なぜおちる
さてこのトンチキ娘、何故これをサルの元へ嫁がせる気に伯爵はなったのか?
その辺りを調べるよう、アヤコを呼び出して尾行させる。
そして視線はうちの大将へ。
「さてキョウカどの、イズモの伯爵さまは商いに強いと言われておる。そなたも商いには敏いのかな?」
「遊ばせていただいております……」
「なるほど、いけぬ口ではないと。それは頼もしいな」
何を言い出すのだろうか? という顔に見える。
正確には隈取のせいで表情は読めない。
しかし「小首を傾げてるな」というシロガネ・カグヤの解説でそれと知れた。
おそらくは日焼け顔の野蛮人が、商いを語り出したことに疑問を感じているのだろう。
そして格下の野人が何を語り出すか?
そこに興味を示しているように見えた。
「頼もしいと申しますと、リュウゾウさまは何か商いのご予定でも?」
「なに、獲らぬ狸の皮算用さ。名物を拵えれば、客の呼べそうな土地がありましてな」
「リュウゾウさまは商いがお上手ですから、わたくしなど居らずとも成功することでしょう」
「商い上手? 俺がかね?」
「イズモではナンブの括りイモと名を売っておりますが。農産物を同じ重さで箱詰めになさったのは、リュウゾウさまでしょう?」
「あれは俺のとこの知恵者がやったことさ。俺じゃない」
馬鹿だなぁと、私は舌打ちした。
あんなアイデア、自分の手柄にしてしまえばいいのに。
せっかく伯爵令嬢が興味をしめしてくれたんだぞ。
乗らないでどうする?
「ずいぶんと正直者なのですね、リュウゾウさまは」
「俺はもそっと大きな仕事をしたい。ナンブの領地を富ませて、王国を栄えさせて、男爵家ここにあり!
というところを示したいのだ。そのためにも今はまだ、正直者でなくてはならん」
「貴族社会では長生きできませんわよ?」
「そんときゃそんときよ。親父どんも国王陛下も、俺のことを必要としとらんのだろ」
「というか、リュウゾウさまを亡き者とするには、そうとうな兵隊を動かさなければなりませんわね。剣の上手ということもお聞きしてますわ」
「なんかやったか、俺?」
いまさら何コイたもんだか。
心当たりが無いなどとは言わせないぞ、コラ。
「ナンブさまの南領地では、得物も用いず凶暴な山賊をことごとく生け捕りになさったとか」
「あれも軍師どんの働きじゃ。素手でも勝てるように仕立ててくれた。商いもそうであろう、キョウカどの。商いで成功するには成功するだけの仕込みと見立てをして、それから取り組むのではないのか?」
イズモ・キョウカは口を「Oh……」という具合に開けた。
サルが人語を発したときのような表情だ。
「いかがなされたかな、キョウカどの? サルのごとき野蛮人が人間らしい口をきいて、驚かれましたかな?」
「意地悪な方ですわね」
「伯爵家の娘が男爵家に嫁ぐ話だ。大上段に構えることは仕方ない。これは当然の読みなので、俺は意地悪などではない」
「そうではありませんわ。わたくしの底意地の悪さを知っていて、丸裸で飛び込んでくるんですもの」
「俺はいつもこうだ。そして女たちには見向きもされぬ」
「そりゃそうでしょうよ、とても扱いきれませんわ。わたくし以外の女には、ね」
「それでゃキョウカどの」
「婚姻を前提に、お付き合いくださいませ。リュウゾウさま」
「まったく、馬鹿には賢い者がついてくるのぅ」
いや、本当にいいのか、ナンブ・リュウゾウ。
その女、まだ隈取の化粧を落としていないぞ。
いや、容姿の心配ではない。
お前に素顔をさらしていない。
本性を現していないところが問題なのだ!




