少年の心は『暗殺術』という言葉にときめく
私からすれば、忍者の活躍はいつもの通り。
しかし忍者というものを初めて見たであろうモミジやライゾウは、その鮮やかすぎる手並みに目をパチクリ。
ポカンと口を開けているしかなかった。
「よ、ヤハラさん。アンタにしちゃずいぶんと無鉄砲な真似したな」
「仕方ないさ、このモミジがなにも考えないで突っ込んでいくんだから」
「知ってる、見てたよ」
忍者は階段を降りてきた。
のされた山賊たちは、後続の警備部隊が取り押さえて縄をかけている。
呆けていたモミジが、我に返ったのだろう。
瞳をキラキラとさせて忍者に飛びついた。
「こんなに細いのに、すっごいすっごい! どうやったらあんなに強くなれるんだい? アタシにも教えておくれよ!」
忍者の秘術にすがりついて、いきなり教えてくれとは大したもんだ。
純朴というかなんというか……。
忍者の修行となれば、どんなことをさせられるかという、想像すらできていない辺りが、いやはやなんとも。
「いや、簡単なことだよ。肩甲骨を存分に働かせて体内に発生した波をそのまま相手にぶつけるのさ」
簡単に教えちゃうし。
というか今の理論、私にもわかりにくかったぞ?
「本当かい、忍者さん! それどうやってやるんだ?」
「真に受けるなよ、冗談だ」
モミジ、がっかり。
「しかし、簡単に出来るというのは嘘じゃない。誰にでも簡単に出来るから秘術。誰でも大男を倒せるから秘伝なんだ」
それでは途中経過は必要無いだろう。
「途中経過で秘術を授けるかどうかを見極めるのさ、ヤハラさん」
私の心を読んだかのように、忍者は言った。
「もちろんそんなロクでもない教えをするのは、ウチの流派だからかもしれない。カグヤンのとこじゃ途中経過を大切にするだろうよ」
まあ、星の数ほど流派があるのだ。
秘伝や秘術、極意の扱いもそれぞれということか。
しかし忍者の言う通り、誰でも簡単に極意が手に入るものなのだろうか?
家を一軒建ててくれれば、すぐに役立つ実戦的な極意を授けるぞ。
そのような触れ込みがあっても、私はそれに飛びつかないだろう。
何故かはわからないが、そんな気がする。
「そうそう、キッチリと足を踏ん張って。肩を回転させられるだけ回転させるんだ」
なんかもう、すでに教えてるし……。
しかしモミジではないが、本当に忍者の打撃力の秘密はどこにあるのだろうか?
その疑問をぶつけてみると、忍者は暗殺術だからさ、と答えた。
暗殺術……。
なんだろう、この少年の頃に帰ったかのような、懐かしいときめきは。
ひとたび技をふるえば冷徹無比、正確な技に秘密の香り。
いかなる相手も生きては帰れない。
そう、御都合主義とか魔法のような香りを放つ、自分に自信のまだ持てない少年期ほどその香りに引き寄せられる。
いや、大人であっても自信の持てない者、虐げられていると感じている者ほど魅力に惹き寄せられてしまう。
甘美な毒というなら毒。
ナンブ・リュウゾウたちの持つ腕力をもしのぐ、と夢見てしまいそうな、そんな夢見がちな者ほど虜にされる罠。
だが、私はナンブ・リュウゾウの軍師。
夢見る少年ではないのだ。
「忍者、実際にあるんだね。暗殺術なんてものが……」
私が訊くと忍者はキョトンとした顔。
「何を言ってるんだ? みんなやってるだろ?」
何を言ってるんだ? とはこちらの言いたいことだ。
みんなやってるとはどういうことだ?
「まさかヤハラさん、これが暗殺技、暗殺術でございと看板上げてると思ってるのかい?」
いや、いま忍者、お前が……。
「いいかい、ヤハラさん。これが暗殺術でございなんて伝えたら、すぐ他所にリークされるだろ?」
おいおい、自分の言ったこと棚上げかよ?
「本当の暗殺術ってのはね、普通の技、普通の技術体系の中に隠れてるんだよ?」
なんじゃそりゃ?
煙に巻かれたような私を、忍者はニヤニヤとしながら見ている。
「例えば居合、音も無く抜いて電光石火で斬り伏せて刀を納める。このとき気合いの声を出さなければ、立派な暗殺術だ」
「いや、しかし……」
「ヤハラさん、歴史上の人物。サカモト・リョウマを屠ったのは、居合だよな?」
「あぁ、そうだ」
「キヨカワ・ハチロウを斬った技は?」
「……居合だ」
「そう、みんながやってる居合だ。立派な暗殺技だろ?」
「いや、しかし……」
少年の見る夢から、強引に現実へ引き戻されたような気分。
「試しにカグヤンかクサナギ先生に訊いてみるといいさ。暗殺技を使えますかって」
「お前の首で試してやる、とか言われないだろうね?」
忍者は笑った。
「言われた言われた、昔ならな。でもヤハラさんは大将のお気に入りだからな」
それは、お気に入りでなければ首を落とされる、と?
「心配ない。目録以上で暗殺技のひとつも使えないようじゃ剣士じゃないって言われるだけさ」




