ろくでなし作戦 発案編
悪漢ゴーギー、討ち取ったり!
その声が二階から降ってきた。
ナンブ・リュウゾウの声である。
二階では他の悪党どもと親衛隊の手練たちとが交戦している音が聞こえてきた。
そして、屋根の上からもである。
「リュウゾウさまがゴーギーを討ち取ったらしいぞ!」
「こりゃ俺たちも負けてられんぞ!」
気合と剣の交わる音とが、ますます激しくなった。
最初から入室していないのだが、ダイスケどの率いる町方、同心、与力といった手合いが、ますます入って来づらくなった。
一階のバーは、すでに惨状である。
足の踏み場もないくらいに悪党どもの亡骸が転がっていて、手空きの隊士たちが路上へ運び出さなければならないくらいだった。
テーブルも床も血の池ができている。
脂と肉と内容物と、血液に混じったアルコールの臭いがひどい。
そしてゴーギーの亡骸を担いだシロガネ・カグヤ。
衣服に返り血を浴びたナンブ・リュウゾウ。
まったく乱れの無い、きれいなままのクサナギ先生。
それぞれがいまだ戦闘を続けている部屋に入ってゆく。
「手向かいすなってのが、まだわからんかーーっ!」
ナンブ・リュウゾウだ。
そしてその一喝で戦闘が終了する。
キエッとひと声、これはシロガネ・カグヤ。
こちらも手こずっていた戦闘を終わらせる。
クサナギ先生の部屋からは何も聞こえてこない。
無言のまま戦闘は終了したようだ。
ナンブ・リュウゾウたちが降りてきた。
「ヤハラどの、状況はいかがなものか?」
返り血と脂の臭いがひどい。
「はっ、二階は屋根上での戦闘が最後、一階も一部窓から逃走した者があったようですが、みちのく屋が捕らえております」
「斬ったのではないのか?」
「降参した者は召し捕ったようです。しかし手向かいの至った者は……」
「よいよい、それで良い。そうでなくては兄者がいちいちお白州で吟味せねばならんからな。要らぬ手間は省く方針で行こう」
とりあえず、この街での戦闘は終わったようだ。
悪党の一味はそのことごとくが斬られ、ごく少数が捕縛された。
ダイスケどのが、馬を寄せてくる。
「リュウさんや、お疲れ」
「おう、兄者。なに朝飯前のひと仕事よ」
「頼もしいな。酒屋へ戻って汗を流すか。ここはもう与力たちにまかせていい」
「そうか、ではヤハラどの。兵をまとめてくれ」
私は合図の笛を吹き鳴らした。
「殿のお達しである! 親衛隊、みちのく屋、集合!」
一軍かくやとばかりの人数が、屋内から路地裏からゾロゾロと現れた。
宿の前の大通りを埋めるように、全員が整列。
「各隊組頭は人員を掌握した後で報告を上げよ」
どの隊も欠員は無かった。
戦死者なし、という極めて優秀な結果である。
戦士たちの前に立って、ナンブ・リュウゾウは笑う。
「みんなヒドイ容姿だな」
どの兵も返り血や戦闘による衣服の乱れで、鬼のような姿であった。
「造り酒屋藤兵衛まで帰るぞ、そこで汗を流そう」
凱旋気分で、私たちは造り酒屋藤兵衛へと帰る。
そして順序よく井戸で汗を流した。
つまり、奇数班が水浴びをしていれば偶数班が見張りにつく。
偶数班が水浴びすれば、奇数班が守りにつく、といった具合だ。
そして藤兵衛の蔵では、酒肴が用意されていた。
これもまた、ダイスケ大兄のはからいであろう。じつに気が利く。
というかこの暑苦しい夏の夜。
藤兵衛は浴衣を用意してくれていたのだ。
できる者はどこまでもできる。
人心掌握というものはかくありたいものと、私も心にとどめておく。
そんな形で、私も一献唇を湿らせていた。
しかし、苦い。
酒がたまらなく苦いのである。
理由は明確だ。
……今回もまた、ナンブ・リュウゾウの腕力頼みでしかなかった。
これでは軍師失格である。
確かに、兵の配置は私の采配であった。
だがあの出来上がった状況だがは、配置など赤子にも可能だった。
こんなことで軍師と言えるのだろうか?
自問自答する。
とてもではないが、胸を張って軍師に御座いなどとは言えない。
故にせっかくの酒肴でありながら、私の舌には苦かったのだ。
「おう、軍師のダンナ。不景気な顔してんじゃねーか」
忍びのイズミが、私の横に座った。
そういえば、アヤコにはマスターの護衛を命じたが、イズミには何も命じていない。
というかこの酒宴にマスターがベロベロになるくらい参加しているので、アヤコもガバと飲んでいた。
「あぁ、イズミか……」
酔い半分、うつつ半分で打ち明ける。
「俺は本当にダメな軍師だなぁ……」
「あぁ、そうだな」
ちったぁ否定しろや、忍者。
「だけどな、軍師さん……」
忍者は盃に酒を注ぐ。
「ナンブ・リュウゾウの女房役は、天下にただ一人。あんただけだぜ」
「それは天下の負債を私ひとりで背負えと?」
「違うよ、そうじゃない」
忍者は干し魚を食いちぎった。
「星を掴む男に星を掴ませろってことさ」
「それができてないから、苦い酒を飲んでるんだろ!」
「何が苦しい?」
「私が殿の戦力になっていないこと……」
「兄者は関係ないのか?」
忍者の問いに、私は「ある」と答えた。
兄者ダイスケどのは、マスター・キララから購入した新式鉄砲を笑っていた。
その理由はわかる。
これより大戦という折に、ちょっとよく弾が飛んでちょっとよく当たる鉄砲。
高々三〇丁を仕入れて、どれだけの戦力になるものか。
そのように問われて、返答できなかったのだ。
「それがヤハラさんの悩みか……」
忍者は眼差しを伏せた。
心底私の親身になってくれているようだ。
「ヤハラさん。どうする?」
「どうにもできないから困っている。せめてあの鉄砲が百丁あれば……いや、できないか?」
「できるのか?」
「できない訳じゃない。しかも、ローコストで……」
「さすが軍師どのだな」
いやしかし、これは褒められた策ではない。
ほとんど詐欺かペテンのような策である。




