女談義
モミジという娘を見送りながら、一人思いにふけっていると、背後に獣のような気配がした。
振り返ると、ナンブ・リュウゾウがいた。
「なにかな、あの娘っ子たちは?」
「街のゴロツキどもで、小遣い銭稼ぎに来たようです」
「なかなかの美形だったな」
「モミジと言うそうで」
「ヤハラどのの子飼いかね?」
「今日初めて見る者どもでしたが、将来的には必要になる手かと」
「言うまでもないが、よくよく吟味してくれたまえ」
ナンブ・リュウゾウにしては珍しい。
彼は私が「こうしたい」と述べれば「よっしゃよっしゃ〜」としか言わない男だ。
それが今日に限って、身元をよく改めてから雇えと言う。
その理由をナンブ・リュウゾウは語る。
「いまのヤハラどのはメガネが曇っているからな」
「私のメガネですか?」
思わずメガネを改めた。
しかしよく磨かれていてピカピカである。
「そうじゃねえよ」
肉食獣が牙を見せつけるようにして、奴は笑った。
「いまの一団にゃ娘たちが何人かいただろ? それなのに俺が美形と言ったら、モミジとかいう娘一人を名指しした」
この野郎、いつの間にそんな知恵回すようになりやがった。
「なに、俺もキョウカどのに逢ってからは、少しくれぇ色恋に敏くなったのよ」
言いやがる。
それではまるで私が、色恋に初心か、情のひとつも理解できないカカシみたいではないか。
昨日今日、色を知ったようなサルに言われるとは、人としてお恥ずかしい限りではないか。
「事実であろう? 芸者にモテるのは俺かキサマか」
確かに、女を集めて飲んで騒いでをすると、ナンブ・リュウゾウの回りの女たちは、みな大喜びなのである。
この男は三男なだけあって、御曹司の威光はほとんど無い。
それでも女たちはナンブ・リュウゾウに集まってくるのだ。
私には酌のための女が着くだけ。
そりゃそうだ。
私と遊んでも女たちは面白くないからである。
飲んでいても頭は冴えている。
私はそういう男である。
遊んでいても心は仕事に残しているのだ。
なにもかも忘れて遊興三昧。
飲んで歌って騒いで踊って、ということはできない。
だがこの男は下ネタを挟んだ小唄のひとつも歌って、女たちを楽しませている。
遊興の雰囲気を作り上げてしまうのだ。
そう、そして配下の者たちには、「合戦近し」の雰囲気を与えている。
私を含めた「ナンブ・リュウゾウ配下一同」は、すべてその雰囲気の中で踊っている。
だからいまだ戦端開かれぬ今であるのに、合戦の支度に東奔西走しているのだ。
もしかしたら、戦さを引き寄せる悪魔の申し子なのかもしれない、この男は。
「聞いておるのかね? ヤハラどの。キミも少しは女の前でフンドシをほどき、八畳敷を広げるくらいでなければ、女との機微は掴めぬぞ?」
八畳敷というのは、男子のお宝袋というか、その皮のことである。
「お言葉ながら殿、殿が広げた八畳敷。ヤハラはこれを畳むに少々忙しうござる」
「俺はそんなにしょっちゅうキ○タマ袋を広げちゃいねぇぞ?」
ぬかせ、イズモ・キョウカに開け透けなところさらしてただろ。
あの小狸のこと考えただけで、鼻の下ぁ六尺も伸ばしてるクセしやがって。
「まあいい、アヤコ。アヤコはおるか?」
「は、これに」
「見ておったであろう、先の一団。あの中からモミジなる娘を調べて参れ。ヤハラどのの嫁に相応しいかどうかをな」




