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嫁取り話は苦手なヤハラ

マスター・キララのガンショップで仕込みを終えた私は、ナンブ・リュウゾウたち本隊と合流する。

本隊は伯爵さまのお屋敷で、飲めや歌えやの歓待を受けていたのだ。

大将ことナンブ・リュウゾウは笑顔と酒と肉で私を迎えてくれた。


「おうヤハラどの、どうだった? 何べんコロしたのよ?」


なんの話をしているのか一瞬わからなかったが、どうやら女との逢瀬を楽しんできたと、ナンブ・リュウゾウは誤解しているようだった。


「殿、私は逢瀬を楽しんできたのではござらぬ。少々買い物をしてきたのであって……」


「お花かい?」


「鉄砲にござる!」


ついムキになって言ってしまった。

ナンブ・リュウゾウの目がギラリと戦さの輝きを帯びる。


「鉄砲だったらマスター・キララに三〇丁、すでに注文しておろう。発注量はすでに限界のはずじゃ」


「そこで音と煙しか出ぬ、インチキ鉄砲を七〇丁追加注文いたしました」


「……ふむ、合計一〇〇丁か。してそのインチキ鉄砲、どうするんでい?」


「本物を織り交ぜて、戦闘に使用します」


嫌なことを訊いてくると思ったが、誰でも気になるところなので仕方が無い。


「敵は三〇人しか倒れねぇぞ?」


「十分ですな」


「ほ?」


「距離一五〇……つまり彼らの鉄砲では絶対に当たらない非常識な距離から、必殺の弾丸を飛ばしてくる鉄砲が一〇〇丁もあるのです。言い方を変えれば、一〇〇発三〇中の鉄砲が、一〇〇丁もあるのですから。敵は大混乱でしょうな」


「なるほど、そういうことか!」


ナンブ・リュウゾウは膝を打って喜んだ。


「さすがは軍師ヤハラどの! そのような秘策を用いるとは!」


やめてくれ大将、私は本物一〇〇丁を揃えられない、ダメな軍師なのだから。

苦虫を噛み潰すような思いに駆られていると、うちのサルはダイスケどのに自慢げにインチキ鉄砲を語りだした。

ダイスケどの大爆笑。


スケベったらしい目で私を見てくる。


「殿、殿! これはヤハラの秘策ゆえ、あまり大っぴらにされては困りまする!」


「おう、そうであったそうであった」


そう言って頭を掻いてはいるが、あの無邪気な喜びようである。

しばらくの間は「ウチの軍師はすげぇんだぜ」話は、しばらく続きそうな気がする。

私の考えでは、軍師などというものは表立ってなにかをするのではなく、大将の陰にあってこそのものである。


別な言い方をすれば、自分で何かをしようとする軍師など

人に何かをさせてこその軍師である。

ついでに言うならば、名を残す軍師もまた下。


手柄や地位はすべて大将に背負わせ、自分は偉くなった大将にひっついているだけでいい、というのが上と考えている。

私の仕事は、大将ナンブ・リュウゾウのそばにあり、こっそり耳打ちするだけ。

指揮を執り、手柄を立てて地位を上げるのは大将で良いのだ。


そして私が日陰の花でありたいと願っているときにこそ、変な舞台に引き上げてくれるのがナンブ領というのもに違いない。


「軍師どの!」


親衛隊の中から私を呼ぶ声があった。


「リュウゾウさまは嫁取りを決意しましたが、軍師どのはまだですかな?」


「そうじゃそうじゃ、軍師どの! その優秀な血筋を残すのは、今やお仕事にござるぞ!」


「それがなかなかどうして、軍師どのもすみに置けぬ方でな、町娘のモミジというのが軍師どのに熱い想いを抱いているようだ」


なにっ!? そんな話は聞いていないぞ!


「ちょ……待て、待ってくれみんな……」


私は事実関係を追求しようとしたが、この手の話題は事実など関係ない。

もりあがれば正義なのだ。

当然「待て」という私の願いはまったく無視された。


「モミジとは聞いたことが無いのう、どんな娘じゃ?」


「それがポニーテールでなかなかの美形、しかも天神一流の目録という腕だそうだ!」


よく見れば、話の中心となっている親衛隊士は、モミジが屋敷に乗り込んで来たときに制止していた隊士だ。

野郎、好き放題ホザきやがって……。


「天神一流といやぁ、シロガネ隊長の同門じゃのう! それで目録かい!」


「おう、軍師どのの兵学と天神一流の目録がありゃあ、俺たちもウカウカしとれんぞ」


「で、軍師どの! もう味見はされたのですか!」


「味見など……品の無い言い方はよしてくだされ」


「なんじゃ、まだ手ぇ出しとらんのかい!」


「よもや軍師どの、不能なのでは?」


「そのようなことは御座らん!」


酔いが私も回っているのだろう。

ついつい言葉に力が入る。


「ヤハラどの、ひとつ屋根の下に賢い者が二人いると、災いしか起きぬという。そのモミジ女とはいかなる者か」


ナンブ・リュウゾウが訊いてきた。

よもや、アンタと似たような人種だよ、とも言えない。


「あまり、賢くは御座らん……」


ナンブ・リュウゾウの次の言葉が分かっていながら、私はこのように答えなければいけなかった。

そして私の読み通りの言葉を、ナンブ・リュウゾウはくれやがる。


「ならば、なにも問題は無いな」


「殿! 私の嫁取りなんぞよりも、今後のナンブ領ですが……!」


「ヤハラどの、貴殿の手柄でリュウゾウ軍は鉄砲を百丁所持しているのだぞ。例えは悪いが、親父どのから爵位を強奪することも可能じゃ」


「よもや、殿……」


ナンブ・リュウゾウの口から、初めて爵位に対する欲のような言葉を聞いた。

よもや、この男……。

事実だけを取り上げるならば、マスター・キララの新式鉄砲にもっとも興味を示し、勝手に注文をしたのはナンブ・リュウゾウである。

暗い出世欲がこの男にあるのならば、私も覚悟を決めなくてはならない。


しかしナンブ・リュウゾウ、私が想定するよりは少しだけ賢かった。


「悪い例えと言っただろう。親父どのにはいましばらく長生きして頂いて、俺の挙げる手柄を一身に引き受けて貰わねばならん。それくらいにはヤハラどの、リュウゾウ軍は活躍するぞ」


餓えた野獣のような眼差しが私を貫く。

そして野生の勘なのだろう。

今の自分が爵位を継いで手柄を立てても、危険でしか無いことを察している。


そういう矢面には、男爵さまに立って貰おうというのが、ナンブ・リュウゾウの考えなのだ。

ならば私も少しだけ安心だ。

なんとしてもこの男には長生きしてもらわなければならない。


そうでなくては私の身が危ういからだ。

私もまた、まだまだナンブ・リュウゾウに矢面に立ってもらわなくてはならないのだ。


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