭い武器となる。幼少の頃から使い方や心構えは母親から仕込まれている。


「そうか。では一通り決まったな。そろそろお別れの時間だ」

「もう? そうなんですか?」

「うむ。人間の姿になった時は、十五歳くらいの見た目しておく。さぁ、わしの世界に送るぞ」

「……わたくし、大丈夫でしょうか? せっかく動物に生まれ変わることができても、また――」


 また――裏の世界に戻ることになるのでは……?

 そんな不安が彼女の中を駆け巡る。

 彼女の不安を察した神は、ふわりと抱きしめ口を開く。


「大丈夫だ。そんなに不安ならお主の歩む道を照らす光をやろう。――ルーチェ。これがお主の名だ。不安になればその名を口にしろ」

「はい。……ルーチェ。わたくしの名前、嬉しいです。……そう言えば、あなた様の名前を聞いておりませんでした。聞いてもよろしいですか?」

「うむ。わしの名はブラフマ。教会に行けばまた会うことも可能だ」


 その言葉に彼女――ルーチェはほっと胸を撫で下ろした。


「これでお別れになるのは寂しかったので、その言葉が聞けて安心しました」


 ふわりと微笑み、ルーチェはブラフマの小さな身体に抱きついた。


「また。会いにきます」

「ああ、待っておるぞ、ルーチェ」


 転生の準備が整い、ルーチェの身体が光り出す。


「――ルーチェ。どうかわしの世界でも、助ける側の存在でいてくれ。優しい心根のままのお主で。それがわしの願いだ」


 キラキラと一際輝いた次の瞬間にはルーチェの姿はなく、ブラフマが管理している新たな世界へ旅立って行った。


次は日曜日に投稿します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ