ナンブ・リュウゾウの見合い話
仕事を終えて飲んで遊んで意気軒昂。
存分に英気を養った翌日、次兄どののお屋敷へ仔細を報告に行く。
しかしその前に、私は大将をはじめとする親衛隊諸兄にひとこと注進しておいた。
「いかにボンクラな次兄さまであっても、周りを固めるのは老獪なジジイ連中。どこに兵を隠しているやもしれませぬ。ご油断無きように」
この頃では私もずいぶんと信用されるようになってきたようで、親衛隊士全員が気を引き締めてくれた。
ただし、これは嘘も方便というやつで、実際には兵を隠しているなどということは考えていない。
こうした緊張感、あるいは殺気というものを前面に押し出してゆけば、腕力に弱い年寄り相手だ。
話し合いも上手く行くというもの。
お屋敷には、全員で入ることができた。
ただし、次兄どのの執務室へ入室が許されたのは、私と大将だけ。
もちろん兵などどこにも隠れてはいない。
老人たちは繋がれていない虎でも見るような目で、大将ナンブ・リュウゾウを見ていた。
そして大将からの報告を、冷や汗を拭いながら聞いている。
事の仔細を話し終え、男爵さまが心を痛めていると締めたところで、詰めていた息をどっと吐き出した。
「兄上、お館さまがお心を痛める前に、この愚弟に御相談くだされ。なにを差し置いても駆けつけますゆえ」
「うむ、大儀であったな。リュウゾウ」
これだけであった。
もうさがっても良いという。
謝礼を出すなどという頭は、この次男坊どのには無いようだ。
退室したところで、年寄り連中が取り巻いてきた。
謝礼を出すという。
私は固く辞退した。
あくまでもこれは男爵さま御指示。
次兄どのの配慮でも、老人どもの気配りでもないというところを明確にしたいのだ。
つまり、東領地はすでにボンクラに堕していると、男爵さまに報告を上げたいのである。
そう簡単な話でもないが、上手くいけば東領地もナンブ・リュウゾウにまかせてもらえるかもしれない。
まあ、そうそう上手くいくものではないが。
ということで、東領地を辞して男爵さまの元へ。またまた凱旋である。
ところがお館さまのお屋敷で、まったく予想もしていない客人が私たちを待っていた。
お館さまのところへ着くと、報告や謝礼金の受け渡しもそこそこに、親衛隊士全員が風呂に入れられた。
旅の垢をおとしてサッパリしていると髪結いが現れ、遠慮も説明も無くバッサリとやられる。
戦闘と旅で乱れていた大将なども、髪油でカッキリとオールバックにされて、どこの御曹司かと見間違えるほどであった。
しかしどれだけ身なりを整えても殿は殿。
野人のように日焼けした顔は、とてもではないが貴族には見えない。
そして褌やら襦袢やらと、とにかく新品でまっ更なものが届けられる。
なんとその上、長袴に裃である。
なんでこんな貴人みたいな格好させられるんでい、とボヤく殿に、アンタ貴族の子じゃん、とツッコミを入れておく。
普段の差し料はとりあげられ、長物の脇差だけが与えられた。
「……軽いな、竹光か」
かなり不満な様子だが、私はこれで貴族の誰かと遭わされるのだな、と考えた。
貴族同士の会見に刃物は不要だからである。
なに、殿が刃を身に帯びずとも、素手でもかなりの殺傷能力があるのだ。
人間凶器そのものである。
そしてその身辺を警護する親衛隊たちは、差し料を奪われなかったのだ。
そして男爵さまお付きのじいさまが、威厳を保った態度で私たちに告げる。
「男爵さま御子息リュウゾウさまは、これより貴人と遭われます。警護の者どもは過ち無きよう厳重に見張るように」
「殿……あ、いやリュウゾウさまはどちらで会見されますか?」
「そちらの庭園にございます」
「私、ヒロ・ヤハラはリュウゾウさまの右腕と自任しておりますが、同席は許されましょうか?」
「ヤボな野郎だねぇ、お前さんも」
厳格な老人は急激に親しげな口調になった。
「庭園で貴人と遭うったら娘御相手に決まってんだろ? あのサルもいい年頃なんだ。見合い話のひとつも湧いたっていいじゃねぇかよ」
ほ?
見合いとな?
ナンブ・リュウゾウが?
北領地の戦さ屋が?
できるのかよ、嫁取りなんぞ。
ってかいるのか? あれに嫁ぐ娘が?
「なんと喜ばしいことに、男爵家というのに伯爵さまから娘御を授かるというのです。くれぐれも粗相の無いように」
「でしたらなおのこと、このヤハラが側におらねば!」
「ポッと出の若造が一丁前の口きくんじゃねぇや! サルの躾なら、俺っちの方に年季があらぁ!」
チッと舌打ちしたが、じいさまの言う通りだ。
ここは庭園警護の配置に専念しよう。
しかし、私の持ち場は当然のように、かぶりつきの砂かぶり席である。




