プロローグ
2021/02/27 18:47
──ああ、まただ。今日はクラスでも一際目立つ可愛い女の子がよく話しかけてくれた。夢だ。スマホを掴み時間を確認する。身体を起こし、小型冷蔵庫から取り出した水を飲む。シャワーを浴びて無理矢理身体を起こす。pcを起動し、椅子に座る。ロック画面の萌えキャラクターに癒され、本日もネトゲに励むとしよう。こうして、飯島冴子の一日は始まる。
過去の記憶を辿った夢と悪夢を交互に、頻繁に見るようになった。丁度中学生活を終えた辺りだろうか。私が一方的に好きだった子や、登下校が一緒だった子達。いじめてきた奴、親友だと思っていた子..過去の事など思い出したくもないのだが、夢なのだからどうしようもない。このままずっと目を覚まさなければいいのに。何度思った事だろう。起きるのが苦痛で仕方がない。ここには、何もないのに。
(今日はあのアニメの更新日だったな・・。)
なんて思いながら、ネットの友人と駄べりながらバトロワをプレイする。母親が仕事から帰ってくる車の音がした。
初めは将来や世間体を気にし、無理矢理にでも高校に行かせようとしていた母親も、一日中部屋に篭もる私に口を出さなくなっていった。最後に食卓を囲んだのは、いつだろう。生活の中で普段顔を合わせる人間も、偶に母親と出くわすか、1ヶ月に1度通っている精神科の主治医だけだ。このままじゃ駄目だろうと、バイトをした事もあるが1ヶ月も続かない。失敗をするのが怖い、愛想を振りまくのも疲れてしまう。どこへ行っても声が小さいと言われるので、もう何もかも諦めている。
小腹が空いたので山積みになった菓子を漁り、食べながらアニメを観ていた。
「うぅ..終わらないで..死にたい…」
現実が嫌いだ。アニメも、ラノベも、ゲームも、寝る事も、瞬間だけ現実を忘れさせてくれる。夢を見させてくれる。覚めた瞬間は、絶望に感じる他ない。憂鬱になりながらぼんやりとモニターを眺めていると、カーテンの隙間から光が差し込む。朝か、と思う。pcを消し、睡眠導入剤を飲んだ。ベッドに横になる。お爺さんの咳払いはなんであんなに響くのだろう。この時間帯は特に嫌いだ。母親が車を出す音が聞こえる。日差しから逃げるように布団を被り目を瞑ると、その日はいつの間にか眠っていた。