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後手と見せかけて先手

ナンブ・リュウゾウ、イズモ・キョウカからの文により察した、隣国ドルボンドの不審な動きを、さらに文にしたためて父上である男爵さまへ送る。

その上で我々は、北区画へ帰還すると宣言した。


「兎にも角にも、まずは自分たちの受け持ちをしっかりせんとな」


ナンブ・リュウゾウ、拠点への帰還である。

いざ帰還となると、ナンブ・リュウゾウとその一隊を見送る人々はかなりの数になった。

みな口々に別れを惜しんだり区画長の就任にバンザイをしたりで、その人気がうかがえる。


そして翌日、北領地に飛んで帰ってみると、みちのく屋はイズモ領地への直通道路に関する測量を始めていた。

これには私もナンブ・リュウゾウも苦笑いであった。


「新式鉄砲いまだ完成せず、ニ領間の道路も着工したばかり。それなのに戦さは待ってはくれぬ。……思う通りにはいかぬものよのぉ、ヤハラどの」


「殿、それが戦さ、あるいは国際事情にございます。……されど今回に限りましては、まさしくキョウカさまのファインプレー。仮想敵は資金集めの最中で、こちらは遅れることなく準備開始の段。奇襲を受けてのボロ負けは避けられました」


「しかしヤハラどの、キョウカどのはどのようにしてドルボンドの動静を知ったのかな?」


「キョウカさまには確か商会があったはずです。かの国の事情は、おそらくそこから知り得たものかと」


「忍びのような活躍をするな、商人あきんどというやつは……」


「人を殺しませんけど、商人は。しかし社会的に抹殺することは可能です」


「なんじゃそりゃ?」


「商人というものはいかなる相手でも借金まみれ、破産に追い込むことが可能です」


「このナンブ・リュウゾウであってもか?」


「殿でしたら商人を用いずとも、いつでもこのヤハラがしとめてみせましょう……と、尻を隠す必要は御座らぬぞ、殿」


「すまぬ、ヤハラどのが拙者を陥れるというのなら、下剋上でメロメロにしてくると思ってしまってな?」


「殿が私をどのように見ているか、よっく分かりました」


もちろんこの流れは冗談。

女を置けぬ戦さ場では、忠誠の証とばかり家臣が主君の処理をするというのが衆道というものであるが、そういうことであるならば私は南区画で出会った美少年ショウタロウを薦めるし、殿もその方が気分が良いであろう。


というか、親衛隊隊長が大柄美少女のシロガネ・カグヤである。

そのあたりはまったく心配しなくて良いことであった。

拠点である邸宅で旅装を解いていると、早速男爵さまから返信があった。


やはり男爵さま、キョウカさまからの文により事態の急変を知った伯爵さまから、すでに情報を受けていたという。

伯爵さまは急ぎ王室へ御注進に走り、対応の是非を問うという。


つまりは、ワイマール王国も戦さへと大きく一歩を踏み出した、ということになる。

では殿。

かくなる次第においていかにとやせん。


「ヤハラどの、俺の方針はさらなる練兵だ。戦没者を一人も出さぬという建前で合戦に臨みたい」


もちろん臆病という意味ではないことを私は知っている。

無駄な人死にを出す蛮勇ではなく、勝つべき戦さを確実かつ効率よく勝ち、次なる一戦に備えたいという意味である。

可能ならば電光石火。


最初の一撃ですべてを終わらせる。

戦さで国が疲弊すれば民が苦しみ、再興の速度も衰えるからだ。

そしてナンブ・リュウゾウの望みを叶えるのは、他に誰あろう私、ヤハラである。

殿が練りに練り、鍛えに鍛えた兵を能く働かせるのは私しかいない。


「アヤコ! アヤコはいるか!」


私らしくもなく、男味あふれる声でアヤコを呼んだ。

それだけ私も興奮していたのだろう。

お恥ずかしい限りである。


アヤコが現れた。

私の興奮に反した緊張感の無い顔であった。


「すみません、お饅頭を食べてました」


仕方の無いヤツだ、とは言わない。

これで平常運転なのだ。

そこで命じる。


辺境伯を経由して、ドルボンド国の様子を探って来い。

もちろん街の様子やら美味いものななんだとかという話ではない。

ドルボンドの地図、その形を探って来いと言っているのだ。


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