男爵さまに御挨拶
ヤルとなったらナンブ・リュウゾウの行動は早い。
クサナギ先生とともに浪人の身なりで男爵さまの元へ旅立つ。
私は親衛隊とみちのく屋の混成で班を作り次々と出発させた。
屋敷に残った職員に不在中の仕事……つまり工事の計画と見積もりをはじめとした実務を言いつけて、私も旅芸人一座に扮したメンバーの一員となる。
道中の宿の手配などはイズミにまかせてある。
旅なれたイズミの手配は信用に値した。
まずは男爵さまの領地に到着。
イズミは宿を用意してくれていた。
荷をほどき、上物の衣服に着替えた。
まずは大将とともに男爵さまに御目見え。
多額の工事費用を賄ってくださることに謝辞をのべる。
それからイズモさま領地へおもむき、問題解決に尽力することを伝えた。
「もう手掛けるのか、早いなぁ……」
男爵さまは驚いていたが、三男坊の行動力に目を細めていた。
「士は神速なるを尊ぶと申しますゆえ」
「しかしイズミから聞いているぞ、大道芸人の行列だそうじゃないか」
「奇兵にございます」
それ以上は言わない。
ともすれば、「キョウカお嬢さまの婚約者さまが挙げた手柄」という名誉を得られないかもしれない。
つまり変装のせいでナンブ・リュウゾウと気づかれない可能性すらあるのだ。
「そのような無実よりも、義父となる方の憂いを晴らせればと」
男の言葉は少ない。
虚飾を排している。
だからこそ実なのだ。
そして秘なのである。
秘は実を呼ぶ。
そして有言実行などという安物よりも、遥かに尊敬と信頼を集めることができる。
「しかし伯爵さまには、お前が征くことを知らせておくぞ? いきなり騒動が始まっては、先方も驚くだろうからな」
「大道芸人は秘匿してくだされ。拙者も恥ずかしいので……」
「それで? 人数はいかほどか? 露銀も必要だろう」
「百三十です」
「なにっ! ひゃ、百三十だと!」
男爵は思わず腰を浮かした。
無理も無い。
三人の息子たちが三十ずつ兵をかかえてるとして九十名。
それに男爵さまの兵五十を加えてもナンブ兵は百四十にしかならないのだ。
それに劣らぬ数を、三男坊は擁している。
「なに、商人が口を効いてくれたのです。身分は郷士ということで、普段は労働に使っております。今回もナンブの酒を商うことで、露銀とさせております」
男爵さまはどっと流れた汗を拭い、椅子に腰をおろした。
「その口を効いてくれた商人というのは何者か?」
「学園の理事長先生ですよ。身元はしっかりしています。それが副業か本業でみちのく屋という口利きをしているそうで」
「それならば堅いな。しかし理事長先生も、どんな錬金術を使って人を集めたものか……」
「そこは人材の宝庫を抱える方ですから」
私たちは三十人分の露銀をいただき、イズモ領へ出発した。




