伯爵令嬢イズモ・キョウカの麗しき学園生活
褐色の肌をしたルームメイトとともに校舎へ、そして教室に入ると席に着いた。
教科書やノートを机に入れていると、さっそくキョウカを取り囲む影があった。
「おはようございます、イズモさま。本日も良い朝で」
「おはようございます、アスカさま。ではごきげんよう」
「ちょ、ちょっ、ちょっと! 待ちなさいよイズモ・キョウカ!」
「いかがなさいましたの、アスカ・ワットさま?」
「人が朝の挨拶してんのに、とっとと逃げるんじゃないわよ!」
「ですがアスカさまとお話をしていても、機知に富んでいないというか、魅力に欠けると申しますか……」
「ハッキリ詰まらないっていいなさいよ!」
「暇つぶしにもなりませんの」
「ハッキリ言い過ぎよ、アンタ!」
「ハッキリ申せと仰ったのは、アスカさまですのに……」
「被害者ヅラしたってだめよ! アンタも伯爵家の娘なんだから、あんな特待生で入っただけの貧困層のコゲ茶色と付き合うのはよしなさいって言ってるじゃない!」
「ですがトヨムさんと一緒にいると、楽しいんですのよ? どこぞの爵位だけが取り柄な愚物と違いまして」
「キーーッ、馬鹿にしてーーっ!」
「あら、爵位だけが取り柄の愚物に、なにか心当たりでも? わたくしアスカさまが愚物などとは一言も申しておりませんわ」
「アンタのそーゆーところが嫌いなのよ!」
「わたくしがお嫌いならば、声掛けなどしなければよろしいでしょうに。それと、『愚者を友とするは生涯の負債』と申しますし」
「またアタシのこと馬鹿にしてーーっ!」
「こらこら、ワットさん。朝からイズモさんをイジメちゃダメだぞ?」
男子生徒が割り込んできた。
公爵家の御子息だ。
ちなみにアスカは伯爵家の娘である。
そしてトヨムは貧困層から学園の理事長がひろってきた特待生である。
ついでに言うとトヨムには名字が無かった。
しかし学園生活を送るのに不便ということで、便宜上フジヒラという姓が与えられている。
さて、割り込んできたのは公爵家御曹司だけではない。
ほかにも豪商の倅だの別な貴族の御曹司だの、わらわらとキョウカを取り囲んだ。
「キョウカさま、どうか今日こそ良いお返事を」
「キョウカさま、今朝は貴女を想い、詩を編んで参りました」
「キョウカさま、ようやく貴女に相応しいべっ甲の櫛が届きました」
これでもかこれでもかと、求愛の言葉を並べ立てる。
そこへ褐色の親友トヨムがもぐりこんで来た。
「やいやい男子ども、キョーカを困らせてっと、アタイが黙っちゃいないよ!」
身分お構いなしである。
当然だ。
彼らは貴族の子であって、貴族ではない。
そして彼らもトヨムと同じく、『学園に学ぶ者』でしかない。
そして恐ろしいことに、勉学運動、どれをとってもこのフジヒラ・トヨムに敵う者がいないのだ。
当然、実力のある者ほどトヨムに一目置く。
何を言ってくださるものかと、みんなトヨムに注目した。
「いいか男子ども、コイツをとっくと拝みやがれ!」
優しくとったキョウカの左手、その指に輝く指輪を示した。
「こいつぁ石こそ入っちゃいないが、まさに婚約の証! キョーカにゃもう決まった相手がいるんでい! 頭が高い! 控えおろーーっ!」
別に貴族の倅たちが控えなければならない理由は無い。
しかしこの教室の男子はみなノリがよかった。
ハハーーッと恐れ入って頭を下げ、机に手をついた。
「な、な、な、なんですってーーっ⁉」
一人恐れ入ってないのはアスカである。
キョウカの左手をとって、瞳孔が開くほど指輪に見入っていた。
「あ、アタシの女神が……アタシの憧れが……薄汚い男のモノに成り下がるだなんて……」
やっぱりこの娘も、どこかオカシイのだろう。
わなわなと戦慄くと、ひざをついてうなだれてしまった。
「で、フジヒラ。キョウカさまの婚約者とは、どちらの方で?」
「へ? アタイ知らないよ? 貴族や金持ちに知り合いなんていないからさ」
そりゃそうだ。
こんな身分の壁すら認識していない生き物に、そんな知り合いがいたら世界が崩壊してしまう。
ということで、キョウカ自ら口を開く。
「隣領のナンブ男爵さま三男、リュウゾウさまですわ」
オホホと上品に笑うが、男子としては納得できない。
自分は公爵家の者、そいつはグッと格下の男爵家。
それどころか、イズモの伯爵家よりも格下ではないか。
「なんでもさー、キョーカの婚約者さん、アタイに似てるらしいぞー」
そう言われて納得した。
褐色の怪物と二つ名を持つフジヒラ・トヨム。
これと似ているというなら、イズモ・キョウカが入れ込むのもわかる。
しかしナンブ・リュウゾウと聞いて、驚愕する者が一人。
ちょうど教室に入ってきた担任である。
「いいい、イズモさん。ちちちチミは今、ナンブ・リュウゾウと?」
「あら先生、おはようございます。わたくしの婚約者がなにか?」
「婚約者ーーっ⁉ あのナンブ・リュウゾウがっ⁉ あぁ、なんということか……教師生活二十五年、私の優等生があの原始人のもとへ嫁ぐだなんて……」
思わず神に許しを乞う担任教師。
それを見てフジヒラ・トヨムはのんきに言った。
「なー、キョーカの婚約者さんって有名人なんだなー」
原始人という単語に自覚は無いようだ。




