そして出征
「で? 軍師どの。俺の可愛い義弟をどうするのよ?」
酔眼、酔っぱらいの眼差しを私に向けてきた。
鉄砲隊を失った我ら、しかし敵には火縄銃もどきとはいえ、鉄砲があるという状況。
「火縄の数次第にござる」
苦しい答弁だった。
しかし、そうとしか答えようがない。
当然のように、ダイスケどのは言ってくる。
「では敵が火縄ニ〇丁なれば?」
「間断に突撃にござる」
「では一〇〇丁なれば?」
「難しゅうござる……せいぜい、少数の選抜隊にて側面、あるいは後方より襲撃すべきかと」
「面白くもなんともないなぁ」
「兵法は奇道にはありませぬ」
そのとおり! と言ってダイスケどのは酒を一口。
「軍師だからといって奇妙な手を使うばかりではない。むしろコツコツ、地道な支度をしておくこそが軍師の仕事よ」
まるでマスターから鉄砲を購入したことが奇策、と言われているようだ。
しかしあの注文はナンブ・リュウゾウが勝手に始めたことであって……。
いや、言い訳などすまい。
購入したことは事実なのだから。
「で、本題に移ろうか」
酔っぱらいの話はいつも唐突だ。
「イズモ領の東と西に、兄と弟の管轄地がある。ここに無頼の連中が集まって、どうにもならん。リュウゾウどん、手伝ってくれるか?」
「もちろんですとも」
無頼漢ということであれば、斬ってすててもおかまいなし。
ナンブ・リュウゾウの目が輝く。
「しかし兄者、街をあげての大騒動だ。合戦のあとはどうする?」
「即座に立て直しをはかり、通常の交易を復活させる。立て直し用の資材はすでに調達してあるさ」
抜かりの無い男だ。
まあそれだけ、西と東の街は重要なのだろう。
交易の街のようだから、当然といえば当然である。
それでその夜はお開きとなった。
私たちはダイスケどのの屋敷で床を借りる。
親衛隊、みちのく屋の面々は手配された宿に泊まった。
そして翌朝、私が朝食を摂っていると、ダイスケどのの喜色に満ちた声が響いた。
「ヤハラどの、さすがナンブ軍ですなぁ! すでに兵が集結、整列してますぞ!」
なんと? 気の早いというかどれだけ戦さ好きなのよ、君たち。
「これだけ士気の高い兵が揃っておれば、いかなる兵器もへのかっぱじゃ!」
「そうじゃろうそうじゃろう兄者! このワイマール王国において、精強となればまずナンブ軍ですわい!」
一緒になってナンブ・リュウゾウも喜んでいる。
「ヤハラどの、さっさと飯を済ませて兵の士気に応えるべく檄を飛ばしに行くぞ!」
われらが大将は、すでにヤル気である。
というか兵の誰よりも士気が高い。
っつーか、いまにも外へ飛び出しそうであった。
「待たれよ殿、戦さはまず腹ごしらえにござる。イズモ家の朝食、ありがたくいただきましょう」
「おう、そうじゃな。兄者、いただきますぞ」
「おう、腹一杯食え。男は馬力ぞ、馬力は飯ぞ」
二人はモリモリと食っていたが、私は静かにゆっくりと食事をいただいた。
私が一人前を平らげる間に、二人は三人前ずつ食らっていた。
そして食後の茶を飲む間もなく、三人で表へ出た。
「精強なるリュウゾウ軍諸君! 士気に溢れているようだな!」
大将の言葉に、軍は「応っ!」と答えた。
「早朝より精悍な顔つきの諸君に、義兄となるイズモ・ダイスケどのから、早速お褒めの言葉を頂戴したぞ!」
またもや鬨の声に似た声があがる。
じつはお前ら、意味もわからず無責任に叫んでないか? と疑うほどの声だった。
「兄者、これからの予定を下知くだされ!」
われらが大将は、義兄となる大男に場を譲った。
「天下に無双たるリュウゾウ軍諸君!」
いま気付いたが、ナンブ軍がリュウゾウ軍にすり替えられている。
これはイズモ家からのお墨付きというやつであろうか?
「これより我々は、遠方東方へ出征! 無頼の輩どもを駆逐する!」
より具体的な標的を示されて、士気はキ〇ガイではないかというくらいに盛り上がった。
「敵はどこの誰ともわからぬ、無宿の虎蔵だ! イズモを代表して乞う! なにとぞ是非とも、斬って斬って斬りまくってくれぃ!」
野人の雄叫びのような声。
そして足踏みか地団駄のような地の響き。
朝から近所迷惑だろうに……。
しかし男どもの勢いは止まらない。
「ダイスケさまサイコー!」
「殿、殿! 一生ついていきますぞーーっ!」
「二人ともっ、俺をメチャクチャにしてくれーーっ!」
なにやら不穏な声も聞こえたが、二人が兵の心を掴んだのは確かだ。
「それでは兄者、案内を願います!」
「うむ、では弟者! ゆくぞ!」
人斬り集団、堂々の出撃である。




