神の領域
伯爵領とはいえ、まだ端っこの田舎街。
武器を荷車に隠し、旅芸人一座に扮した私たちは田畑に挟まれた道を歩いた。
伯爵領だけあって、男爵領よりも歩く者の数が多い。
おかげで怪しげな旅芸人一座の扮装も、目立たなくて済んだ。
先行する大将とクサナギ先生は浪人の風体でイズモ領潜入を試みているが、おかしなことに巻き込まれないように、と祈るばかりであった。
そんな折、アヤコが現れた。
「ヤハラさま、鉄砲職人を脱出させようとした者ですが、他領地の間者であったようです」
「他領地? ひとつの王国で職人の奪い合いをしても仕方ないだろ?」
「そんなリュウゾウ親分みたいなこと言わないでくださいよ。いざ合戦と言うときは優良な職人による得物を所持している方が手柄を立てられるじゃないですか」
「ちょっと待て、鉄砲なんて当たらないし連打が効かないから、弓にも劣る兵器だろ?」
「それは情報収集を怠っているヤハラさまの失態ですね」
「有能な忍者が私に情報を与えないのが原因だな」
「……本題に入りましょう」
私のツッコミをスルーして、アヤコは説明を始めた。
「じつはこの度件の鉄砲職人さん、鉄砲職人という称号から鉄砲達人に昇格したそうで」
「もっと端的に」
「なんとマスター・キララの発明した鉄砲、五秒に一発の連射速度だそうです」
「なに? 鉄砲などというのは次の弾を撃つのに何分と時間がかかるものだろ?」
「しかもヤハラさま、一五○メートルで弾の散り方が一○センチ未満というスグレモノ!」
「おいおい、それってほとんど神器の領域だろう? 一五○メートルでその命中率は人類が手に入れていいものじゃないぞ! っつーか一五○メートルで一○センチ未満なんて、肉眼じゃ見えないだろ?」
「だからみなさん、マスター・キララを欲しがるんですよ」
「だがちょっと待て……」
私の胸に暗い考えがよぎる。
「そんな超兵器、世界に広まったらどうなる?」
「神の領域へ考え無しに足を踏み入れた愚かな人間同士の殺戮時代幕開けですね」
「……………………」
さすがに私も考えた。
本来ならば軍師たる者、嬉々としてそれを受け入れなければならないのだが、神の領域ともなれば躊躇してしまう。
「……これはなんとしても……ガンマスター・キララを……渡してはならない。……その技術は、絶対に……流出させてはならない」
「ナンブ領で召し抱えますか?」
「いや、イズモ伯爵に責任を取ってもらう」
まだ若いナンブ・リュウゾウや私では、この案件は扱いかねる。
よって超兵器の責任は、イズモ伯爵にとっていただくこととする。
「いや、とにかく今はマスター・キララをイズモ領に留めておくことが最優先だ」




