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殿とヤハラでトンズラ決め込む

そしてイズモ伯爵へ討伐成功の報告と、出立の挨拶へ出向いた。

伯爵さまはこちらの頬が緩んでしまうほどにゴキゲンな謝礼を与えてくれようとしたが、大将ナンブ・リュウゾウに固辞させる。

算盤方としての私はタイヘンにケッコーな謝礼と考えるが、軍師としての私は伯爵さまに貸しを作っておきたかった。


しかしそこはベテラン、伯爵さまは「リュウゾウどのと儂は義理の親子であって、国王と家臣ではない。父から子へお手伝いの御褒美を与えるのだ。そうでないといざ、陛下のためというとき、ロハで闘えんぞ?」と金貨を押し付けてくる。

さすが伯爵を何年も務めてらっしゃる。

若造のこすっからいたくらみなぞお見通しということだ。


しかしかく申されたということは、伯爵さまのため駆けつけた折には、なんらかの褒美とか謝礼が期待できるということだ。

少しだけ期待しておこう。

そして私たちはナンブ領へ帰ってきた。


男爵さまに帰還の御挨拶。

そして諸々の報告を済ませたところ、鉄砲一〇〇丁の注文に飛び上がるほど驚かれた。


「な、な、なんとリュウゾウ! 鉄砲一〇〇丁となっ!

ナンブ領鉄砲隊でさえかき集めても三十丁というところを……三男坊の身でありながら一〇〇丁とはっ、公爵さまにでもなったつもりかキサマーーッ!」


いや、怒られてしまった。

しかしナンブ・リュウゾウ、男爵さまからお叱りを受けたところで、蛙のツラになんとやら。

ケロリと言ってのけるのである。


「親父どの、国王陛下の御ため、すべての民のため、あるいは建国以来の歴史のためでありますぞ」


抜け抜けと言うクソ度胸である。

国や陛下の名を出されては、男爵さまもくちごもるしかない。

ただそれでも、「男爵家としての分際をわきまえんか」と、まだ何か言いたそうだ。


「拙者の行いを身分違いと叱るのでしたら、各領地貴族の皆々様への謝罪、親父どのにおまかせいたしまする! ヤハラ、逃げるぞ!」


「あ、こら待たんか! 儂の説教はまだこれからじゃ〜〜っ!」


まあ、男爵さまの言わんとするところもわからんでもない。

王室から縁遠い男爵家ごときが、公爵さまクラスの武装をしていては「革命でも起こすつもりか」となってしまう。

まさしく爵位秩序、順列というものをまったく無視した行為なのだ。


しかしナンブ・リュウゾウの意見もまた然り。

国が敗れてしまっては、爵位もへったくれも無くなってしまうではないか。

そしてこれは少し不穏なことを述べてしまうのだが、ナンブ・リュウゾウを見ていると時代というものが生きていると感じてしまう。


ナンブ・リュウゾウは剣士である。

それもバカが付くほどの。

その男が刀剣の価値を地に貶めるような鉄砲という兵器を手に入れたのだ。


時代は生きていて秩序は乱れる。

まるで生い茂った麻のようにだ。

そんな世にこそ、こうした阿呆のような男が必要なのかもしれない。


幸いにして、爵位は未だ男爵さま……親父どののもの。

そして義父オヤジどのも建材である。

ならば両名健在のうちに、倅としてはヤンチャの限りを尽くして、尻拭いをしていただくのも一興。


これはナンブ・リュウゾウが正しい。

そして本人は、手柄も名誉も、すべて二人のオヤジに預けてしまえば良いのだ。

ナンブ・リュウゾウという男、戦さは好きなようだが褒美や名誉には無頓着な男である。


オラが領地が餓えなければ、民が幸せであってくれるならば、それでいい。

ある意味お坊っちゃんのようにノホホンとしたところがある。

そこで実生活の手綱を執るのが、このヤハラということになるのだ。


さて、男爵邸付近の集会場に待機していた親衛隊、ならびにみちのく屋と合流する。


「いかがでしたかな、リュウゾウどの」


と、みちのく屋総裁ミズキ・タカシが訊いてくる。

ナンブ・リュウゾウは頭を掻いた。


「いやぁ、叱られた叱られた。鉄砲を一〇〇丁も揃えやがって、謀反でも起こす気かーーっ! てな」


ミズキ・タカシ、そしてクサナギ先生は愉快痛快と大笑いだ。


「オヤジの説教なんざ構うこたぁねぇさ。このキララ鉄砲は名目上はナンブ鉄砲隊なんだからな。しかもその上には、ワイマール王国軍と冠が乗ってんだ直接の責任はオヤジさん。最終的な責任は国王陛下のものだ」


「そうそう、実質の指揮権だけしっかり握っておけば、何を言われたところでへのかっぱさ」


さり気なく、みちのく屋総裁が後押ししてくれた。

考えてもみれば、この男は王立教育機関の理事長でもあるのだ。

まったくの未知数ではあるが、王室にパイプでも持っているのではないかと期待してしまう。


しかし、ここで話が変わってくる。


「男の子だけで、何を楽しそうにしてるんですか?」


忍びのアヤコである。

マスター・キララの護衛についていたはずだが、間者も消えたということでみちのく屋の若い衆に任せたそうだ。


「それと、男爵さまに呼ばれましたので」


「なんじゃい? 説教ならば俺は聞かんぞ?」


「いえ、近ごろのリュウゾウさまの御活躍に、ヘソを曲げておられる方がいらっしゃいまして」


「上の兄上か?」


ナンブ・リュウゾウの反応は素早かった。


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