イズモ領の問題
そして話はバタバタと進む。
まずは北領とイズモ領を直通で結ぶ道路の開通工事である。
男爵さまから是非に、との返答があり予算もふんだんに用意してくれた。
そしてイズモ伯爵にその旨を打診したところ、こちらからも色よい返事があったそうだ。
ただ、伯爵サイドとしてはひとつ問題を抱えていたそうだ。
道楽息子が領地における大変に重要な職人を困らせている、というらしい。
これをひとつ、なんとかして欲しいとのことだ。
「伯爵さまの倅が問題となると、うかつんは手が出せんな」
大将は苦い顔をしたが、そこは軍師の出番である。
「なに、正体がバレなければよろしいのです」
「つまり、変装をして懲らしめろと?」
本日の殿は大変に巡りがよろしい。
「とはいえうまれながらのこの顔だ。看板役者のようにはなるまいよ」
「殿、顔を変えずとも東領には潜入できたでしょう」
「服装を変えるだけでいいのか」
「あと、武器を隠すことも大事にござります」
「浪人者に扮すれば、帯刀していても大丈夫ではないのか?」
「貴族の倅がボロを着るのかね?」
私は反対であったが、この男は乗り気である。
しかしコイツがボロを着るとなれば、親衛隊諸君もボロを着なければならない。
「そこは旅の商人や芸人でもよかろう。職種がまちまちであれば、それだけ潜入しやすくはないか?」
「それもそうですな」
「ヤハラどの、貴殿は男前だ。役者の振りをすれば良い」
野郎、それが言いたかったのか。
「人数はどれくらいとする?」
「はい、いつもの面々と考えておりましたが」
「みちのく屋からも出そう。せっかくの暴れる機会だ。どのような働きをするか見ておきたい」
「大所帯になりますなぁ」
「売り物を抱えさせて、あちらで売りさばけば、旅費の足しになろう」
さっそくみちのく屋を呼び、打ち合わせをする。
ミズキ・タカシは酒を売ると言った。
ナンブ男爵領地は水どころであり米どころであった。
よって、佳い酒ができる。
それをあちらで売るというのだ。
ナンブの美酒というのは、なるほど近隣でも評判ではあった。
「ミズキの大将、売りつける宛てはあるのかね?」
「商人にござる」
まかせておけ、ということだ。
なかなかに頼もしいではないか。
むしろイズモ・キョウカなどよりもこちらを重宝するべきかもしれない。
ざっくりとした日取りの計画を立てて、それから役者の割り振り。
その上でアヤコを呼び、イズモ領での宿の手配を命じた。
イズミも現れる。
「それとなくは下調べを済ませておいた」
できる忍者だ。
イズミの調べによると、男爵の倅はコースケというらしい。
これがまた妹にゾッコンというシスコンに飽き足らず、小さな女の子に目が無いというロリコンだという。
妹が寮生活を送っている寂しさから、街の鉄砲職人の娘に入れ込んでいるらしい。
ことあるごとに店へ押しかけ、小柄な娘に迷惑かつヘタクソな愛の詩を捧げているらしい。
だが、それだけなら可愛いものだ。
コースケが嫌がらせまがいの求愛をしていることをいいことに、街のチンピラがイズモ領からの脱出をそそのかしているらしい。
鉄砲職人に出て行かれては、イズモ伯爵としては大損害である。
いざ合戦というときに、鉄砲が手に入らないとか修理する者がいないことになる。
伯爵からすれば頭の痛いところである。
「どう見る、ヤハラどの?」
「そのチンピラ、臭いですな……」
「さすがヤハラさんだ。鉄砲職人の娘はキララというのだが、これが新式の鉄砲を開発したらしくてな、よその領主からすれば、喉から手が出るほどの人材なのさ」
「つまりどこぞの領主が、チンピラを使って職人キララを連れ出そうと?」
「まだ裏は取っちゃいないがな、私はそう睨んでいる」
なるほど面倒な話だ。
しかしナンブ・リュウゾウの顔が渋い。
「ヤハラどの、『鉄砲職人』の娘の話ではないのか?」
「いえ、どうやら鉄砲職人は娘、という話のようで」
「勇ましい娘もいたものよなぁ……」
「しかし殿、女子供も貴重な人材です。これらが労働力として機能すれば、ナンブ領は躍進しますぞ」
「女の仕事か……これを確立すれば、確かに儲かるな……」




