モミジのこと
あれだこれだと仕事に忙殺されているうちに、アヤコが帰って来た。
私は何か用か? などと間抜けなことを訊いてしまった。
「モミジなる娘のことにございます」
「そうか、そのようなこと、殿が頼んでいたな。して、調べはついたか?」
「はい、柳町界隈でたむろする若い者でした」
柳町というのは色街のことである。
「それで、用心棒のマネごとでもしていたか?」
「お察しの通り、とくにどこの組の盃を受けるでなく、自然と集まった次男三男の頭になっておりました、というやつで。柳町一帯の揉め事を処理しては、そちこちの店から小遣い銭を受け取っているそうで」
「何か言いたそうだな」
「街の女たちからの評判はすこぶるよろしいようです」
モミジを色街から引き抜くのは難しいかもしれない。
用心棒としてすっかり根を張っているからだ。
手元に置くならば、自警団全体をナンブ・リュウゾウの正規軍として迎えなければならないかもしれない。
そうなると自警団を囲うために、色街のタナオサ連中から運用資金を出してもらう必要が出てくる。
そこいらからの反発は必至であろう。
それならヤハラの手駒として、個人で金子を与えている方が安上がりかもしれない。
必要なときだけ使い、出費を最小限に抑える。
ブラブラしたならず者に違いは無いが、それくらいで丁度いいのかもしれない。
「それで、殿に対する忠誠心はあるのか?」
「はい、リュウゾウさま御自身が町でも人気のある方なので」
「よろしい、剣の腕は?」
「中ほどというところでしょうか。天神一流目録より上でなく、下でもなし」
「では一団全体で見て、どのように映った?」
「無頼の集団ではありますが、独自の道徳心である『仁義』を行動の基準としています」
「非道悪道には染まっていないということか」
「お家の名を汚すことは無いかと」
「参考になった」
そう言うと、アヤコは姿を消した。
色街の反発は必至であろうが、それでも色街専属の護衛集団とすれば、店長連中も金を出してくれるのではなかろうか?
一応、ナンブ・リュウゾウに話は通しておく。
「なんだ、ウチで囲うことはできんのか?」
「モミジ一人を雇い入れるならば、造作もありません。しかしモミジ抜きでは自警団が崩壊するものと察せられます」
「一団すべてを抱え込む必要があると?」
「是非もなく」
「交渉をまかせるぞ、ヤハラどの」
「難航した折には、私個人の手駒といたします」
ナンブ・リュウゾウは笑った。
「以前のヤハラどのからは考えられんな、子飼いなどとは」
「予想以上の多忙ですゆえ」
「果たして、それだけかな?」
「と、言いますと?」
「ヤハラどのも年頃ということさ」
そんな言葉は十二〜三の小僧に言ってくれ。
こちとらとうに成人している。
覚えたての小僧と一緒にされてはたまらない。
しかし、ナンブ・リュウゾウはニヤニヤと笑い続けていた。




