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飲酒

門番から、南からの使者です、と報告があった。

親衛隊とクサナギ先生、そしてみちのく屋一党をすべて別の部屋に移す。

そして大将には、一杯飲らせて赤くなるのを待った。


酒のあてがある方が望ましいか?

酒棚に煎り豆があったので、それを皿に盛りつける。

何粒か卓にこぼれたが、その方が飲ん兵衛らしい演出でよろしい。


「殿、ベロベロくらいの演技でかまいませぬ」


「うむ、ではコイツを……」


死ぬの生きるのという場面なのに、この阿呆は大きくグビリと飲んだ。

ただ、その大きな一口で酔いが回ったようだ。

伝令に使者を通せと申しつける。


使者が来た。

貴族子息に対する礼を尽くして入室してきた。

その所作を見て、デキる男と見て私はほくそ笑んだ。


「わざわざの御来訪、誠にありがとうございます。されど当主ナンブ・リュウゾウ、長旅からの帰還ゆえいささかくつろいで御座います。南方さまからの御伝言が御座いますれば、このヤハラがしかと聞き留め後日北方さまに伝えますので……」


南方さまとは兄上、北方さまとはナンブ・リュウゾウのことである。

要するに大切な伝言ならば私が聞くと宣言して、ナンブ・リュウゾウの失言はすべて戯れ言としたのだ。

しかし観察していれば、使者は微かに眼球を下へ動かした。


卓に散らばった煎り豆を見たのだ。

そしてナンブ・リュウゾウの酔態も。

そして涙袋がわずかに動くのを、私は捕らえた。


その上で使者は、兄上が酒宴を開いて弟を労うという主旨を伝えてきた。

私はその場で、日時の調整をする。

それに対して使者は「応」と言ったので、長兄が毒薬を入手していることが知れた。


そして、毒薬を使うという決心を固めていると。

ナンブ・リュウゾウはというと、グビグビ酒をかっ喰らい、使者に対しても「君も一杯飲らんか!」と勧めていた。

使者の立派なところは、盃を受けたことだ。


しかし私の目は、受けた盃から腕の内を通して酒をこぼす使者の姿を見留めていた。

これは、読者諸兄の世界では柳生心眼流の盃の受け方か?

この技術が気になった方は、是非とも入門していただきたい。


そして熱心に汗を流してくださいと、フィクションのヤハラは訴えたい。

そうでなければ今まさに、高級な身体操作の秘密が失伝という危機に瀕しているのだから。


「では、私はこれで」


盃をあおったクセにちっとも酔っていない使者はそそくさと帰っていった。

策にハマってくれただろうか?

自信はある。


しかしその成果は、アヤコの報告を待たねばならないだろう。

どうやら私も酒宴の場に赴き、事の次第を見届けなければならないようだ。

しかし使者がかえったとなると、大将は瞳の濁りを改めた。


「どうだろう、ヤハラどの。策の首尾は?」


「ハマったはずです」


「はずとは?」


「殿の酔態を見ていました。そしてこぼれた豆も。それをそのままナンブ・リュウゾウは酒好きと報告を上げてもらえれば……」


「こちらの策は通ったも同然か?」


「殿、策略というものは憶測で語るものには御座りませぬ。結果がすべて。兄上を葬ってから、あれこれを述べましょう」


その辺りは殿も理解してくれたようだ。

うむ、とだけうなずいた。


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