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虎の檻

イズモの忍びとの邂逅は、意外なほどすぐに訪れた。

イズモ・キョウカはこれから先、ナンブの家に入る。

ということでナンブ・リュウゾウに仕える者として私たちが呼び出されたのだ。


算盤方として私。

親衛隊組頭としてシロガネ・カグヤ。

そしてナンブ・リュウゾウの剣術の師匠、クサナギ・シロウ先生。


さらに忍びのイズミ。

私専属となっているアヤコである。

そして伯爵さまはイズモ・キョウカの手の者としてカエデという忍びを紹介してくれた。


セミロングの黒髪をポニーテールに結い上げて、なかなかに可愛らしい。

なかなかに、というのは今ひとつ華に欠けているというところだ。

しかし忍びという職業からすると、イズミやアヤコのような特徴がある顔立ちの方が問題有りなのかもしれない。


ナンブ・リュウゾウにシロガネ・カグヤ。クサナギ先生にイズミにアヤコ。

それに対してカエデは一人。

明らかに緊張していた。

いや、冷や汗をダラダラと流している。


「虎の檻ですか、ここは……」


カエデがポツリともらす。

本音だろう。

私だってこの面々が他家勢力に揃っていれば、猛獣の檻に入れられた気分になるであろう。


というか、この顔ぶれを前にしたら即死する自信がある。

むしろこれは死刑執行の宣言なのでしょうか? と問うだろう。

それほどまでにみなぎっている連中なのだ。


もしくは濃い連中なのである。

少なくとも見合い成功、婚約成立というめでたい場に揃えるべき面子ではない。

しかしナンブもイズモも貴族。


両家の仲を取り持つためには手の内をさらさなければならないのである。

そしてイズモ伯爵は、この凶悪な戦闘集団の頭目たちを見て、さすがに気後れしたようだ。

当然である。


ナンブの面々は、すべて腰のものに血を吸わせている。

私が思うに、人間ひとりの命を奪うというのは、簡単なことではない。

はっきりと言ってしまうと、どこかが狂っていないとできない所業だと考えている。


いかにこの時代。

このような世界とはいえ、それをやすやすと成し遂げて涼しい顔をして座っているのだ。

忠誠の証あらば。


俺にだってできる、などと考えるのは早計だ。

人の命を奪ったあとで、「人を斬らんでなんの剣術よ」と平気で言うことができるのがこいつらなのだ。

良心の呵責なく、死んだ者を振り返ることなくだ。


それは同時に、「もしかしたらあの時、立場が逆になっていたかもしれない」ということをありありと想像できて、そうならぬよう日々の鍛錬に励んでいるのだ。

明日死ぬのは俺だ。

だが貴様の刃ごときでは、まだ死ねない。


矛盾する二つの考えを身体ひとつの中に押し込んで、「武」の一文字で矛盾を矛盾でなくしてしまっている。

だからこいつらには迫力があるのだ。

必死と必殺を身体ひとつの中に秘めている。


死という概念を日常としているのだから怖いのだ。

死がとなりにある者を、想像していただければわかるだろう。

それでいてヒネることなく、イジケることなく堂々としているのだから、改めて考えてしまう。


こんな連中の中でよくやってるな、私……。


そうこうするうちに、妖怪のような化粧を落としたイズモ・キョウカが戻ってきた。


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