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読むのが面倒くさいだろうけど読むとタメになりそうな回

さてここでモミジなる娘を通して、この世界この時代の庶民というものの生活を覗いてみよう。

まずはモミジ。

苗字は無い。


そして誕生日というものもはっきりとはしていない。

ただ、いつの年に生まれていまいくつかというのだけはハッキリとしている。

今年で十六になったばかりだ。


娘色つきの齢である。

それまでも母親が煮炊きや針仕事を仕込もうとしたのだが、どうにも性に合わなかったようだ。

幼少の折から兄にくっついて歩き、男の子たちと相撲だチャンバラだと、泥んこになって遊んでいた。


そして南領の山賊を例に挙げるまでもなく、この時代この世界では治安の行き届かない面があった。

農民たちはお役人の手を借りるまでもなく、自警団を組織するようになった。

豪農が後援者となり、剣術指南の者を村に抱え込み、ヤットウが盛んに行われるようになる。

シロガネ・カグヤの学んだ天神一流という剣術も、農村を中心に栄えた流派だ。


年頃となった兄とともに、モミジもまた剣術を習う。

性分に合ったのか、これには熱心になった。

天神一流は木刀を用いて型を中心に稽古する流派であった。


型を中心に稽古するのだが、型の中には流派の思想や勝ちへの法則が含まれていて、初伝から奥伝まで一貫したものである。

そのせいか天神一流では流派の思想、法則を「理合い」と呼んでいる。

その理合いは奥伝に近づくにつれてどんどん高度になってゆくので、型武術を「学問」と称するものまでいたくらいだ。


そして理合いは口頭でこれこれこうなっているのであれそれしなさい、などとは教えてもらえない。

自分で掴み取ってゆくものなのだ。

お金を払ったお客さんなのだから「理合いを売ってくれ」とはならない。


何故なら自分で努力して掴み取った理合いでなければ、「いざというとき役に立たない」からである。

いざというときというのは、当然のように実戦、合戦、戦さの場である。

その折に「役に立つ技」というのは、結局「死ぬか生きるか」という稽古で掴み取った技でしかない。


そのため天神一流は「お客さま」に優しくない流派と言えた。

しかし統治者が武張ったナンブ・リュウゾウである。

そのせいかよく栄えている。


天神一流は「通っていればいつのまにか強くなっている」という幻想は無い。

少し強く言うならば、考えることのない馬鹿では強くなれないのだ。

そしてこれは天神一流に限ったことではない。


ナンブ領北領地に根付いた剣術流派の特徴とも言えた。

もちろんナンブ・リュウゾウの学ぶ「南部無双流」、宗家クサナギ・シロウの教えもまた同様である。

私、ヤハラからすればあまり認めたくはないのだが、南部無双流免許皆伝のナンブ・リュウゾウは、馬鹿ではないということになる。


そして免許皆伝というもの。

ナンブの北領地における剣術流派に限って言えば、「免許技」……読者諸兄には「絶招」と言った方がわかりやすいだろうか?

流派の必殺技を皆伝えた、とされる者が免許皆伝とされている。


決して併伝武術の極意まで極めた者、という意味ではない。

そもそも併伝武術というものは何か?

流派の弱点を補うような安いものではない。


勘違いしてはいけない。

流派の弱点を補う武術を極めたなら、そもそも元となっている流派を学ぶ必要が無いではないか。

併伝武術は、剣を持たずに剣術の理合いを考えるために学ぶものなのだ。


剣を持たないことによって、剣の理合いを身につける。

考えろ、考えろ、常に剣を身に着けている訳ではない。

無手のときに剣の理合いで勝ちを納めるにはどうすればいいか?


無手のときに剣の理合いを活かすにはどうすればいいか?

ならば生きるにおいて、剣の理合いをいかに活用すべきか?

それを求められるから、剣術は学問なのだ。


武芸百般と言われる。

それはあれこれ手をつけてどれもモノにならないという例えだと、私は言いたい。

それよりも併伝武術に共通した理合い。

「絶対の一」を求めた方が確実に強くなる。


山賊を無手で取り押さえ、ヤクザ者を斬り殺したナンブ・リュウゾウと親衛隊を見て、私はそのようにかんじた。


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