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新式銃のお値段

私の色恋なんぞはこっちへ置いておくとして、部品の発注、運搬などの細かい点はみちのく屋の総裁とマスターによる打ち合わせにまかせるとして。

いよいよ生々しい部分。

代金の話である。


「マスター・キララ。銃の代金はいかほどになりましょう?」


私が訊いた。

ナンブ・リュウゾウには言わせない。

アレは貴族だ。


どのような値段をつけられても、貴族というものは値切ることができないからだ。

そんなことをすれば買い物で値切る貴族の息子などと、世間の笑い者になってしまう。

だから家臣の私が訊く。


私は平民、というか農村の出身だ。

値切ったところでナンブ家の恥にはならない。


「新式鉄砲の代金ですか? これだけいただきます」


手の平に、人差し指一本で『六』という数字を示してきた。

六億か……。

ローンは組めるだろうか? と考える。


渋い私の顔を見たか、マスターは「私にも生活がありますから」と言う。

しかし、読者諸兄の金銭感覚で、六億。

みなさまの世界の防衛費とすればお笑い草な金額だろうが、地方自治体のような貴族としては、なかなかに痛い数字である。


「ヤハラさま、苦しい金額でしょうが、六○◯万いただかないと材料の仕入れもままなりませんので……」


なに? 六○◯万だと?

この娘、最新式で神の領域と謳われる銃を、三十丁六◯◯万円で売ってしまうのか?


「今回は部品の外注で半分の値段。そして製造期間は一年間見ていただくとして、私の生活費でニ◯◯万。あとの百万は……ちょっと吹っかけさせてもらいましたケド……ぼったくりでした?」


「その反対だ! 安すぎる! 頼むからマスター・キララ、もっと良い値段をつけてくれ! そうでないと他の領地や敵国に買い占められてしまうだろ!」


「ヤハラさま? ヤハラさまはやはり貴族にお仕えしてるのですね……」


呆れたように言われてしまった。

私がなにか配慮の足りないことを言っただろうか?


「ヤハラさま、鉄砲はそれだけでは人を殺せませんよ?」


そうか、弾か!

弾の代金で吹っかけてくるんだな?


「弾にしても戦争で使う分、訓練で使う分はその倍、三倍の数。それにこの鉄砲が壊れたとき、修理できるのはワイマール広しといえど、私だけなんですから」


そうだ、鉄砲というものは道具。

道具というものは壊れるのだ。

そうなると場合によってはマスター・キララを貴賓待遇で戦場までお招きしなければならない。


戦場にピクニック装備のお嬢さんという、脳髄がコゲつきそうな想像は振り払い。

まずは弾の代金である。

まず、一人の銃兵が何発の弾を使うか?


銃兵は三十人。

できればこれで三百からの弓兵を葬ってもらいたい。

そうなると、一人十発。


そんなもので銃兵の仕事が終わってもらっては困る。

迫り来るファランクス陣の槍兵、これも討ち取ってもらわなければならない。

あり得ない速度だが一秒間に一メートルずつ、槍兵が進んで来るとしよう。


こちらは五秒間に一発の弾を撃てる。

敵は五秒間に三十人ずつ減ってゆくのだ。

距離一五〇から一〇〇メートルを有効射撃距離としたい。


そうすると射撃回数は十回。

ここでも十発しか弾を使わないではないか。

少し奮発して倍の回数を撃てるとしても、それでも二十発。


合計三十発の弾を使うことになる。

ここで、強襲作戦などなどを考慮しても六十発の弾があればまかなえることになる。

まあ、そこは戦場というもの。


一人辺り七〜八十発も準備していればまかなえるだろう。

そうすれば訓練では一人二百発もあればいいか。

その計算をマスターに伝える。


「一人二百発⁉ 競技選手でも育成するつもりですかっ! 距離一五〇で人間サイズの的に当てられないなら、鉄砲撃ち失格です! 交代させなさい!」


そんなに簡単に当てられるものなのか? 鉄砲というやつは。


「鉄砲なんて十発も撃てば誰でもイヤになるものです! それでも訓練というなら二十発。問題は数を撃つことよりも、安全に扱うことなんですよ?」


マスター・キララは弾を撃つことより、味方を撃たない配慮という部分を強く主張した。

弾を撃つよりも、弾を抜いた状態での訓練が重要。

実に安上がりな兵器である。


「そういえばヤハラどの、間者の件はどうする?」


そうだ。

これだけの兵器を安価で販売してくれるマスター・キララ。

彼女を他の領地へ奪われる訳にはいかない。


「常時数名、屈強そうな者をつけておきましょう。幸いにして人数はいます」


みちのく屋の人数をあてにできる。

これは心強いことであった。


「ということで兄者、あまりマスターを困らせないようにしてくだされ」


「まあ、仕方ないな……」


マスター・キララの一件は、どうにか片付きそうであった。


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