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伯爵令嬢イズモ・キョウカとその評価

アヤコを側女のように従えて、イズモ伯爵令嬢キョウカが戻ってきた。

例の隈取はすっかり洗い落とされ、かわりにほんのりと薄化粧がほどこされていた。

紅をさした小さく薄い唇。


柔らかな温もりをつたえる頬。

こぼれ落ちそうなほど大きな瞳に長いまつ毛。

色素の薄い髪は毛先で自然と波打ち、細く柔らかな髪にボリュームを与えていた。


お人形さんのように可愛らしいというのは、このことである。

そしてナンブ・リュウゾウはその容姿に目を奪われていた。

しかし私にはその愛くるしさ、作り物のお人形さんにしか見えない。


隙の無ぇ女だな、コイツ。

私の第一印象である。

つまりまったく好ましくは思っていない。


これを奥さまとかなんとかなどとして頭上に持ち上げなければならないかと思うと、今から憂鬱である。

だが、あのナンブ・リュウゾウの嫁である。

他に嫁の口があるかといえば、三日で逃げ出すような娘しかおるまい。

だからと言って、コレかぁ……。


いいのかよ、大将?

大丈夫なのかよ、大将?

私は全然だいじょばないぞ。


というか、ダメだありゃ。

大将のヤツ、鼻の下六尺も伸ばしやがって、これから先のめくるめくような子作りを考えて、早くも妄想超特急してる顔だ。


「リュウゾウの野郎、金星捕まえやがったな」


見てくれだけで判断して、クサナギ先生はもらす。


「本当にそう思いますか、クサナギ先生?」


「まあ、少々お転婆なところもあるだろうが、なに、女のすることよ。笑って許してやらんでどうする」


さすがクサナギ先生、あの女の本質をしっかり見抜いてやがる。


「親衛隊長はどう見ますか?」


シロガネ・カグヤに話を振ったが、ノー・コメントということだ。


「クッ……私もあれくらい華奢に生まれておれば……可憐だな……」


女として本音が漏れていた。

しかしカグヤさん、貴女が剣も執れぬほど華奢であったら、殿は誰が守るんですか?

そして忍びのイズミはイズミで、「あの澄ましたおねーちゃん、ヒーヒー言わして転がしてみたいな」などと、インモラルな暴言を放ってやがった。


本当に、どうにかならんのか、このケダモノの集団は?

その中で一人、イズモ・キョウカの猛獣使いのような眼差しが気になる。

そして両家の仲が深まることで、伯爵さまも男爵さまも目を細くして喜んでいた。


「キョウカさん、今日はよくウチのリュウゾウめとの婚約を決意してくださいました。ナンブ家頭首としてお礼をもうしあげます」


「こちらこそ男爵さまには良いご縁をいただきまして、感謝の念に絶えませんわ」


「出過ぎたことをうかがいますが、キョウカさん。ウチのリュウゾウは粗野なばかりですのに、何故良縁数多なはずの貴女がコレを?」


「主に顔だよな?」


ナンブ・リュウゾウは抜け抜けと言った。

そしてゴツンと音がした。

ナンブ・リュウゾウは頭を押さえていた。


おそらくクサナギ先生の電光の拳が命中したのだろう。

そうでなければ野生動物のような勘を持つこの男。

簡単にゲンコツをもらう訳が無い。


そしてイズモ・キョウカも答える。


「主に顔ですわ」


チキショウ、笑いのツボを心得てやがる。

不覚にも茶を吹き出しそうになってしまった。

そしてこの女、シャアシャアと続ける。


「もちろん冗談ですわ」


「冗談かね、キョウカさん!」


「それ意外になにがある」


思わず声に出してツッコんでしまった。

両家の頭首ふたりは手を打って喜んだ。


「ですが男爵さま、ここから先は冗談ではございませんの。わたくしも学園内では、ずいぶん殿方に言い寄られておりますが、どの方もお山の大将。武力に長けた者は武力で家来を押さえつけ、富める者は金銭で人を使役し、身分ある者は爵位で人を集めるのみ。ところがリュウゾウさまはいかがでしょう。御家中の方々はすべてこの若君に忠誠を誓い、剣術のお師匠さままで手勢にくわわるなど、わたくし見たことがありませんわ」


さりげなく、私のことは外しているのか?

それとも御家中の方々の中に入っているのか?

イズモ・キョウカの演説は続く。


「これは即ち、リュウゾウさまの御人徳と察しまして、大変に興味深い方だとおもいましたの。嗚呼、わたくしもまた、この御人徳に惹かれるのでしょうかと思えば、むしろこのご縁、わたくしの方からお願いするべきだと思いましたの」


ダイレクトな女だ。

要するにナンブ・リュウゾウの武力に興味を持ったということか。

そう読んでいると、イズモ・キョウカは私を見た。


一瞬のことではあったが、目と目が合ってしまった。

イズモ・キョウカの眼差しは私を通り過ぎると、クサナギ先生やシロガネ・カグヤに向けられる。

人の心を読もうとする目だった。


ということは、この女の発言ひとつひとつに、何かを考えるだけで心を読まれるということだ。

しまった。

私の考えはすべて読まれたか。


人の心を読む妖怪を「サトリ」というそうだ。

そうなるとこの婚約、猛獣と妖怪の争いになるだろう。


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