みちのく屋、現る
さて視点をナンブ領北部、ナンブ・リュウゾウの部下である私、ヤハラの視点に戻してみたい。
まずはナンブ・リュウゾウ、父である男爵さまに文を送り、北領地とイズモ伯爵領地を直接結ぶルートの開発に乗り出すため、資金提供を願い出た。
もちろん二つの領地を繋ぐのであるのだから、イズモ伯爵にも資金を出していただきたい旨も添えてある。
まず男爵は乗り気であった。
裏の事情を明かすのであれば、ナンブ・リュウゾウとイズモ・キョウカの婚約はイズモ領の山積する問題を、娘婿の腕力で解決してもらうためだからだ。
ナンブ・リュウゾウが、自ら伯爵家と親密になろうという動きは、男爵とて歓迎すべき動きなのである。
男爵さまの心持ちを代弁するならば、「リュウゾウのヤツめ、いつの間にそのような処世の術を覚えたか」というところだ。
そうなると近々のうちに、ナンブ・リュウゾウ一隊によるイズモ遠征もあり得るだろう。
どのような無理を押しつけられるかわからぬ私の立場としては、とりあえず『使える手が欲しい』というのが本音である。
そんな折、一人の怪人が現れた。
身なりは、まず上等であった。
しかし着流しである。
直毛の前髪を自然に分けて、メガネの奥の眼差しは氷のように冷たい。
痩身の中背。
しかしインテリ臭さをのぞけば、涼し気な二枚目である。
それがナンブ・リュウゾウに面会を所望してきたのだ。
「どちらさまですかな?」
私が問うと、男は名刺を差し出してきた。
口利き みちのく屋総裁 ミズキ・タカシとあった。
「近々のうちに手が欲しくなろう、とうかがいましたのでな」
男は窓の外をアゴで差した。
人か魔か、と問いたくなるような、屈強な男どもが、窓の外で整列していた。
身分を表すかのように、みな野良着であった。
「ご覧の通りに、屈強な男どもが我が元に百から揃っております。剣も使えば柔も使い、相撲もいけます。御用あらばいつでも集まりますので」
私はすぐさま駄賃の交渉に入った。
もちろん高い。
ミズキ・タカシという男が仲介料を取るからだ。
しかし、百からという数を集めることを考えれば、安いものだ。
すぐさま我らが殿に話を持ってゆく。
「そうか、ならばクサナギ先生とカグヤに、腕前を確かめてもらおう」
算盤の話は、すべて私に一任してくれていた。
ありがたい話である。
まず表を見たクサナギ先生は、ほう、と感心したように言った。
続いて現れたシロガネ・カグヤも、うむ、と納得したようにうなずく。
この二人は見ただけで兵の強弱がわかるのだ。
その二人に事情を説明して、みちのく屋の兵どもの腕前を確かめたいと言った。
クサナギ先生が前に出る。
「リュウゾウ、親衛隊三十人と向こうの選抜三十人とで、一丁試合をしてみようじゃないか」
「よろしいのですか、クサナギ先生。ケガ人が出るのでは?」
親衛隊の剣術の稽古は、木刀を用いての型稽古が中心である。
試合となれば当然木刀である。
まともに撃ち合えばケガ人が出る。
「まあその辺りは、寸止め試合とすればいい。寸止めにしたところで斬れが鈍る連中でもあるまい」
寸止めとは言っているが、実際には稽古着あるいは衣は撃つ。
素小手もピシリという程度には撃つ。
完全な寸止めは、面に対する撃ちだけだ。
待たせていたみちのく屋総裁に、試合のことを伝えた。
審判はクサナギ先生にシロガネ・カグヤ。
それと剣術指南役のオキノという隊士。
さらには槍術指南役に柔術指南役。
つまり種目は剣術に槍術、そして柔術である。
さすがに槍は面小手を着けての突き合いになるが、柔術はほぼ禁じ手無し。
目突きと金蹴りだけが禁止というもの。




