肩透かし
そしてヤハラの視点である。
アヤコがもたらした情報、マスター・キララの作り出す銃が神の領域だという件。
さらには彼女のかどわかしを狙う者がいる件。
とにかく先行する大将、ナンブ・リュウゾウと協議しなければならない。
いや、なんとしてもマスター・キララはイズモ領に押し込んでおかなければならないという持論を、ねじ込んでやらなければならない。
それまでは、うかつなことをしてくれるな、ナンブ・リュウゾウ!
私は足を励ました。
合流は一刻でも早い方が良い。
親衛隊の面々と組んだ旅芸人の変装。
それが目立ってしまうことも構わず、私は先を急いだ。
「なんでしたらヤハラさまお一人で急がれては? こんなことをしていたら、全員が怪しまれますよ」
アヤコに指摘された。
そんなことも気付かないほどあせっていた。
そこで馬を借りることとした。
手綱はアヤコが握る。
情けないことだが、私はアヤコの腰にしがみつくだけであった。
ほのかに女の香りがしたが、今は邪念を払う時である。
馬を乗り継いで、ようやく目的地に到着した。
忍びのイズミが出迎えてくれた。
ずいぶん急いだなと、イズミは笑っていた。
このときハタと気づく。
アヤコの情報をイズミが知らない訳が無い。
アヤコはナンブ・リュウゾウから借りた私直属の忍びだが、イズミはナンブ・リュウゾウの忍びである。
私は落ち着きを取り戻し、馬を降りた。
しかし油断はしていない。
私の方針、マスターはイズモ領から出さない、という意見をねじ込まなくてはならないからだ。
「殿はどこへ?」
イズミに訊く。
クサナギ先生の姿も見えない。
それなのに忍者はここにいる。
我らが大将、ナンブ・リュウゾウから目を離すとはなにごとか。
いかにクサナギ先生がついていようとも、イズミまで目を離していいものではない。
しかしイズミは悪びれもせず、「宿にいるぞ」と答えた。
洋風の宿だ。
すでに御承知のとおり、一階がバーになっている。
ナンブ・リュウゾウはそこで、見知らぬ巨漢とビールを飲んでいた。
「あれがキョウカ大好き、イズモ・ダイスケお兄ちゃんだ」
忍者が教えてくれた。
なにがあったのか?
義兄と義弟が酒を酌み交わしている。
「さっきまで本気の斬り合いしてたんだぞ、あの二人……」
「それが、なんで?」
訳のわからないことだらけであった。
しかし二人、というかクサナギ先生も入れて三人の会話を聞いていると、剣術談義に花咲かせているようだった。
「しかし兄者の剣は鋭かった。このナンブ・リュウゾウ、肝を冷やしましたぞ」
「なにをコキやがる、リュウゾウ。貴様の最後のひと太刀、あれを止めてくれなんだら、俺の首は落ちていたぞ」
「ただで斬られるイズモ・ダイスケかよ」
「まあな、しかし返しの手は無かったわい」
と、こんな調子で本当に斬り合いをしていたらしいことに、私の肝が冷えてしまった。
そして二度とナンブ・リュウゾウから目を離すまいと心に誓った。




