伯爵令嬢イズモ・キョウカの華麗なる朝
伯爵令嬢イズモ・キョウカの朝は早い。ダバダーダーダ ダバダーダバダー♪
全寮制の学び舎に通う彼女にとって、寮則で定められた朝は、あまりに早かった。
爽やかな朝の日差し、朝露に濡れる緑の中では、小鳥のさえずり。
そして寮内に響く、総員起しの声。
「朝だーーっ! 夜明けだーーっ! 総員起ーーしっ! とっとと布団をたため! 顔を洗えーーっ! もたもたするな、月月火水木金金!」
はれぼったい顔で身を起こしたイズモ・キョウカは、一人ボソリと呟く。
「うるさくて眠れませんわ……」
そしてまた布団にもぐりこむ。
「キョーカー、朝だぞ朝ーーっ! 早く起きないと寮母さんに叱られるぞーーっ!」
ルームメイトのこげ茶肌の娘が布団を引っ剥がす。
イモムシのようにまるまっているキョウカにかまわず、テキパキと布団をたたんでしまった。
そして半分夢の国にいるキョウカをファイアーマンズキャリアーで洗面所まで担いでゆくと、遠慮なく冷水を寝ぼけ顔にひっかけ、粗いタオルでゴシゴシこする。
今度はハイジャックバックブリーカーでキョウカを運び、運動着に着替えさせる。
もちろんルームメイトも一緒に着替えた。
半分死人のようなキョウカを背負って、寮敷地内を駆け足だ。
王立セロリア学園、身分男女学年を問わぬ日課である。
こげ茶肌の娘はキョウカを背負ったまま走る。
すると大量の黒い髪を結い上げたポニーテールの毛先が、キョウカの鼻をくすぐった。
「クチュン……あら、トヨムさん……もう朝ですの?」
「あぁ、起きたか、キョーカ。まだ寝ててもいいぞ」
「それでは……お言葉に甘えまして……」
駆け足のリズムに揺られながら、イズモ・キョウカは再び夢の世界へと旅立ってゆく。
キョウカの低血圧は学園でも有名であった。
元来が少食で、普通の生徒の半分も食事を摂ることができず、何を食べさせても体質の改善がみられない。
同室のトヨムに背負われての日課は、学園も半ば黙認という事態であった。
駆け足が終わり、食堂へ引きずられてゆくときも、立っている死人状態。
というか朝食の匂いを嗅いで「ウップ」とくる始末。
……今日も食は進みませんわね。
レタスのサラダをドレッシングで二枚。
それを紅茶で流し込んで、キョウカの朝食は終了。
相席のトヨムはキョウカの分のトーストまで牛乳で流し込み、サラダはボウルでひと鉢をペロリ。
サニーサイドアップ……つまり目玉焼きを五玉も六玉も平らげる。
そして肉。
朝は腸詰めをボイルしたものが出てくる。
この脂っこいのを皿に小山にしてムシャムシャといくのだ。
「朝は一日のエネルギーの半分を摂るんだ!」
というのはトヨムの口ぐせだったが、キョウカは知っている。
昼も夜も、同じカロリーの食事を、トヨムが摂っていることを。
これだけ食べるせいか、トヨムの体温は高い。
冷え込む季節になると、キョウカは添い寝を願い出るという、二人はそういう仲であった。
「なーキョーカー?」
キョウカが甘めの紅茶を口にしていると、トヨムの目が光った。
「いかがなさいまして、トヨムさん?」
「キョーカ、指輪してるな?」
「えぇ、実はこのたび婚約をしましたの」
「そうなのか? おめでとー、キョーカ!」
「ありがとうございます、トヨムさん」
「でもキョーカの婚約者は慌て者だな、婚約指輪って石を載せた奴だろ?」
「ふふっ、トヨムさん。石の無い指輪はわざと、婚約者さまが華美にならぬようと、気遣ってくださいましたのよ?」
「そっか、そーだよなー。アタイたち、まだ学生だもんなー。で、キョーカのハートを射止めた男って、どんなんだ?」
「そうですわねぇ、どことなし、トヨムさんに似ておりますわ」
「おおっ、ということは見目麗しい女性顔……」
「それを堂々と述べられるのは、トヨムさんと婚約者さまだけですわね♪」
「イヤなとこ似てるなぁ」
「それによく食べてよく働いて精力的、とても迫力のある方ですわ」
「アタイも迫力あるのか?」
「そりゃもう、法律と世の理が許すのでしたら、わたくし全財産を携えてトヨムさんの元へお嫁さんに押しかけますわよ♪」
「ってこたぁアタイ、お金持ちになりそこねたのか、チェッ」
などと言いながら、トヨムは笑っている。
通常の半分以下しか食べないキョウカと、常人の三倍以上食べるトヨムの朝食は、ほぼ同時に終わった。
自室に戻り制服に着替える。
キョウカは色白で線の細い身体つきであった。
トヨムも華奢で線は細いのだが、密度の高い筋肉が褐色の皮膚の下で熱を放っていた。
同じブレザーの制服、ネクタイの代わりに学年色の赤いスカーフを巻いて、学生鞄片手に部屋を出た。




