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根付くナンブ・リュウゾウ

不正、悪事に手を染めたる者、即座にこの場で斬り捨てん!

その宣言を前面に、ナンブ・リュウゾウと親衛隊は斬って斬って斬り捨てる。

例えその中に官僚や大店おおだなの者が混ざっていようともだ。


そんな修羅場を眺めながら、私は斬奸状が必要だなと感じた。

それとともに新管理者のナンブ・リュウゾウに与し、恭順する者は自首をすべし、とも書いて置くべきだ。

そうすれば罪を減じるとしておこう。


自首する者がどれだけ出るやら。

本当に「仕事にならない数」の役人が押しかけてきたらどうすべきか?

官職氏名、罪状を記載したら、即座に無罪放免。


ナンブ・リュウゾウ鶴の一声で仕事を片付けていこう。

どうせ不正というものは無くならないのだ。

しかし常に目を光らせているからな、という姿勢は大切だ。


現場は屍の山が築かれていた。

生きて召し捕られた者などごく少数である。

その姿勢は、真にナンブ・リュウゾウの方針を雄弁に語っていた。


そして合戦にも似た戦いが終わり、私の指示通り斬奸状が立てられた。

いわばさらし首である。

そして不正は厳罰であることと、自首せる者は罪一等減じることを記す。


さらには罪を隠した者にはより厳しく吟味することもつけ加えた。

惨状となった現場は宿なのだが、ここの亭主も捕縛された。

それを引っ立てて、私たちはかつて長兄どのが執務していた邸宅に入る。


そこの使用人たちは、まだ残っていた。

男爵さまからのお沙汰があるまで、様子を見ていたという。

側近というほど重用されていた訳ではないが、実直そうな老役人もいた。


老役人は私たちを笑顔で出迎えてくれた。

不正と長兄どののやり方に、不満を持っていたのだろう。

仕事を任せられそうな老人であった。


シロガネ・カグヤが割り振りして、見張りの者を立てる。

老役人が使用人たちに命じて、簡素な酒宴が始まった。

老役人は膝行でナンブ・リュウゾウににじり寄る。


「このたびのお働き、南区域住民、総出で喜んでおりまする。つきましては今後もナンブさまんは厳格な態度で不正に臨んでいただきたく存じます」


なるほど、長兄どのの舵取りは、庶民にかなり不評であったようだ。

そしてナンブ・リュウゾウの姿勢は、南区域領民に受け入れられるもののようであった。

しかし此度の天誅にて、改心する者はどれほどいようか?


その問いに老人は、「不正に手を染めた者は数多。そして今宵の騒動に腰を抜かし肝を冷やす者も数多」と答えた。


「根性無しの不正役人ゆえ……」


そう言ってニヤリと笑う。

どうやら出来る男なのに、不遇であったようだ。


「殿、この者に南区域の管理を任せては」


「うむ、よかろう。では朝になれば忙しくなるであろうから、今日はもう床をとるが良いぞ?」


「もう下がってよろしいので? 打ち合わせなどは?」


老人は驚いた様子を見せた。

それに対し、ナンブ・リュウゾウは笑う。


「打ち合わせなど無用であろう。大いにやりたまえ」


大きく見せている、ナンブ・リュウゾウという男を。

いや、この男に自分を大きく見せるなどという小知恵は無いだろう。

いくらでもやれ! ケツは俺が拭く!


それがナンブ・リュウゾウである。

生まれ持っての大将なのか?

はたまた男爵さまがそのように鍛えたのか?


それとも剣士としての修行の日々が、ナンブ・リュウゾウをそのように育てたのか?

正解がどこにあるのかは、私にもわからない。

しかしこの男、私の初見の「野蛮人」から、今では大きく変わっている。


親衛隊がいる。

「オラが大将のために」

一人残らずそう思っている。


そのように男どもを惹き付けるのは何か?

私の考えでは、無私の人だからだ。

ナンブ・リュウゾウに「私」は無い。


彼が利益を求めるのは、領民のためでしかない。

彼が剣を抜くのは、それが王室のためだからである。

そこに「私」は無い。


だから若者を惹き付けるのだ。

かく申す私自身も、立身出世を夢見ていたが故に、男爵家へ御奉仕が決まったときに落胆したものだ。

そして三男坊リュウゾウに仕えよとされたときには、絶望すら感じたものだ。


しかしそんな俗物であった私も、いつの間にか「友」と呼びたくなるほどにこの男を慕っている。

それは「馬鹿な男だから私がついていなくては」、あるいは「こんなところでナンブ・リュウゾウがコケたら、私の汚点になる」といった位置から、この男は昇り龍だという位置に変わり、今ではその愚者っぷりを弁護している。


それはナンブ・リュウゾウに「私」が無いからだ。

今ならそう言える。

なにしろ親衛隊の誰がどう訴えようとも、私こそが「オラが大将」の筆頭だと胸を張って言える自信があるからだ。


そしてこの老人も、その意気に打たれたようだ。

うやうやしく頭を下げて、奥へとさがっていった。


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