ヤハラの野望
さて南領山賊討伐の件、北領長ナンブリュウゾウ承諾の意志ありと書面にしたため、さっそく文を出す。
次なるは南領へ兵を出すのであるから、南領からの謝礼をいただかなくてはならない。それを書面にて打ち合わせる文もしたためた。
こちらは窓口が私となる。
大将に金の話をさせてはいけない。
そして細かな手配だ。
兵士の数が少ないとはいえ、宿の手配を願い出る。
さらには食料に水の手配だ。
現地で野営も考えられるので、近隣住民との調整もしてもらうよう頼んでおいた。
これら細やかな対応ができる者、つまりは窓口がどこの誰であり、どこへ問い合わせるべきか。
責任者の所在を明確にしておくのだ。
最高位置にある責任者、これは南領長である兄上だが、さらに上位には男爵さまがおられる。
なにしろ今回の一件は男爵本家を通じた話なのだ。
謝礼をごまかすなど、通常の神経ではありえない。
しかしそれが『ある』のが身分制度であり貴族社会なのだ。
私自身本家務めの折、兄上のウワサは耳にしていた。
故に責任追求に関して準備をしているのだ。
命がけの山賊討伐をして、謝礼をごまかされる。
こんな不義が通っていいものではない。
しかし兄上はそれをやりかねないのだ。
そのような兄上であるから、領民からの評判はすこぶる悪い。
ならばその南領でオラが大将、ナンブリュウゾウの人気が高くなって、なんの不都合があろうや?
勤勉に働いた者の評価が上がり、怠けた者の評価は下がる。
当然至極の理である。
うますぎる話をするならば、男爵家継承者のランキングに変化をもたらす一事になりかねない。
そのためには、ナンブリュウゾウ金で働いたと思われては困る。
金の話は私がする。
大将にはあくまで、義によって働いた。
兄の助太刀に入ったのみと、民衆に思われなくてはならない。
そして可能ならばこの美談は、身分ある者にこそ吹聴したいものである。
そうした者にこそ、ナンブリュウゾウを引き上げてもらいたいのだ。
バカさまと笑われたこの男、その名の通り竜である。
以前は反対のことを述べたが、逆もまた然り。
このヤハラ、雲となってこの竜を高く飛ばせてみたい。
私とて男子。
算盤勘定の世界にあるが、やはり男子。
そのくらいの仕事はしてみたいのである。