お白州
お白州の場、ではない。
ワイマール王国に於いてはそれより恐ろしいイズモ伯爵邸宅。
その敷地である。
私は吟味役としてそのお庭に控えていた。
太鼓が鳴る。
「ワイマール王国伯爵、イズモさま、御出座〜〜!」
役割の者が告げると、重々しく裃を身に着けたイズモ伯爵が現れた。
庭先で控えているのは、騎士団長と間者である。
着座したイズモ伯爵は、これまた重々しく容疑の者の罪状を述べる。
「騎士団長、その方あろうことか余を見限り、そこな間者の内通にて他領地へと鞍替えするつもりであったこと、調べにより明白なり。以上相違ないか?」
「御言葉ですがイズモさま、拙者代々の騎士団長家、伯爵さまに不満など考えたこともごじませぬ」
「されどそこな間者の手引きにより、鉄砲職人キララともども、ワルサー領へ逃亡する算段、この耳に届いておるぞ?」
「たれの企てなるか! 我こそは忠臣と馬を励まし槍を磨いてきたというに! そう、その企ては当方の屋敷へ押し入った浪人、某の仕業にございます!
いま一度よっく吟味されたく存じます」
「そこな間者、その方も同じ意見か?」
「同じ意見もなにも、あっしゃ間者なんぞではございません! なにかの間違いでさぁ!」
「ではこれなる書面。マスター・キララともども亡命の折には、ワルサー家にて抱え込むというのは、証拠にならんか?」
「それこそ!」
騎士団長は声を荒げた。
「拙宅へ押し入った賊の手によるものです! 速やかにその者の詮議を願い出ます! さすればわたくしめの身の潔白を証明できるはず!」
イズモ卿は残念そうに目を伏せた。
しかし悪党二人は、「あの浪人者を捕まえよ!」と、あくまで喧しい。
「相わかった騎士団長、しかし余はそなたに会わせたい人物がいる。……証人をこれへ」
ナンブ・リュウゾウが引き出された。
イズモ卿は、さらに重々しく続ける。
「騎士団長、これなるは我が末娘キョウカの許嫁たる男爵ナンブ家御三男リュウゾウなる者。ほれ、顔をあげてシカと相見えよ」
騎士団長が顔を上げた。
裃姿のナンブ・リュウゾウに目をやる。
しばし間をおいて。
昼間にもののけと逢ったような顔をした。
忘れたとは言わせねぇぜ、とっつぁん。
とナンブ・リュウゾウはドヤリとした顔。
騎士団長は、ただただひれ伏した。
ただし、伯爵さまは複雑な顔。
「どうかな騎士団長? 余の娘の許嫁がうそつきかどうか、その方の口から申し出てくれ」
「すみませぬ」
騎士団長、最期の言葉であった。
そして間者はすでに腹を斬っている。
お白州の場に、刃物を持ち込ませてしまったのはコチラの不覚である。
「リュウゾウどの、見苦しいところをませてしまった……すまぬ」
「なんのイズモ卿、広大な領地あらば、悪も生まれるものですぞ!」
「いや、これはきっと天罰じゃ……余は潔く腹立つ召そう……」
「なんのイズモさま!」
ナンブ・リュウゾウはお白州の階段を駆け上るや、イズモ卿の小手を打った。
「合戦はこれからにござるぞ、イズモ卿。それともなにか、愛娘の御子も抱かずに、冥府を彷徨いますかな?」
領主と、それ未満の若造。
しかし心は通い合ったようだ。
血と肉の謝肉祭の中、ナンブ・リュウゾウは膝を着く。
「オヤジどの、次はいかなる問題を斬ればよろしかろう!」
うむ、いつまでも悲嘆に暮れている場合ではないなと、イズモ卿は顔を上げた。
私としては、いつまでも悲嘆に暮れていただくのが吉なのだが。




