ナンブ領地の次男三男
ナンブの武術は馬鹿じゃモノにならない。
私ヤハラはそう断言した。
ではナンブ領地、こと北領地に馬鹿はいないのか?
ズバリ言おう。
この土地の識字率は中央の学生時代に聞いたところによると、ズバ抜けて高いそうだ。
かなりの人間が読み書きのみならず加減乗除の計算ができるという。
それは代々の領主が学問に力を入れたせいか?
はたまた武術からの学問という考え方で、農民たちが学を欲したせいか。
ニワトリが先か卵が先かという問いにも近いこの疑問は、考察しても仕方のないナンセンスな疑問と言えるだろう。
とにかく、ナンブ領地の住民たちは頭がよろしいのだ。
頭がよろしいのに被支配者階級に甘んじていると考えるのか?
はたまた身分の低いものまで学をもっていると考えるか?
それは読者次第というところではある。
しかし前者と後者には大きな差があると言いたい。
自己責任という認識と自己尊敬という認識を持ち合わせているか否か、という点がある。
なんをどうして民がそのように育ったのか?
ナンブ領の民は異人種であるところから察するに、元からそのような教育を代々施されていたのではないかと私は考える。
とりあえずナンブ領やイズモ領地に住まう異人種の民は、妙ちきりんというかヘンテコな種族なのだ。
で、長男が家業を継ぐことが普通のこの世界。
次男三男や娘たちが何をしているかというと、小遣い銭を与えられて寺子屋に通うことは先に述べた。
寺子屋というと単純に「読み書き算盤」を学ぶ場所と考えがちであるが、職業訓練学校の一面もあること。
それも先に匂わせていた。
たとえば次男三男が大工になりたいとする。
そうすると大工道具の名前から覚えなければならない。
それを学ぶのが寺子屋でもあった。
そして次男三男が寄り集まって自警団を形成することも述べた。
より詳しく言うならばこの自警団、祭事や催し物におけるトラブルを解消するという役割もある。
つまり「ヤクザ」な働きもするということだ。
特にこのモミジとかいう娘たちの一団は、普段は遊郭、飲み屋街の影にひそみ、お楽しみ中のお客さんたちに御迷惑な輩をつまみ出すような役割をしていたりする。
とはいえ、そんな連中も「仁義」とかいう独自の、あるいは戦士階級の道徳観念を模したような価値観を行動基準にしたりしている。
故に徴兵の折には腕っぷしと度胸に自信のあるこういった手合いが、真っ先に応じてきたりする。
普段は「親分のために」と働いているところを「国王陛下のために」と文字をスルリと置き換えるのである。
そして今回は「男爵様のために」ということで銭の話は無いかと就職活動に来たのである。
こうした手合いは便利なものだ。
とりあえず私の私兵としておくのも悪くないかもしれない。
ということで部下に命じ木札を立てる材料を持ってこさせた。
それをモミジたちに与える。
木札には私が直接筆を取り、パレードの御触れ書きをしたためた。
北領地責任者、男爵さま三男ナンブ・リュウゾウがイズモ伯爵さま娘、キョウカさまと御婚約成立のこと。
そしてそれを祝し、ナンブ・リュウゾウによるパレードを行うことを記した。
「これを人通りの多い……そうだな、南北大通りの辻々に立ててまいれ」
そして駄賃を与える。
「足りるか?」
「こんなに貰えるのかい? よっしゃ、アタシたちにまかせときな!」
モミジという娘は一団を子分のように引き連れて出ていった。
仕事次第では私の子飼いから、正規に取り立てても面白いかもしれない。
しかしそれには素行の良し悪しも調査が必要だろう。
アヤコに探らせるのも悪くないだろう。




