呉越同舟
とりあえず、無事婚約は成立したようだ。
野蛮人という名のろくでなしと、商人という名のろくでなしの婚約である。
どう考えても、割を食う未来しか、私には思い浮かばない。
しかしナンブリュウゾウは喜色を浮かべている。
素のツラが人斬りのような目をしているので、そうは見えないだろうが。
折よく、アヤコが両家の頭首を連れてきた。
「お父さま、わたくしナンブ・リュウゾウさまと結婚いたしますわ」
「そうかキョウカ! しかしお前、その奇っ怪な化粧は落としてきなさい。リュウゾウくんもそろそろお前の素顔を知りたいだろうからな」
「はい、お父さま。男爵さま、少しお水をお借りしますね」
アヤコの案内で、イズモ・キョウカは奥へと姿を消した。
伯爵さまは、苦笑いでその後ろ姿を送った。
「よ、ヤハラさん」
大将付きの忍び、イズミである。
「アヤコに調べさせてたよな。伯爵が愛娘をサルの大将にくれてやる気になった理由」
そうだった。
あまりにアクの強い二人の婚約話に、ついつい忘れていた。
「して、その理由とは?」
「ナンブ・リュウゾウの武勇と商才に入れ込んでいるのが表の理由」
「私が入れ知恵した、箱詰めの農作物だな? それで、裏の理由は?」
「あちらの領地も問題はあるようだ。治安の乱れに無能な息子たち。北領地の山賊退治やヤクザ斬りが再現されそうだぜ」
「そうなのか?」
「あぁ、伯爵さまとあの娘っ子の商いが上々だからなんとかなっているが、倅どもがなっちゃいねぇ。くわしいことは直接向こうに出向かないとわからないが、そうとうイヤな感じだぜ」
「警戒しておこう」
なるほど、ウチの大将は伯爵家の膿を押し出すための特効薬、というところか。
しかし男爵家に比べれば、伯爵家というのははるかに王室に近い。
ここで雲を掴めば、あのサル……ではなくてナンブ・リュウゾウ。
まだまだ高みに昇ることができそうだ。
本音を言えば欲をかきたいところだが、あのタヌキ娘である。
そう、イズモ・キョウカだ。
あれを懐に入れてしまった以上、なにかと問題が生じる。
出世の機会と難題が、同時に手に入るという、なんとも奇妙な状況だ。
とりあえず、軍略というものは情報を集めるろころから始めるものだ。
そのためにも、なんとかあのタヌキの尻尾を掴みたいところだ。
「それなら、あのタヌキにも忍びがついている。紹介してやろう」
「敵の忍びと顔合わせか? おいおい」
「ヤハラさん、敵というのは間違っている。お互いに目的は同じなんだぜ」
ほう? 向こうもナンブ・リュウゾウを押し上げたいのか?
「ナンブ・リュウゾウに嫁ぐんだ。それくらいは考えているだろう」
一蓮托生、相乗りはメスのタヌキ。
しかも舟はナンブ・リュウゾウ丸。
あちこち穴だらけな舟だ。
これを先々の大戦という荒海で、どのように乗りこなすか?
それは船頭である私の腕にかかっている。




