御用改め
「よし」
そう言ってナンブ・リュウゾウは刀を引きつけた。
「では騎士団長を斬るか」
親衛隊、さらにはみちのく屋の面々は一斉に殺気立った。
いや、大将。
その策はいかがであろうか?
なにしろここは他領。
騎士団長も伯爵さまの家臣である。
ナンブ・リュウゾウが斬っていい相手ではない。
「殿、お待ちくだされ」
殺気は一瞬、止立てた私に向けられた。
そしてやわらぐ。
「殿、ここは他領にござる。ひとつ知恵を絞るべきかと」
「なにか妙案でもあるのかな?」
その目は、まだ騎士団長を斬るつもりでいるようだ。
「みなさま、御耳を拝借……」
そして私は策を授けた。
まずはアヤコが席を立つ。
そしてダイスケどのが去って行った。
「なるほどヤハラどの。それでは我々も支度にかかるか」
ナンブ・リュウゾウは腰の二本差しを外してテーブルに置いた。
親衛隊やみちのく屋の男どももまた、腰から刀を外した。
「それではみちのく屋、武器を調達にゆくぞ」
総裁は出てゆく。
みちのく屋はそれに従った。
「ではナンブどの、騎士団長邸宅で」
それがミズキ・タカシの言葉だった。
ナンブ・リュウゾウも宿を出る。
「親衛隊、騎士団長邸宅へ向かうぞ!」
すべて私の策通り。
夜風を肩で切り、通りをゆく。
その横顔に読み取れるのは、殺意というより決意である。
私の策というか提案は、騎士団長を斬るのではなく、捕らえることであった。
そして伯爵さまによる裁きの場へ出すこと。
そうでなくてはイズモとナンブ両家が戦争となってしまう。
そして騎士団長邸宅。
門衛が数名、屋敷を守っていたが、ナンブ・リュウゾウは無手による当て身のみでこれを眠らせた。
クサナギ先生、シロガネ・カグヤも風のように仕事した。
そこへみちのく屋の面々が到着。
得物である丸杖を全員に与えてくれた。
親衛隊の中でも屈強な者が台となり、身軽な者が塀を越えた。
内側から門を開ける。
ナンブ・リュウゾウを先頭に、親衛隊は音も無く忍び込んだ。
邸内の中庭のような場所に、親衛隊は集結した。
カーテンで仕切られたベランダの前だ。
巨大な明り取りの窓の外、ナンブ・リュウゾウが立つ。
私も窓の側で聞き耳をたてた。
「まだマスター・キララを連れ出すことができんのか!」
「慌てなさるな。すでに準備はできてござる。騎士団長どのはワルサー卿より賜る、金貨の使い道を考えておくがよろしい」
「しかし、本当なのだろうな? 貴様がマスターの拐かしに成功すれば、ワルサー卿がワシを重臣として取り立てるというのは……」
「間違いなく。こちらに約定の書もございます」
邸内からの声は、あきらかに騎士団長の謀反を示していた。
しかし。
「何奴!」
ベランダの窓ガラスが割れた。
棒手裏剣が飛んで来たが、ナンブ・リュウゾウは難なくそれを手掴みにする。
硝子の破片などお構いなしであった。
「この耳でシカと聞いたぞ、騎士団長。イズモ伯爵を裏切り、他家に鞍替えというのも聞き捨てならぬが、鉄砲職人を手土産になど言語道断!」
「えぇい! 浪人風情が、何を聞いたというか! それ以前にここをどこと心得るか! 狼藉者として斬り捨てるぞ! みなの者、出会え! 出会え!」
どこからともなく、剣を腰にという若党が二十三十と現れた。
「そこな怪しい浪人、斬って捨てい!」
騎士団長が怒鳴ると、ナンブ・リュウゾウ目掛けて一斉に抜刀。
騎士団長の忠臣としてナンブ・リュウゾウに殺気を向ける。
「やむを得んな」
ナンブ・リュウゾウが杖を構えたのを機に、若党どもが斬りかかった。
しかしそれを許す親衛隊ではない。
打ち、突き、あるいは目間に杖先をつけて戦意を挫く。
そしてナンブ・リュウゾウは剣を杖に変えても上手であった。
若党どもの間をスルスルと抜けて、騎士団長の水月に突きをお見舞い。
巨悪は意識を失い、だらしなく崩れ落ちた。
そこへ響く笛の音。
蹄の音も高らかに、イズモ・ダイスケが馬を駆って飛び込んできた。
「この夜半にいかなる騒ぎか! イズモ伯爵家次男、イズモ・ダイスケ、御用の筋あって詮議いたす! 手向かい致すはひっ捕らえるぞ!」
かくして騎士団長の乱は幕引きと相成った。




