この時代この世界では未だ訪れる気配すら無い産業革命と四民平等の世の中について
奇跡の銃を生む娘、ガンマスター・はイズモ領に留まっていただく。
その方針は良い。
そのためにも伯爵さまのバカ息子には、態度を改めていただかなくてはならない。
それも良い。
「しかし問題は他領地の間者だな。いくら状況が好転しても、コイツがマスターを狙っているうちは、新兵器流出の可能性は消えない」
「可能性が消えないのでしたら、間者さんに消えていただきましょうか?」
アヤコは簡単に言う。
しかし、間者一人を殺めても第二第三の間者が現れてマスターを狙うだろう。
ならばどうする?
「忍者の知恵としては、その新兵器がありふれた、ツマラナイ物にするという思考があります。なに、敵の手にさえ渡らなければいいんですから」
「それもそうだが、しかし危険だ。ありふれた物になってしまえば、敵の手に渡る可能性が高くなる。手柄抜きで考えても、その銃はナンブ・リュウゾウと親衛隊。あるいはみちのく屋で管理するのが一番だと思う」
「あの口利きの商人おじさんですか? 商人なんて信用できないでしょう」
「商人であると同時に理事長先生だ。教育者として、私の弁を理解してくれるはず」
「ですけどヤハラさま、調べてきた私が言うのもなんですが、そんなすごい鉄砲、本当に存在するんですか?」
「現物を見ていないから、私にも分からない。だがしかしアヤコ、世の中には天才という迷惑な人種がいて、たやすく神の領域に足を踏み込む連中がいるんだ。世界秩序の崩壊も省みずにな」
「そんな天才さんが作るのでしたら、そんな鉄砲は世界に一丁か二丁しか存在しないのでは?」
「一丁あればこと足りる。それを分解して構造を理解すれば、職人ならすぐに同じものが作れる。マスター・キララの脱走も危険だが、その新兵器の流出も困り物になるな」
「急ぎましょう、ヤハラさま」
とにかくどうにかしなくては。
私は足を急がせた。
一方、ナンブ・リュウゾウとクサナギ先生。
こちらは問題の伯爵さま直轄の街に入っていた。
二人とも浪人の風体。
もっとわかりやすく言えば日光で色落ちした和服に袴。
日焼けした顔に汗が浮き出て、全身埃まみれであった。
「さすが浪人、小汚さが板についてますなぁ」
出迎えの忍者、イズミは声をあげて笑った。
こちらは綺麗なもので、旅なれた股旅か薬売りといった変装である。
「で、イズミさん。件の鉄砲職人の店はどこかな?」
「あぁ、早速仕事かい。クサナギ先生は熱心だなぁ」
街に入ってしばらく歩くと、看板をあげた小さな店舗が目に入った。
老舗のようで、年季の入った柱の一本一本が歴史を物語っている。
煙突からは煙があがっていた。
火を使う作業の最中らしい。
そしてイズミはアヤコと同じく、マスター・キララの造る銃が神の領域であることを伝えた。
それに対してリュウゾウは、ヤハラと同じく、イズモ領にその新兵器を封印することを望んだ。
イズミは間者が接触していることも告げる。
これに対するリュウゾウの反応は、少しヤハラと違った。
「神器とも呼べる新兵器、これがもしも量産されるようになったなら……貴族社会、王制文化が崩壊する……」
「そういうものなのかい、大将?」
「そういうものさ。今は職人がネジのひとつから部品を作っているから、銃は高価なものである。しかしそれが量産可能となれば値が下がり、庶民でも兵器を手にできるようになる。王室や貴族が庶民の上に君臨できるのは、武力があるからだ。この武力が四民平等に分配されれば、王室や貴族制度は崩壊。民が自ら政治を行うことになる……」
「いいことじゃないのか、それって……」
「ナンブ領はまだいい、識字率が高いからな。しかし読み書き算盤もできない庶民が政治を行うことになるんだぞ。それは一時の感情にとらわれた、禽獣の世界と変わりのない政治になろう」
「信用してないのか? 庶民を……」
「信用してない訳じゃない。学問や理性無しに政治を行うというのがマズイのだ! せめて四民平等に政治の知識や知恵が行き渡ってからにするべきだというのだ!」
「で? その日はいつ来るんだ?」
「それは断言できない。しかし人間はその欲するところをすべて叶えてきた。その新型鉄砲がいい例だ。つまりいずれは、俺の懸念が現実となるだろう……」
「……………………」




