2-2 人が増えてやばい
両脇から地面に押さえつけられ身動きが取れない。もがきながらなんとか顔を上げると、俺が乗り込むはずだった桜花から秋山さんが笑顔で手を振っているのが見えた。
「秋山さん!!!?なぜ!放せっ!飯田!安永!」
「白岡さん!!!聞いてください!秋山さんからの伝言があります。お前は生きて、日本の未来を切り開いてくれ。勝手なお願いだが、娘のことを頼む。とおっしゃっておりました!!!!どうか!!!秋山さんの想いを!汲んであげて下さい!」
嗚咽まじりの飯田の言葉が頭の中で反芻される。
「秋山さん!!!なんで!!!なぜっ!!!俺も一緒に!置いて、いかないで、下さい!!!」
俺の言葉をかき消すように6機の機体が南の空に飛び立っていった。
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1-3 スロン
統一歴0年4月12日
○領域主 始祖
領内に何者かが侵入してきたようです。離れていても分かる圧倒的な気配。この力を持つものなら、私を殺してくれるかもしれない。期待しすぎると落胆も大きい。心を落ち着けてこの場所に来るのを待ちましょう。
領内にいた人族を全て滅ぼしてから何千年経ったでしょうか。記憶は朧げでモヤがかかっており、思い出すことができません。
人族を全て滅ぼしてしまうと、私たちの食糧がなくなる。我々は吸血鬼という種族なのですから人の血が無ければ飢えます。
そのため、頭の良い何人かで集まり、強制的に人族を増やす為の施設を作りました。側近たちは何千という人の育成保管施設を作り、より栄養価の高い血を作ることに没頭しました。今では一滴血を飲めば一月保つほどの栄養を持った人族を育成し、生きたまま保管出来るようになっています。
このため、この施設には一万近い人族が生きたまま保管されています。たった3人の我々のために。
吸血鬼には寿命もなく、人の血さえ飲めば死ぬことはありません。領内の人族を滅ぼした結果、我々は殺されることもない、死ぬこともない、やることもない、ただ無為に生きるだけの存在となりました。
それでも最初のうちは良かったのです。自らやることを探し、人族を研究し、自らを研究し、魔物や魔法を研究し、植物や動物を研究し、身の回りの雑器や武器の作成にこだわり、なにに使うわけでもない食べ物や道具を作り、時間を潰してきました。
そんな生活を500年、1000年と続けた結果、種族全体が、唐突に、本当に唐突に生きることに飽きてしまいました。吸血鬼は魔物ではありますが、その思考は人族に似ています。魔物のように野生に染まりきれないため、意味のない悠久の時に、虚しさを感じてしまったのです。
そこからは歯止めがききませんでした。1人、また1人と自死を選ぶようになり、1000以上いた眷属は私を含めて3人にまで減ってしまっていました。残りの2人は、孤独に耐えかねた私が作った複製ですから、私1人だけが残った、といってもいいかもしれません。
私も自死を目指してみましたが、領域主としての身体の頑強さに加え、吸血鬼では使えない聖魔法を使わなくては死ねないことを知り、諦めてしまいました。
今はただ、私を殺してくれるものが現れるのを数千年をかけて待つだけの存在となっています。今回の侵入者に期待する私の気持ちが伝わるでしょうか。
よかった。侵入者が施設に入ってきたようです。眷属2人が向かっているようですが、私の劣化版2人ではこの者に何かできるはずもありません。恋焦がれた死が間近に来ているかもしれない。居ても立っても居られず転移の準備を始めました。
転移した先には光り輝く赤子が浮いていました。
「また面白いものが現れんしたぇ。人の赤子のように見えんすが、人ではない何かのようでありんすねぇ。」
そうでした、私は人族に話しかける時、なぜかこのような話し方になるのでした。
『スロンの領域主か。この場所はなんだ。ここで何をしている。』
赤子が念話で話しかけてきました。良かった、会話ができるもののようです。
「念話でありんすか。面白いのう。この力、わっちより圧倒的に強そうでありんす。もしや、わっちを殺しにきてくれたんでありんすか?」
どうか、そうであると答えて欲しい。
『殺すかどうかはここで何をしているかによる。俺はシーザー・バルディウス・マーロ。マーロの領主の息子だ。お前の名は?ここで何をしている。』
マーロ?確かこの世界の真ん中付近の領でしたか?殺しに来たわけではない?では?なぜ、ここに?
「マーロからわざわざ、遠いところをまぁ。わっちは始祖。スロンの領域主にして吸血鬼の女王でありんす。」
こちらが名乗るとシーザーを名乗る赤子の警戒が強くなりました。このまま戦闘に入り、殺してもらうのも手ですが、話が通じる相手なのです。事情を話した方が良い気がします。
「そう身構えないでくだい。わっちに戦う意思はございんせん。ささ、こちらへお越しなんし。お茶を振る舞いんすので話を聞いてくんなまし。」
客間に誘導するとついてきてくれた。良かった。なんとか交渉は出来そうです。
客間で茶を出しましたが飲んではくれないようです。毒を恐れているのでしょうか?そんな勿体無いことはしませんのに。
『これらの品はどこで手に入れたんだ。』
客間の調度品のことでしょうか。言葉尻に賞賛の念を感じます。赤子に見えますが、物の価値を理解しているのかもしれません。
「ものを見る目までありんすか。全てわっちと眷属が作ったものでありんす。悠久の時を過ごす慰みにと、拘った結果がこれらでありんす。」
私の眷属たちが長い時をかけて作った物、それらが人に認められる、そのことが妙に嬉しく感じます。この者は物事の道理を弁えていそうです。下手な小細工を使うより、正面から交渉した方が良いと判断しました。さぁ、私の命をかけた交渉を始めましょう。
「さて、本題でありんすが、ぬし様にわっちを殺して欲しいんでありんす。」
『なぜ?と聞いても?』
驚いているようですが、拒否ではなさそうです。ここは本当のことだけを話しましょう。
「飽きたんでありんす。ぬし様は、やることもなく、使命もなく、ただただ無為に1000年、2000年と生きる辛さはお分かりになりんせんでありんしょう?わっちがこの領に生まれ落ちてから何年経ったか分かりもしんせん。」
言葉にすると、だんだん悲しくなってきました。数千年の中で心に澱のように溜まっていた自分でも気付かなかった想いが溢れてきました。
「最初はこの領に住まう人族が攻めてきてくれたでありんす。眷属と共に対抗し、追い詰め、討ち滅ぼしたのでありんす。あまり覚えてはおりんせんが、楽しかったように思いんす。ただ滅ぼすだけでは、我々の食べ物である人の血が無くなると、人を効率的に増やすためにこのような場所を作りんした。
人を滅ぼした後もやることがありんせんので、植物を育て、動物を育て、薬や魔法を研究しんした。その全てに飽きんした。」
誰かに聞いて欲しかった、言葉が、止められない。
「これだけの場所を用意しんしたが、1000以上いた眷属たちは無為の時間に飽き、1人、また1人と自死を選んでいきんした。今ではわっちとこの2人だけになっておりんす。」
視界がぼやける。これは涙?
『眷属を、増やそうとは思わなかったのか?』
赤子の言葉で想いが決壊した。涙が止まらなくなった。
「最初は自死した者の代わりに眷属を増やしておりんした。その子達も自死を選び出した頃、眷属を増やすことも止めたのでありんす。知っている者たちがわっちを置いて死んでいく姿は、あまりにも、あんまりにも辛いのでありんす。」
お願いだから、助けて!私を救って!!!
「わたしも!可能であれば死にたい!でも、領域主としての身体がそれを許さない!お願い!あなたならできるの!私を殺して!!!お願いします!お願いします!」
とうとう、言葉さえ紡げなくなった。
どれくらい時間が経ったでしょうか。思いを言葉にして心が少し軽くなり、返事を待っています。赤子は沈黙したまま答えてくれませんが、この子は助けてくれるような予感があります。
『分かった。俺の手で今世に引導を与えてやる。だが!お前も必ず救う!この世界の理の中で、何度かお前を殺すことになるかもしれない。だが!最後には必ず救う!この世界から解き放ってやる!
そうしたら、2人で世界を見てまわろうぜ。美味いものでも食いながらさ。』
救済が赤子の姿で目の前にいました。数百年ぶりに私の口角が上がるのを感じた。
「ありがとうございんす。なんのお礼もできんせんが、この施設の中のものは自由にお使いくんなまし。」
この施設の中のもの、我々の生きた証、この方ならきっと上手く使ってくれるはず。
両隣のにいる眷属を見る。私と同じ顔、だが、金髪と銀髪で見分けがつくようにした、最後の眷属。この方なら、この2人も救ってくれるかもしれない。
「厚かましいことは承知の上でありんすが、もし宜しければこの2人を連れて行ってくれんせんか。」
両隣の眷属の無機質な顔に驚きが浮かび、同時に私に縋ってきた。
「始祖様!」
「始祖様!」
「嫌です!」
「お供します!」
「残していかないで!」
無表情な2人の目から涙が溢れている。
「2人とも、泣かないでちょうだい。なにも2人を置いて行くわけじゃないの。私は10年、20年後に蘇るわ。その時、1人だと寂しいじゃない。だから、ねっ?私のために生きていてくれる?」
私の可愛い最後の眷属たち。この子達に私と同じ想いはさせられない。きっとこの方なら、この2人の心も救ってくれる。
「ぬし様?お願いできんすか?」
『あぁ、分かった。乗りかかった船だ。2人は俺に任せておけ、次の目覚めには連れてくるようにする。2人に、名はあるのか?』
やはり、この方は。心に今まで感じたことのない暖かさが流れ込む。目の前のただの赤子に心が浮き立つ。
「ありんせん。ぬし様がつけてあげてくださあ。」
『分かった。金色の髪はギルデン、銀色はソルブだ。』
この方がそう名付けた瞬間、2人の体が輝き出しました。輝きが収まった2人は見た目では大きな変化はありません。が、吸血鬼の持つ闇の波動ではなく、聖の波動を纏っているようです。どうやら、私の眷属も外れたようです。
「ぬし様は何もかも規格外でありんすなぁ。」
あぁ、早く、この方と共に生きられる世界になって欲しい。書物で見た事があります。この想いが恋というものなのでしょうか。
この日は、2人との別れの時間を頂きました。2人には申し訳ないですが、とても清々しく、楽しい夜でした。
翌日、シーザー様は約束を違えることなくお越しになりました。
「ぬし様、別れは済ませておりんす。始めてくんなまし。」
『分かった。痛いようにはしない。しばらく、眠っていてくれ。ギルデン、ソルブ、2人も手伝ってくれるか?』
2人が手伝わされると思ってませんでした。2人も驚いた顔をしていますが、静かに頷きました。
シーザー様が2人に聖魔法の強化魔法をかけます。
『2人とも、そのまま、始祖を抱きしめてあげてくれ。』
2人に抱きしめられ、心が満たされていきます。それを確かめ、シーザー様が聖魔法を練り上げていきます。優しく、慈しむようにそっと。練り上がった魔法が静かに私を包んでいく。
「あぁ、とても暖かい。懐かしい、匂いがするわ。」
徐々に私の身体が薄れていく。
『ギルデン、ソルブ、もっと強く抱きしめろ。』
意識が光に包まれる。
4-7 ナーブ
統一歴0年4月15日
○シャテル・コメティウス・ナーブ
大麦の出穂が進み、ナーブの畑に穂が揺れる季節になった。この調子であれば例年通り5月の刈り入れも問題はなさそうだ。
領主館から領地を一望する。ナーブでの禅譲の準備はほぼ整った。あとは婿殿が3領を増やす約束を遂行してくれれば良い。禅譲後何をするか考えておかねばの。
目の前が突然光り出し、その中心に赤子が現れおった!
シーザーじゃ!
この孫!!!
儂の心臓を止める気かの!?
『祖父殿、頼みたいことがある。この娘を預かって、やってもらいたいことがある。』
いつのまにか目の前に銀髪の美しい少女がいた。恐る恐る一応鑑定してみる。
いや、なんじゃ!!?この能力!!
えっ?というかこの娘、魔物なの!!!?
シーザーの従魔ってでとるんじゃが!?
娘の能力に驚愕し、頼み事の内容にもまた驚く。
儂の老後って休みあるのかね!!!?
4-6 マーロ
統一歴0年4月19日
○キャベリ・オルフォーニ
今朝、お館様が出発されました。今日から1ヶ月かけ領地を増やしていく予定でおります。留守の間、増える予定の領地運営計画をある程度練っておかなくてはいけません。
僅か一ヶ月の間に3領増える。言葉で言うと簡単そうに聞こえますが、そこで増える雑務は単純に4倍では済まないでしょう。
とにかく人が足りません。何とか雇用を増やしていかなくては。
「キャベリ様!領境にマーロへの移動を希望する移民が参っております!」
伝令が慌てたように伝えてきました。何を慌てているのでしょう。移民など珍しくもありませんし、今の状況では大変有り難いものになります。
「許可致します。まずは領都で領民の登録をいたします。領都へ移動してくるように指示して下さい。で、数はどのくらいですか?」
何故か伝令が伝えづらそうにしている。
「それが、何度も確認したのですが、5000を超えるそうです。」
はっ?何を言ってるのでしょう。この方は。5000?500でも多すぎます。50との間違いでしょう。
「しかも、エルフ族やドワーフ、獣人たちが大量に混ざっているそうです。」
はっ!?また何を言うかと思えば。エルフやドワーフ?獣人ですか?この付近ではほとんど見ない種族が大量に?そんなわけないじゃないですか。まず何かの誤報でしょう。
「情報に問題がありそうですね。とにかく移民の移動を許可しますので、領都に向かわせて下さい。」
申し訳なさそうに退出した伝令から意識を戻す。50か500か分かりませんが、移民は有り難いですね。有能な人材がいれば良いのですが。
5日後、砂煙と共に大きな移民の集団が領都に到着しました。ふむ、パッと見て5000以上はいるでしょうね。なるほど、エルフやドワーフも大量にいますね。
あっ!!!!!!これシーザー様やわ!!!
裏で動いてはるわ!!!
それしか考えられへんわ!
もう、やること無茶苦茶すぎてついていけまへんわ!
なんにせよ!
うちの領に人が増えてやばい!!!
読んで頂き有難う御座います!
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設定
始祖 3260歳
148cm42kg
白髪 肩甲骨くらいの長さ ストレート
絶世の美少女 表情に乏しい
イメージ キルスティンダンスト(子役時代
人と話す際は花魁言葉になる
良いやつ風に描いていますが昔は結構エグいことをしていたがほとんど記憶に残っていない
ギルデン 420歳
金髪
ソルブ 420歳
銀髪
表情、思考に乏しい
ギルデンに追従することが多い




