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長兄どのの本命が男爵さまだというゲスいアイデアは、友人出雲鏡花からいただきますた。

膝をつき、うなだれたかのようであった長兄どのは、狂ったように笑い出した。

いぶかしんでいると、ヨダレも拭わず長兄どのはナンブ・リュウゾウに狂気の眼差しを向ける。


「思い上がるな三男坊の分際で! そなたの首など、端から狙ってなどおらぬわ!」


だったら毒なんぞ飲ますなよ。

と思ったが、やはりナンブ・リュウゾウの影が重くのしかかっていたのだろう。

そして憎かったのだろう。


「余の目的は最初から男爵さま、ナンブ家当主の座なのだ! 今ここで余を弾劾しようとも、残念だな、爵位が移れば罪も咎も存在せぬわ!」


つまり、男爵さまにも一服盛っているということか?


「今ごろは余の贈りし毒の酒をあおり、もがき苦しんでいることよ!」


「あの、盛り上がっているところ申し訳ありません」


緊張感の失せた大福餅が口を開く。


「リュウゾウさま暗殺の企みを憂慮されたのは、何を隠そう男爵さまですので、長兄さまからの御貢物に口をつけることは無いかと存じます」


「なにっ!?」


長兄さまの狂気が、にわかにとけて正気に戻った。


「今ごろ苦しんでいるのは、鉢の中の金魚でしょうね。それを証拠とされれば、リュウゾウさま暗殺どころでありません。お館さまの暗殺未遂ですから、キツイ仕置は免れませんね」


「そ、そんな……」


狂気の醒めた者ほど、力無い者はいない。

というかそこまで暗殺の輪を広げようとしたというのに、アヤコの毒(その実精力剤)をあおろうとしたのは何故か?


「完璧主義者というのは、手落ちが無いものしか成功とはしないのさ」


ナンブ・リュウゾウが言った。


「見逃せる汚点であっても、ミソがついただけですべて失敗作。……というか、ほんとうに錯乱しとるぞ、コヤツ」


長兄さまはいよいよどうにもならない状態となった。

それは、的確な表現をすると差別表記となってしまう状態であった。

親衛隊が長兄どのの身を捕縛した。


女たちには金を握らせて黙っておくよう申し付けた。

ナンブ家の醜聞をもらす訳にはいかないからである。

そして私たちはすぐさま、男爵さまのもとへ長兄どのを届けなければならない。


「待ってくれないか、ヤハラどの」


「いかがなさいましたか、殿?」


やはり肉親を刑場へと送るのは気がひけるか?


「少しばかり時間をくれ」


「かまいませぬが……」


と、よく見ればシロガネ・カグヤが傍らに立っていた。

カグヤの方がずいぶんと背が高い。


「なに、アヤコの精力剤が効いていてな」


「手早く願います」


ナンブ・リュウゾウとシロガネ・カグヤは別室へ消えた。

しかしいま命を狙われたというのに、元気なものである。

その間、私たちは残りの酒と料理を胃袋に詰め込んだ。


となりの部屋から聞こえてくる、とても刺激的な声は聞こえない振りを決め込むことにする。

一戦終えて、シロガネ・カグヤとまた一戦。

スッキリとしたナンブ・リュウゾウと少しだけ柔らかな面持ちのシロガネ・カグヤ。


二人が飲食を終えるのを待って、長兄どのを馬車に乗せる。

ようやくという感じで、私たちは男爵さまのもとへ出発できた。


ちなみにヤハラ考案の作戦。新式鉄砲三十丁を百丁あるかのようにフカすアイデアも出雲鏡花の

アイデアです。こうしたネタをもらうたび、「自分ってなんと白い心の持ち主なのか」と清らかな気分になります。

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