嫉妬と毒と舌
私たちの留守中に何があったのか?
ナンブ・リュウゾウの活躍を面白くないと思っている輩がいるそうだが、当の本人はそれを長兄と見ていた。
忍びのアヤコは御明察、と言ってから続ける。
「そりゃあそうですよ、大将。お兄さまは次期男爵は自分と思っていたのに、爵位継承権ドンジリの弟が目を見張るような大活躍。自分の管轄で山賊退治に始まり、次男さまの管轄でもヤクザを叩き出して、おまけに伯爵令嬢と御婚約。両家を結ぶ直通道路の計画まで立てて、さらには婚約者のお父上に頼まれあちらの領地でも大活躍。そりゃ爵位が危ういとか考えるでしょうよ」
「してアヤコ、兄上はどのようにしておられる?」
「リュウゾウさまを御屋敷に招いて、自慢の弟と褒めるおつもりで」
「酒宴を開いてくれるというのか?」
「まさにそれ」
「あのガキ、リュウの字を消すつもりか……」
私が思ったことを、クサナギ先生に先に言われてしまった。
だから私は、独自にアヤコに訊く。
「毒の種類はわかるか?」
「そこまでは調べていません。調べたところで解毒剤が効くかわかりませんし、大将に毒をあおらせるような危険を忍者は犯しません」
「では、兄上が殿に殺意を抱いているという証拠は押さえているか?」
「証言だけでしたら。もしも毒を仕入れたなら、商いの証でも残りましょうが……」
「兄上はまだ毒を手に入れていないのか?」
「それは無いでしょう、殿」
ナンブ・リュウゾウの甘い考えは、私が否定する。
「爵位継承を巡っての謀略というのは、大抵必殺の力を得てから現実味が湧くものにござる。兄上はすでにその必殺の一手、準備しているものかと……」
ここで私、ヤハラからの一手。
「アヤコ、すぐに南へ出れるか?」
「はい、いつでも」
「では薬売りに化けて、兄上に精力剤でも売りつけて来い。証拠の残らぬ毒だと言ってな。殿、兄上の酒宴にはぜひとも御出席くだされ。そしてイチモツが屹立したところで、死んだ振りを」
「アヤコの偽毒を使わず、本物の毒を使ったときは?」
「死ねとはいいませぬ。匂いや舌触りで毒を嗅ぎ分け、死地を脱してくだされ」
「犬かよ、俺は」
「それに証拠の残らぬ毒となれば、兄上は必ず使います。そこはアヤコの口車を信じて……」
「リュウの字、酒や料理に混ざった毒を嗅ぎ分けるのは、兵法者の嗜みだぞ」
クサナギ先生も割と無茶を言う。
と、読者諸兄もお思いであろうが、ここでヤハラの詰まらぬ話をひとつ。
読者諸兄の世界には忍者の先生、初見良昭氏が実在しておられる。
この初見先生、若い修行時代に師匠から茶を振る舞われたそうである。
師、問いて曰く「どちらの銘柄か、おわかりですかな?」
若き日の初見翁、答えるに「わかりません」
師匠は笑って「それでゃ毒を盛られてもわかりませんなぁ」とのこと。
すなわち、兵法者にとって毒は稽古の一部。
当たり前に存在するアイテムなのだ。
修行を積んでなさそうな自称忍者(笑)とは一線を画するものなのである。
ヤハラの戯言、終わり。
そうそう、このヤハラが読者諸兄の世界の知識がいっぱしにある状態で、そちらの世界で暗殺をするのであれば……いや、これは語るまでもなかろう。
その辺りのお話は、読者諸兄の方が詳しいに違いない。
そういったことでナンブ・リュウゾウ、決死の南旅決定である。
そして私もひと工夫。
「もしも南からの使者が来たら、殿には即座に飲酒していただき、使者の対応をしていただきたい」
「どーゆーこったい?」
「使者に酒好きを印象付けておけば、兄上は酒に一服盛るでしょうからな」




